2020年東京パラリンピックに向けた、ゴールボール男子日本代表の強化を目的に国際大会、「2019ジャパンメンズオープン」が1月13日から14日にかけ、千葉県の佐倉市民体育館で開催された。タイ代表、オーストラリア代表、カナダのバンクーバー・ゴールボール・クラブの3チームを招き、A,Bの2チームに分かれた日本代表の全5チームが出場した。
総当たり戦による予選ラウンドを経て、日本Aが14日の決勝戦に進出し、15-12でタイを下して優勝を果たし、日本Bは3位決定戦に進み、オーストラリアを6-3で退けた。
日本代表の選手はユース、育成世代を含めた強化指定選手の中から、数度の合宿を経て9名が選抜され、ポジション(*1)の均等性などをもとに2チームに分けられた。優勝した日本Aは田口侑治、辻村真貴、山口凌河、宮食行次の4選手を擁し、予選を3勝1敗で決勝に進んだが、5-9のスコアで唯一黒星を喫したのがタイだった。
そのタイとの再戦となった決勝戦はリベンジを誓い、センター田口、レフト宮食、ライト山口でスタートしたが、激しい試合となった。序盤から、タイの2枚看板、ファンカムアイ・バンチャーとタナポン・ワントンジットが放つ、高速で強いボールを止めきれず、開始約3分で立て続けに3点を失う。
江黒直樹ヘッドコーチ(HC)はすかさず、田口に代えて辻村をレフトに投入し、センターには宮食を据えて仕切り直すも、さらに3分間で2点を追加され、0-5と大量リードを奪われた。
だが、タイのワントンジットがロングボール(*2)の反則を犯し、ライト山口がペナルティスロー(*3)をきっちりと決めて反撃開始。約1分後にも山口が相手センターの手を弾く強打で加点し、一気に流れを引き寄せた。
その後、宮食がノイズ(*3)の反則を犯すも、バンチャーのペナルティスローを判断よくブロックするなど、日本Aは好プレーをつづけ、劣勢をはね返し、前半を6-6の同点で折り返した。
後半は開始早々、タイに得点されるも崩されず、逆に辻村が強烈なクロスで2連続得点して逆転。以降も辻村、山口の両ウイングが得点を重ね、日本が終始リードする形で試合は展開する。タイも日本の守備の穴をつき得点して食い下がったが、日本が粘り抜いた。
江黒HCは15-12での勝利に、「失点は3点以内を目標にしてきて、これだけ打ちあってしまったのは反省点。ただ、0-5から逆転できたのはメンタル強化のトレーニングの成果が出た」と評価した。
田口キャプテンも、「点は取ったが、取られすぎ」と反省を口にした上で、大会全体を振り返り、「試合ごとに流れの良しあしがあったが、選手が互いにフォローしあった結果。決勝では僕が助けられた」と、チーム一丸となった戦いが勝利につながったことに安堵の表情を見せた。
序盤の悪い流れを断ち切る、値千金のペナルティスローを決めた山口は、「タイは圧力のある球をペナルティーぎりぎりで投げてくるが、ペナルティーも多い。(チャンスに)しっかり決められ、チームに流れをもってくる1球を投げられた」と笑顔を見せた。山口は決勝での7得点を加え、大会通算24得点で得点王にも輝いた。
逆転の立役者となった辻村は試合序盤、タイが加点するたびにベンチから、「我慢だよ」「1点ずつ」などコートの選手に声をかけ続けた。5点ビハインドの苦しい状況でコートに入ったが、「ゲーム展開によって、いつでも行ける準備はしていた。どんなときでも、前を向いてあきらめない気持ちが大事。プラスの気持ちを、チーム皆で持てたのが逆転につながった」と振り返った。
辻村は、タイの攻撃力は世界トップクラスだが、守備には弱みがあると冷静に分析。「バウンドボールを弾きやすいと分かっていたので、ボールに回転をかけることと、素早く音を立てないように移動し、選手の間に投げることを意識した」と戦略を明かし、7得点と活躍した。だが、12失点については、「速いボールへの対応と、チーム全員で24分間守備の意識を保つこと」を課題に挙げ、さらなる成長を誓った。
■日本Bも健闘。日本チーム全体に手ごたえ
一方、3位に入った日本Bは信澤用秀、川嶋悠太、小林裕史、金子和也、佐野優人の5選手で編成された。
恵まれた体格から強打を放つ攻撃力に定評があるオーストラリアとの対戦となった3位決定戦では先制を許すも、レフト金子の連続得点で逆転すると、途中出場でライトに入った信澤キャプテンの追加点などでリードを保ち、6-3で逃げ切った。
逆転打を放った金子は世界でも少ないサウスポーから繰り出される速く強いボールや敏捷性を生かした移動攻撃などを武器に今大会通算18得点でチームのメダル獲得に貢献した。「(3位は)純粋に嬉しい。個人としてはもっと得点を挙げてチームを楽にさせたかった思いもあるが、チームを危機的状況に陥らせることなく、安定したプレーができた」と笑顔を見せた。
