3月28日、2021パラカヌー海外派遣選手選考会が府中湖カヌー競技場(香川県坂出市)で開催された。国際大会派遣選手の権利を得るために、男女障害クラス別にカヤック(KL)ヴァー(VL)の2種目が実施された。
男子では今井航一(コロプラ)が、VL3を53秒755、KL3を47秒828で制し、昨年9月に行われた日本選手権に続き二冠を達成した。「1年前まではスタート部分の苦手意識があったが、最近は安定しだした。スタートでパワーの出力をあげて、中盤、後半に繋げていけるようになってきた。前回よりタイムは良かったが、あくまでも目指しているのは世界トップレベルなので、結果についてはまだまだという印象」とさらなる高みを目指す。
また、今大会の会場である坂出市在住の今井は「コロナ禍の中、地元の講演会へ呼んでいただける機会が何度かあった。そこで子供達から"今井選手頑張れ"と声を掛けてもらえて力にもなっている。今日はここで結果を出すことが出来て良かった。」とホッとした表情で語った。
女子では瀬立モニカ(江東区カヌー協会)が、VL2を1分12秒497、KL1を58秒802でゴールし、二冠を達成した。東京パラリンピックが内定している瀬立は、今回の大会はレース照準を合わせるというより、レース前後の時間の過ごし方に重きを置いていた。東京パラの準決勝、決勝の間の時間は約75分間で、今回出場した2レースの間の時間と同様だ。そこで本大会の75分の時間の使い方を東京パラのリハーサルと称し、時間の使い方などを意識したところ、思っていた以上に準備に時間がかかることが分かり、ウォーミングアップの時間を短縮するなど課題が見つかった。時間の使い方以外には、「普段レース間で食べているカステラをアスリート用に開発してもらった。今回試してみたところ結果にも繋がったので、今後は栄養などにも気を遣っていきたい」と納得の表情を浮かべた。東京パラについては「どういう形で開催されるか色々と状況が動くと思うが、自分自身の準備やスケジュールなどはしっかり固めて、流されないようにしたい。東京大会、カヤックで金メダルを取ることだけに集中して練習している」と語った。
【優勝者一覧】
VL1男子
関根徹哉(江東区カヌー 協会) 1分53秒233
VL2男子
加藤隆典(岐阜県カヌー 協会パラカヌー部) 1分04秒341
VL3男子
今井航一(コロプラ)53秒755
VL2女子
瀬立モニカ(江東区カヌー協会) 1分12秒497
KL1男子
高木裕太(インフィニオンテクノロージズジャパン) 58秒568
KL2男子
辰己博実(テス・エンジニアリング) 48秒253
KL3男子
今井航一(コロプラ)47秒828
KL1女子
瀬立モニカ(江東区カヌー協会) 58秒802
KL2女子
宮嶋志帆(埼玉県カヌー 協会) 1分09秒950
KL3女子
加治良美(ネッツトヨタ名古屋) 52秒269
【カヌー】
下肢に障がいのある選手たちが行うカヌーは、200mのタイムを競う「スプリント」。男女別に、障がいの程度に応じてクラスが分かれてレースが行われる。
使用する艇が異なる「カヤック」と「ヴァー」の2種目がある。「カヤック」はパドルの両端に「ブレード」と呼ばれる水かきが付いた「ダブルブレードパドル」を使用。一方、「ヴァー」には片側に「アウトリガー」と呼ばれる浮力体が付いており、パドルもブレードが片側のみの「シングルブレードパドル」を使用する。
レースは、流れのない静水の水上に設定された直線コースで行われ、ひとつのコースの幅は9m。そのうち中央の4m幅が漕行エリアとなっている。漕行エリアから左右どちらかにはみ出した場合は、コースアウトで失格となる。
障がいの軽いクラスでは、クロスバイクと変わらない時速で200mをわずか40秒でゴールする選手もおり、「水上のF1」と言われている。一方、障がいの重いクラスでは体幹を使えない選手もいる。足の踏ん張りも、体幹の力も使わずに、主に両腕の力だけで漕ぐのは至難の業。さらに自然の中で行われるため、天候や場所によって条件はさまざま。わずかな風や波でも、両腕だけでバランスを保ちながら、真っすぐに漕ぐことは見た目以上に難しい。