16日に開幕した車いすバスケットボールの世界選手権。大会3日目の18日(現地時間)、日本はグループリーグ第2戦でトルコと対戦。前半はなかなかシュートが決まらず苦戦を強いられたものの、後半に入って徐々に攻撃にもリズムが生まれ、得点を積み重ねていった結果、最後は粘るトルコを振り切り、67-62で接戦を制した。
試合終了を告げるブザーは、また一つ、日本の車いすバスケットボールの新たな歴史が刻まれた瞬間の訪れを告げるものだった――。
前日の初戦と同じく、香西宏昭、豊島英、秋田啓、宮島徹也、岩井孝義のラインナップをスタメンに起用した日本だったが、この日の出だしも、なかなかシュートを決めることができず、トルコにリードを奪われてしまう。しかし、得点は1Qで5点差、2Qで6点差と、決して引き離されはしなかった。その最大の要因は、やはりディフェンスにあった。
「リードされていても、焦りはなかった」というキャプテン豊島は、「前半も時折、プレスをしかけた時には、向こうの動きが止まってボールを運べなかったりするシーンがあって手応えを感じていたので、これを最後までやり続ければ、点差は縮まっていくはずと思っていた」と語る。
最も大きかったのは、高さのあるエースにインサイドで好きに仕事をさせなかったということだ。代わりにローポインターにカットインプレーで得点をされてしまったものの、それは日本にとっては試合中に十分に修正できるものだった。
「勝負は後半にある」
そのことが、チームの中で共有されていた。
23-29と6点のビハインドで試合を折り返すと、続く3Qでは前半の5分で一挙13得点をたたき出した。さらに中盤には古澤拓也の今大会初のスリーポイントが決まり、39-38と、ついに逆転に成功した。だが、トルコも引き離されまいと必死に食らいつき、結局45-45の同点で最後の4Qを迎えた。
その4Qでは特に若手の活躍が目立った。この試合最多得点の秋田をはじめ、古澤のスリーポイントも相手を突き放す効果的なタイミングで決まった。また、終盤にはトルコに流れがいきかけたところで、香西がフリーの状況にいた川原凜へとパスを出し、それを川原がベースラインから見事にミドルシュートを決めてみせた。
一方のトルコは、試合終盤になるにつれて、イライラ感をあらわにし、集中力を欠いたプレーが多くなっていった。時にはレフリーのジャッジや日本のプレーに対してブーイングする観客をあおるようなしぐさをする場面も。逆に自分たちがアンスポーツマンライク・ファウルを何度も取られ、日本にフリースローを与えるなどして、自分たちで嫌な流れをつくっていった。
しかし、さすがは欧州チャンピオン。最後まで執拗な粘りを見せる。残り1分を切ったところで、トルコは相手ファウルで得たフリースローを2本ともに決め、3点差とした。スリーポイント1本の差は、追う側にとっては十分に逆転できる可能性を持っていた。
そんな中、この勝負に決着をつけたのは、秋田だった。残り7秒でファウルを受けた秋田は、フリースローを得る。すると、フリースローラインで秋田は一度、天を仰ぐしぐさをした。それは重くのしかかったプレッシャーを取り払い、集中しようとするかのように見えた。そして、スタンドから聞こえるトルコの大応援団のブーイングをかき消すかのように、秋田は2本ともにネットに沈めてみせた。
これでスコアは67-62。残り7秒で少なくとも2本のシュートが必要となるこの点差は、日本を勝利に導くのに非常に大きかったといえる。結局、そのまま日本がリードを守り、ゲームセット。及川HCによれば、公式戦でトルコに白星を挙げたのは、日本の車いすバスケ界史上初のこと。現在、欧州チャンピオンに君臨するトルコに、アジアの日本が勝利を収めたという事実は、車いすバスケ界において世界を震撼させるものだったに違いない。
だが、当の本人たちはいたって冷静だ。「まぁ、相手が嫌がっていたのはわかっていたので、あとは自分たちだけだなと思っていました」と及川HCが語れば、古澤も「僕たちはあくまでもベスト4以上が目標なので」と、欧州チャンピオンに勝った余韻に浸る気配は微塵も感じられない。だが、そこにこそ、日本の強さがうかがえる。
大会前に選手の誰もが語っていた「自信」と「手応え」。それはまさに世界に通用する“本物"だったことが、この試合で証明された。
これで連勝を飾った日本は、大会5日目の20日、10時05分(日本時間20日17時05分)からグループリーグ最終戦でブラジルと対戦する。
(文・斎藤寿子、写真・竹内圭、峯瑞恵)