4年に一度の車いすバスケットボールの世界選手権。大会6日目の21日(現地時間)、日本は決勝トーナメント1回戦でスペインと対戦。リオデジャネイロパラリンピック銀メダルチームから、日本は1Qでリードを奪うも、2Q、3Qは日本のシュートがゴールに嫌われ続けた。それでも4Qでは15点差を同点にまで追い上げた日本だったが、最後はわずか2点差の50-52で敗れた。
この日から決勝トーナメントが始まり、「ベスト4以上」という目標に向けての“本番"が幕を開けた――。
相手は、ヨーロッパの強豪スペイン。高さでは日本を圧倒的に上回る。2年前のリオデジャネイロパラリンピックではグループリーグで対戦し、39-55と2ケタ差で敗れている。そのスペインに対し、日本は高いチェアスキルを駆使した守備で圧倒し、1Qは14-10とリードを奪った。
この1Qで“復活ののろし"をあげたのは、チーム最年長の藤本怜央だ。残り2分半でコートに立った藤本は、そのわずか10秒後、自らの存在を示すかのように、ゴール下でのタフショットを力づくでねじ伏せてみせたのだ。バスケットカウントで得たフリースローも鮮やかに決めた藤本。“眠れる獅子"が目覚めた瞬間だった。
ところが、試合の流れが一転したのは、2Qだった。3分過ぎ、古澤拓也が速攻からレイアップシュートを決めて以降、日本のスコアはピタリと止まった。ようやく村上直広がフリースロー1本を決めた時には、電光掲示板の時計は残り3分となっていた。結局、2Qでの日本の得点はわずか5得点。スペインの守備に苦戦したわけでも、攻撃の形が作れなかったわけでもなかった。ただただ、シュートが入らなかったのだ。
続く3Qも嫌な流れは、ほとんど変わらなかった。なんとか2ケタの10得点を挙げたものの、試合の主導権はスペインにあり、29-44とその差は15点に広がった。スタンドの観客は、誰もがスペインの快勝を予想していたに違いなかった。
だが、日本チームだけは自分たちの逆転を信じてやまなかった。15点という点差にも「まったく不安も焦りもなかった」と及川晋平HC。それは選手たちも同様だった。その背景には、積み上げてきたメンタルの強さがあった。それをリオ前からチームを見てきた田中ウルヴェ京メンタルコーチはこう説明する。
「選手一人一人が、弱い自分も強い自分も、ちゃんと知って認めるということができるようになりました。だからこそ、相手のことも知ろうとするし、本当のことが言い合える仲間としての意識が高まったんです。だから、あんなに点差が離れてても、一生懸命なんとかしようとする。一人でやろうとするんじゃなくて、みんなでやろうとする。そういう力は、リオ前にはなかったもの。この2年間で彼らが積み上げてきた成果です」
それが4Qのプレーにはっきりと映し出されていた。2分過ぎ、それまでゴールに嫌われ続けていたことが嘘であるかのように、日本の怒涛の攻撃が始まった。香西宏昭がベースラインからの鮮やかなミドルシュートをネットに沈めれば、鳥海連志はカウンターからのレイアップシュートを決める。さらに豊島英はフリースローを2本ともに確実に決めてみせた。
そして、極めつけは藤本。スペインのハイポインターの厳しいマークにあいながらも、藤本はティルティングで高さを出し、ベースライン際からのタフなミドルシュートを見事に入れてみせたのだ。
「今日は考えすぎてモヤモヤしていたことを吹っ切って試合に臨めたことで、自分らしさが出たんだと思います」と藤本、前日までの鬱憤を晴らすかのようなパワフルなショットで、日本はついに同点に追いついた。
残り時間は3分。一気に逆転にもちこみたい日本だったが、さすがはリオの銀メダルチーム。すぐに勝ち越しのシュートを決め、逆転を許さない。日本も相手のターンオーバーからのカウンターで香西がレイアップシュートを決め、再び同点に追いついた。しかし、今度はスペインのミドルシュートが決まり、またも日本は2点のビハインドを負った。
残り時間は23秒。日本は相手に時間を与えず、同点あるいは逆転を狙い、スペースを広く使ってギリギリまで時間を費やしながらシュートチャンスを狙った。そして最後にシュートを放ったのは、やはりエース香西だった。延長戦へと持ち込む同点シュートを狙った香西だったが、ボールはネットに吸い込まれることなく空を切った。そのボールがコート上に落ちる寸前、ゲーム終了のブザーが鳴り響いた――。
これで日本の「ベスト4以上」への道は絶たれた。しかし、決して下を向く必要はない。日本の強さを世界に知らしめたことは確かな事実。あとは最後の順位決定戦を勝利で終えるのみだ。
(文・斎藤寿子、写真・峯瑞恵)