インドネシア・ジャカルタで10月6日に開幕したアジアパラ競技大会。2日目に行われた水泳のS11〜13クラス男子400m自由形に富田宇宙(S11/日本体育大学大学院)が出場した。自身がもつアジア記録には及ばなかったものの、決勝で4分34秒31をマークし4位となった。
「だいぶスローペースな予選でしたが、今大会は予選と決勝でそれぞれレースを展開させていくことを意識していました。決勝でしっかり記録を伸ばすためにも、予選で力みすぎないようにすることも大事だと。とくに今大会は滞在先とプールとの移動時間が長いため、休憩できる時間が限られる。無駄に体力を使ってはいいけないと思っていたんです」
今大会、出場人数が少ないクラスは統合されてレースが行われている。富田が出場した400mもその一つだ。視覚障害のS11〜13の選手が一斉にスタートする。順位、結果はクラスに関係なくタイムで決まる。視覚障害の中で最も重いクラスであるS11の富田にとって、不利なレースであることは否めない。
「一緒にレースする機会の少ないレベルの高い選手たちと競えたことは、いい経験になりました。金メダルを獲得することよりもどれだけしっかり自分の力を発揮できるかの方が重要。その意味では、アジアパラという大舞台で、ある程度実力を出せたことはよかったと思っています」
視覚障害の選手にタッチのタイミングを知らせるタッパー
パラ水泳を始めた当初はS13クラスだったが、視力の低下に伴い2017年、S11クラスに変更となった。しかし、富田はS11クラスの400m自由形で次々とアジアパラ記録塗り替えている。
躍進の要因は日本体育大学大学院に進学し、オリンピック選手を多数輩出する水泳部に所属したこと。レベルの高い選手と同じメニューをこなし、競技に対する姿勢に刺激を受けてきた結果である。さらに大学院でコーチング学を学び、それを競技に生かしてきたことも大きいと語る。
最新のアジア記録4分33秒71をマークしたのは、9月23日にジャパンパラ競技大会で行われた400m予選でのことだ。
「ジャパンパラの結果から、自分の泳ぎで新たにチャレンジしていることがありますが、2週間で適応できなかったのが、今回わずかに自己ベストに届かなかった要因です」
スタートやターンの後にドルフィンキックを入れるが、この蹴りだしのタイミングがワンテンポ早いためスピードロスにつながっていることが判明したという。
「しっかり蹴伸びして、キックのタイミングを少し我慢する。それを意識して、今大会には臨んでいます。とはいえ、レースとしてはぶっつけ本番になってしまった。今後、それをなじませていきたいと思っています」
足踏みしているわけではない。ただひたすら、2020年東京パラリンピックでの金メダルを、そこでの自己ベストを目指して、邁進する。富田は、進化の過程の真っ只中にいるのだ。
(文・宮崎 恵理、撮影・岡川 武和)