中国の高い壁の上を越えるようにシュートを放つキャプテン藤井郁美
6日の開幕と同時に始まった女子車いすバスケットボールは、6チームが出場。日本は2グループ3チームで争われた予選プールでは、タイに88-24、アフガニスタンに103-18といずれも大勝し、トップで準決勝に進出した。その準決勝でもイランに96-27と格の違いを見せつけ、決勝へと駒を進めた。決勝の相手は、中国。今年8月に行われた世界選手権でベスト4に進出した強敵だ。その中国に対し、35-65とダブルスコアに近い差で敗れ、銀メダルに終わった日本。果たして“アジア女王"に君臨する中国との差はどこにあったのか。
単調な攻撃は中国の大きな自信の表れ
「厳しい試合になることはわかっていました。ただ、もう少しやれると思ったのですが……」
試合後、岩佐義明ヘッドコーチ(HC)、藤井新悟アシスタントコーチ(AC)ともに、同じ言葉を口にした。
今年1月に岩佐HCが新しく指揮官に就任し、元男子日本代表の藤井AC、佐藤聡スキルコーチが招聘されて新体制となって初めて臨む国際大会。目標は“打倒中国"での金メダル。2年後に迫った東京パラリンピックに向けて、2011年のロンドンパラリンピックアジアオセアニア予選から土をつけられ続けている中国に、これ以上の差をつけられるわけにはいかなかった。しかし、中国の強さは想像以上だった。
中国のバスケは、単純明快だ。オフェンスでは両サイドで2on2の形をつくり、アウトサイドからのシュートを狙う。一方、ディフェンスではノンカウントプレス(得点できなかった場合のプレスディフェンス)で、相手に速攻に走らせないようにする。見た目には単調と映るスタイルだが、中国は徹底していた。それはアウトサイドからのシュートの決定率、そしてディフェンスではスピードで大きな自信を持っているからにほかならない。世界選手権でも、欧米のチームが苦戦を強いられ、中国はベスト4進出という躍進を遂げた。
その中国に対し、日本は1Qは8-13と善戦。中国随一のシューターであるLin Suilingに対しては徹底的にジャンプアップしたことにより、フィールドゴールの確率を30%にまで抑えていたことが功を奏していた。一方では日本のシュートの確率は決して良くはなかった。これが後に大きく響くことになる。
中国との差が開き始めたのは、2Qの後半だった。スリーポイントラインにまで下がってのティーカップディフェンスで中国のアウトサイドからのシュートを食い止めたかった日本だったが、2on2でのスイッチのタイミングや、トリプルスイッチを狙った3人目のヘルプがあと一歩遅く、高さを警戒してインサイドをケアするためにハーフジャンプで対応したシューターに楽に打たせてしまっていた。トリプルスイッチのシーンではフリーの状態となったガードへのディフェンスの戻りもままならず、トップの位置からもミドルシュートを決められてしまっていたのだ。
肌で感じたさらなる強化の必要性
一方、中国はキャプテンの藤井郁美や網本麻里、北田千尋といったミドルシュートを得意とする日本のハイポインターたちに対して、スリーポイントラインまでジャンプアップしてくる執拗なディフェンスをしいてきた。これによって、日本はなかなかペイントエリアに近づくことができず、遠い位置からのタフショットを余儀なくされた。これが一つ、日本のシュート決定率の低迷を引き起こしていた原因となっていたことは明らかだった。
それでも日本の良さが出ていたシーンも随所にあった。最も印象的だったのは、3Qの終了間際、網本がミドルシュートを決めるや否や、カウントプレス(得点した場合のプレスディフェンス)で相手の動きを止めにいく。これがしっかりと機能し、ハーフライン付近でボールマンをサイドラインに追い詰めて、日本ボールとしたのだ。
続く4Qの前半では、それまで中国の執拗なディフェンスにシュートすることさえもままならずに無得点のままだった藤井が立て続けにミドルシュートを決め、一矢報いた。しかし、その藤井の2本目のシュートが決まったのを最後に、残り約5分もの間、ついに日本に得点シーンが訪れることはなかった――。
試合後、キャプテンの藤井はこう語った。
「厳しいトレーニングをみんなで一緒に乗り越えてやってきた分、お互いへの信頼感がさらに生まれ、これまでにないほどいいチーム状態で大会に臨むことができました。ただ、結果がすべて。スピードは十分に通用するが、やはりフィジカル面や技術面では正直中国に劣っている。その部分をもっと強化していきたいと思います」
中国の背中をどう捉えるか、女子日本代表の本気度が試される
シュート決定力、ワンプッシュの力、判断力……中国の牙城を崩すには、まだまだ課題は山積している。しかし、決して下を向いてはいない。いや、下を向いている時間はないことは、チームの誰もがわかっている。
今大会で痛感した中国との差は想像以上だった。しかし、プラスにとらえれば、“本番"である東京パラリンピックの2年前にその差を肌で痛感できたことは大きい。残り2年で、どれだけ成長することができるのか。女子日本代表の本気度が試される。
(文・斎藤寿子、撮影・岡川武和)