4年に一度の車いすバスケットボールの世界選手権。大会5日目の20日(現地時間)、日本はグループリーグ最終戦でブラジルと対戦した。今大会初めて1Qでリードを奪ったが、2Q以降は逆にリードを許す展開に。最後はフリースローを確実に決めたブラジルに逃げ切られ、61-69で敗れた。
「自分たちの力を100%出し切らなければ、どこにも勝つことはできない。ミスをすれば足元をすくわれる。我々はそういうチームなんです」
及川晋平HCのこの言葉が、すべてを物語っていた。
初戦のイタリア戦に続き、グループリーグで最も厳しい試合と思われた欧州チャンピオンのトルコにも逆転勝ちを収めた日本。もちろん狙うは3戦全勝でのグループリーグトップ通過。試合前のチームのモチベーションについて、キャプテンの豊島英はこう語った。
「トルコ戦までの勢いを消さずに明日からの決勝トーナメントに向かうためにも、今日の試合を必ず勝とう。そうチームで話をしていました」
その言葉通り、最初の得点で「これぞトランジションバスケ」という攻撃を見せた。ディフェンスリバウンドからオフェンスへと切り替え、相手の守備が整わないうちに香西宏昭が巧みなチェアスキルでインサイドに切り込み、そのままレイアップシュート。そのプレーに、幸先いいスタートが切れたかのように思えた。ところが、それ以降はパスミスが続き、なかなか得点が伸びなかった。
「日本の良さは出ていたが、それが連続して出せなかったことで、チームに勢い、流れを引き寄せることができなかった。チーム全体がトーンダウンしていたのは、コートの中にいても感じていた」と豊島は語る。
一方、日本がリズムに乗り切れない中、ブラジルは日本の好守備に苦戦しアウトサイド一辺倒の攻撃とならざるを得ない状況ながらも、ハイポインターのミドルシュートだけでなく、ローポインターもスリーポイントを決める。ブラジルは2Qで21得点を挙げ、29-24とブラジル5点のリードで試合を折り返した。
イタリア戦、トルコ戦でも前半にリードを許した日本だが、両試合ともにさまざまなラインナップを試す中で、その試合にマッチしたラインナップや、流れを変えるキーマンなど、手応えのある打開策を見つけた状態で後半に臨んでいた。それが逆転勝利に結びついた要因の一つとなっていた。
しかし、この試合は様子が違っていた。「前半に選手を替えていく中で、どこをどうすればいいのか、試合の軸となるものが見つからなかった」と及川HCも苦しい胸の内を明かした。
そんなチームが苦しい状況の中、3Qで孤軍奮闘の活躍を見せたのが香西だった。立て続けにミドルシュートを決めると、中盤には鳥海連志のスチールからのカウンター攻撃でレイアップをしっかりと決めた。さらに終盤には自らドライブでインサイドに切り込み、巧みなフェイントで相手守備をかわしてシュートを決めるパワープレーを披露。3Qでは19点中、1人で10得点をマークした香西は、この試合、唯一の2ケタ、20得点を叩き出した。
しかし、勢いに乗りかけたところで、パスのタイミングが合わないなど、チーム全体にミスが続いた日本は、最後までリズムに乗り切れず、流れを引き寄せることができなかった。
その一方で、グループリーグの最下位が決定していたブラジルは、いい意味で肩の力が抜けていたのか、日本のプレスディフェンスを破って得点を挙げるなど、動きにキレがあった。
試合終盤、大事なところで今大会初の3Pを決めた鳥海連志
そして、最後に勝敗を分けたのは、ブラジルのフリースローだった。4Q残り1分で2度、日本のファウルで得たフリースローをエースがすべて決めてみせたのだ。日本も鳥海のスリーポイントなどで猛追するも及ばず。今大会初の黒星を喫した。
相手にやられたというよりは、自分たちのミスで崩れたゲームだった。だからこそ、悔しさが募っているに違いない。
「決していい形ができていないわけではない。ただ、最後が決められていないだけ。あとは自分たちのパズルのピースをどう合わせていくか、どう修正していくかどうか。選手はみんな、それをわかっているし、自分たちの力がないとは思っていない」と及川HCは語る。
敗戦を糧に決勝Tを戦い抜くと誓ったキャプテン豊島英
そして、キャプテン豊島は、この敗戦を決して無駄にはしないことを誓った。
「今日の負けというのは、ある意味、良かったのかもしれない。これでチームが引き締まるはず。今日の反省をいかして、明日以降、戦いたいと思います」
グループリーグを2勝1敗とした日本は、勝率で並んだイタリアとの直接対決に勝利しているため、トップ通過が決定。明日、大会6日目の21日には決勝トーナメント1回戦でスペインと対戦する。
負ければ終わりの過酷な戦い。いよいよ「ベスト4以上」への“本番"の幕が開く――。
(文・斎藤寿子、写真・竹内圭、峯瑞恵)