こうして、日本はA、Bチームともメダルを手にした。江黒HCは、今大会の目標の一つに、「勝ちを意識して戦い、勝つ自信をつけること」を掲げていた。日本男子は昨年、6月の世界選手権(スウェーデン)で予選敗退の9位に終わり、10月のアジアパラ競技大会(インドネシア)でも4位とメダルを逃した。ともに目標未達で、「負ける悔しさ」をいやというほど味わってきた。
だが、苦しい時にも自分を信じられる「勝者のマインド」は勝つことでしか得られない。今大会の目標だった、2チームでの1,2フィニッシュは逃したが、少なくともそれぞれが最終試合を勝ち切ったことに、江黒HCは「まだ課題はあるが、選手たちはよく頑張ってくれた」と一定の評価を与えた。
辻村も、「勝負の世界で勝ちを経験することは大事。負け癖がついてしまってはダメ。この勝ちを大切にしていきたい」と力強く語った。
■若手の台頭で、チームはさらに活性化へ
勝利以外にも、日本チームには大きな収穫があった。初代表に選ばれた若手2選手の急成長だ。
ひとりは育成選手枠から代表入りを果たした、日本Aの宮食だ。ゴールボール歴は1年あまりだが、幼い頃から野球などスポーツ経験は豊富で、身長182㎝とチーム一の長身を生かしたプレーで貢献。
最初はレフトウイングで練習していたが、昨年夏からセンターにも挑戦し始めたと言い、今大会は両ポジションを経験。主に攻撃を担うレフトに対し、センターは守備の要であり、両ウイングにボールを回す司令塔の役割も担う。宮食はそれぞれに可能性を示した。
「センターをやってみて、ゲームメークをする面白さや魅力を感じた。高いバウンドボールも自分の武器。しっかり守って、時々投げて決められる得点力もあるセンターが理想」と、頼もしい目標も口にしていた。
急成長のもう一人は日本Bの佐野だ。ユース枠強化選手で、ユース世代の代表経験はあるが、ナショナルチーム入りは初。佐野はライトウイングがメインだったが、今大会2試合目でセンターの川嶋が負傷退場となり、チーム編成上、急遽センターに抜擢された。もともと守備力にも定評があり、3位決定戦も含め、危なげなく役割を果たした。「自分自身、一皮むけたかなと感じたのが、(3位の)勝利が決まったときの正直な気持ち」と達成感にあふれた表情を見せた
「ウイングは自分で点を取り、ゴールの揺れる音が聞こえたら、嬉しい。でも、センターは自分がゴールを守る起点となり、ウイングにボールを渡す(役割)。ウイングの二人がゴールネットを揺らしてくれたときに、喜びの気持ちが生まれた」とセンターの魅力にも気づいたという。
「守備力をもっと向上させたいし、相手の手先や足先に投げるコントロール力と圧のあるボールを投げる攻撃力も磨きたい」と旺盛な向上心を表した。
佐野の活躍について日本Bの信澤キャプテンも、「川嶋のアクシデントはチームには痛手だったが、その分、若い優人をどう支えようかと、チームがまとまった。優人はそのチャンスをつかみ、逃さなかった。これで、川嶋も危機感をもつだろうし、皆が切磋琢磨することでチームはまた成長していける」と歓迎した。
今大会前、江黒HCは9人の代表枠に若手二人を加えた理由を、「チーム内に競争する刺激がほしかったから」と話していたが、その二人が期待に応えて活躍し、成長を見せたことに「喜ばしいこと」と手ごたえを得た様子だった。
日本男子代表は、今大会での目標をクリアし、一歩ずつ進化の過程をたどっている。今年は5月の欧州遠征などを経て、12月のアジア・パシフィック選手権大会で結果を残し、2020年東京パラリンピックにつなげることが大きな目標だ。
今回代表から漏れた選手たちも含め、日本代表争いも今後、より一層激化が予想される。さまざま繰り広げられる「熱い戦い」を、これからも楽しみにしたい。
(*1) ポジション:守備の並びで、中央をセンター、左をレフトウイング、右をライトウイングと呼ぶ。
(*2)ロングボール:縦18mのコートは3mずつ自陣エリア、ニュートラルエリア、相手エリアの3つのエリアに分かれている。攻撃では、まず自陣エリアでボールをバウンドさせた後、ニュートラルエリアでもバウンドさせなければならない。「ロングボール」は、ニュートラルエリアでバウンドせずに相手エリアに到達してしまう反則。一方、「ハイボール」は、自陣エリアでボールをバウンドさせなかった場合の反則。
(*3)ペナルティスロー:反則があった場合、反則を受けたチームに1投の機会が与えられ、反則を犯したチームの選手はたった一人で9mのゴールを守らねばならない。
(*4)ノイズ:攻撃側の選手が投球後、当人、または攻撃側の他の選手が、守備側に不利になるような音を出す反則。
(文・星野恭子、撮影・峯瑞恵)