ゴール前で激しく競り合う池崎大輔(左)と池透暢(右)
3月20日〜21日、2021ジャパンパラ車いすラグビー競技大会が千葉ポートアリーナ(千葉)で開催された。毎年世界各国の強豪チームを招待し行われる本大会だが、今年は新型コロナウイルス感染拡大防止のため海外からの入国が制限されていることもあり、日本代表候補選手のみで行われることとなった。
大会方式としては、日本代表候補をA、B、Cの3チームに分けて総当たり戦を初日に行い、上位2チームが21日に決勝を行うという形になった。
この数ヶ月も東京パラリンピックに向けて毎月日本代表合宿を行い、その中で試合形式の練習は行ってきてはいたものの、日本代表にとって公式戦は2019年10月の車いすラグビーワールドチャレンジ2019以来の、実に1年5ヶ月ぶりであった。久しぶりの実践の場を前に、選手たちは合宿とはまた違う緊張感に包まれながら試合に臨んだ。
大会初日は日本代表候補B(以下Bチーム)が2勝、日本代表候補C(以下Cチーム)が1勝1敗、日本代表候補Aが2敗となり、決勝では日本代表候補Bと日本代表候補Cが対戦することとなった。
21日の決勝、前日も対戦したチーム同士の組み合わせではあるものの、独特な緊張感に包まれる会場。選手たちもどこか国際大会を思わせる面持ちでコートに入る。
Bチームは池透暢、中町俊耶をオフェンスの要として試合展開を進めつつ、ディフェンス面では乗松聖矢と乗松隆由の兄弟が中心となって相手の攻撃を阻む戦法だ。
対するCチームは、池崎大輔と橋本勝也の2人の連携でボールを運ぶ。そして長谷川勇基、渡邊翔太が守りを固める。
Bチームの中町の先制トライから試合はスタート。その後すぐに池崎がトライを決め、その後は両チームが点数を取っては取り返す一進一退の攻防が続く。そんな展開の中、試合時間残り2秒でCチームの橋本がトライを決め、13-14で第1ピリオドを終える。
第2ピリオドも両者譲らない展開が繰り広げられていく中、中盤からBチームのターンオーバーが続き、残り時間4分54秒で16-19と徐々にCチームが点差を開き始める。
しかしBチームも引き下がることなく、池が持ち味であるチェアスキルとスピードを活かし、ディフェンスをかわしてトライを決める。そしてそのまま点数を少しずつ詰めていき一時同点に追いつくもCチームの強硬なディフェンスに苦戦し、40秒バイオレーションで点数を決めきれないままCチームに追加点を許し、24-25でCチームが一点リードで前半が終了した。
第3ピリオドはBチームボールでスタート。最初のチャンスで乗松(聖)がしっかりとトライを決め切り、点数は25-25の同点に。しかしその後はBチームがバックコートバイオレンスで流れを失い、Cチームが再びリードする展開に。前半ボール運びの要となっていた中町だが、後半は橋本にきっちりマークされ、Bチームのボールの動きが停滞し始める。そんな好状況を逃すことなく、Cチームの池崎が俊敏さを活かして流れをつくり、点差を離していく。最終的に第3ピリオドは36-38で終了。未だCチームが有利な展開だ。
第4ピリオドは、乗松(隆)のトライで始まる。そこから徐々にBチームが点差を縮め始め、残り時間7分29秒で39-39の同点に。日本代表チームの要である池と池崎は素早いスピードを活かしてディフェンスを振り切っていき、互いにトライを決めていく。両者が一歩も引かない展開が続くが、試合時間残り5分を切ったころで中町にプレスがかかり、12秒バイオレーションを取られてしまう。そこから流れがCチームに戻り始める。Bチームがオフェンスに苦戦する中で、池崎と橋本が次々にトライを決めていく。Bチームも点差を縮めようと必死に攻めるも追いつけず、試合は48-52で終了。本大会は日本代表候補Cの優勝という形で幕が閉じた。
優勝した池崎は、今大会を振り返って「改めて自分にはすごく力強い仲間がいるんだなということに気づかされた。対戦して凄いなと改めて思ったし、その中で自分もまだまだ負けていられないなという気持ちになった」と述べた。
また、日本代表ヘッドコーチのケビン・オアーは「優勝したCチームだけでなく、3チーム全てが素晴らしいプレーを見てくれた。特に若手にとってはこういったハイレベルな試合を経験するというのは非常に重要で、そういった意味でも今大会を開催できて良かった」と大会を振り返った。
また、今大会ではエキシビジョンマッチという形で、国内公式戦で初となるLow Pointers Game(クラス 1.5以下の選手のみ出場可能。コート上の持ち点のコート上の4名の持ち点の合計が3.5点以内)が行われ、TeamBがTeamAに33-31勝利した。
TeamBを勝利に導いたベテランの岸光太郎は、「普段のゲームに比べて転倒やタックルなどの激しさはなくなるが、相手を引っ掛けやすくなるのでスペースを作るための丁寧な走りやボールキャッチが苦手な選手が多い中でのコミュニケーションの取り方などに難しさがある」と語った。
ケビン日本代表HCはLow Pointers Gameのメリットを「ローポインターがボールハンドリングのスキルを磨くことができ、通常の8点制でハードプレッシャーを受けてもボールキープができるようになる」と話した。Low Pointers Gameの国際大会はアメリカで2022年開催予定。
【試合結果一覧】
◎総当たり戦
日本代表候補A 40-50 日本代表候補B
日本代表候補A 43-48 日本代表候補C
日本代表候補B 54-49 日本代表候補C
◎Low Pointers Game
Team A 31-33 Team B
◎決勝
日本代表候補B 48-52 日本代表候補C
【車いすラグビー】
1チーム4人で、8分間のピリオドを4回行い、その合計得点を競う。バスケットボールと同じ広さのコートでプレーし、ボールを持った選手の車いすの車輪2つが、敵陣のゴールラインに乗るか、もしくは通過するかでトライが認められ、1点が入る。
選手には障がいの程度に応じて持ち点があり、障がいが重い方から0.5~3.5までの7クラスに分けられている。持ち点の合計が8点以内で編成された4人が出場できる。ただし、女子選手が含まれる場合は1人につき0.5点の追加が許可される。
「ラグ車」と呼ばれる競技用車いすは「攻撃型」と「守備型」の2種類。主に持ち点が大きい選手が乗る「攻撃型」は、狭いスペースでも動きやすいようにコンパクトな作りになっている。一方、主に持ち点が小さい選手が乗る「守備型」には、前方に相手の動きをブロックするためのバンパーが付けられている。
車いすラグビーは、四肢麻痺など比較的障がいの重い人でもできるスポーツとして考案された男女混合の競技。しかし、パラリンピック競技で唯一、車いすによるタックルが認められており、「マーダー(殺人)ボール」という別名がつくほど、激しいプレーの応酬が魅力の一つ。その激しさは、ボコボコに凹んだ車いすのスポークカバーを見れば一目瞭然だ。