9月3日、東京パラリンピック・大会11日目。
快進撃の止まらない車いすバスケットボールは男子の準決勝が行われ、2018年世界選手権チャンピオンのイギリスを「日本のバスケ」で破り、史上初の決勝進出を決めた。試合立ち上がりは硬さが見られイギリスに大きくリードを許したが、ディフェンスのシステムを変え徐々にペースを取り戻すと、香西宏昭の3ポイントが次々と決まり33-36で前半を終える。古澤拓也の2本のシュートで後半開始直後に日本が逆転するとシーソーゲームにもつれ込み、ローポインター・川原凜のシュートで日本がリードを広げる。最終クォーターでは両チームともに高い集中力で点の奪い合いを演じるが、日本の足は止まることがなかった。全員バスケで79-68と日本が準々決勝に続き歴史的勝利を収め、これで銀メダル以上が確定。日本中に熱狂と歓喜をもたらした。9月5日、東京パラリンピック最終日にアメリカとの決勝戦に挑む。
得意の100mバタフライで金メダルを獲得した木村敬一
水泳は、男子100mバタフライ決勝(全盲クラス)で日本のエース・木村敬一が悲願の金メダルを獲得、富田宇宙が銀メダルを獲得し日本勢のワンツーフィニッシュとなった。
レース後「やったー!」と抱き合い喜び合ったふたり。4大会目にして初めて、思い続けてきた金メダルを手に入れた木村は、「『この日のために頑張ってきた』という“この日"って本当に来るんだなと思いました。特にこの1年はいろいろなことがあって、“この日"は来ないのではと思うこともありました。それもしょうがないことだと思っていましたが、こうしてちゃんと迎えることができてすごく幸せです」と金メダルにたどり着くまでの道のりを振り返った。
木村とともに戦ってきた銀メダルの富田は「本当は悔しがらなきゃいけないんですけど、木村くんが金メダルを獲って、続いて僕がゴールできたことが本当にうれしいです。彼が苦労してきたこともずっと見てきたし、リオで金を逃したのは本当に僕も悔しくて、その隣でずっと一緒に頑張ってきて、ライバルとして彼を越えようと努力してきました。自分の力が全て出し切れたとは言えないですが、ずっとこの瞬間を目指してきたのでこんなにうれしいことはないです。自分が障がいを負ったのは、この瞬間のためだったのだと思います」と涙で声を詰まらせながら語った。
また、窪田幸太・山田拓朗・南井瑛翔・萩原虎太郎で臨んだ男子400mメドレーリレー34ポイント(運動機能)は日本新記録を更新するタイムで7位。山田はレースを終え、「この種目の決勝は、毎回見ていた憧れの舞台。頼もしい後輩たちと一緒に泳げて、日本記録も2回更新できてすごく楽しい時間だった」と充実した表情で語った。
自転車では、女子C1-3ロードレースで杉浦佳子が金メダルを獲得。タイムトライアルに続いて2冠達成となった。39.6kmで争われたレースで杉浦は序盤から攻め、終盤でトップに立つとそのままフィニッシュ。1時間12分55のタイムで、タイムトライアルに続いて金メダルに輝き、自身の日本人最年長メダル記録をさらに3日更新した。
“一致団結"を合言葉にチーム力を磨いてきた車いすバスケットボール女子はカナダとの5-6位決定戦に臨み、序盤から相手の激しいプレッシャーに苦しめられるも日本は果敢にゴールを目指す。終始追いかける厳しい展開が続くが、ここまで切磋琢磨し合いながらともに積み上げてきた仲間と心をひとつにして、最後まで走り抜いた。49-68で試合終了、堂々の世界6位で3大会ぶりとなったパラリンピックでの戦いを終えた。
車いすテニスでは、シングルス、ダブルスのメダルマッチが行われた。女子シングルス決勝に登場した世界ランキング2位の上地結衣は、何度も対戦を重ねてきたオランダのディーデ・デ フロート(同1位)と対戦した。前回のリオ大会・銅メダルの上地は自国開催の東京大会での金メダル獲得を狙いコートに立った。相手ペースとなった第1セットを落とすと、第2セットでは何度もデュースにもつれ込む展開が続いた。3-6、6-7で試合を終えると、上地とデ フロートは固く抱き合い健闘を称え合い、会場からは大きな拍手が送られた。
クアードシングルの3位決定戦では、菅野浩二がオランダの新星、18歳のニールス・フィンクと対戦。前日に深夜2時まで及んだ試合の疲れもあってか本来のテニスが影をひそめた。菅野は1−6、4-6で敗れダブルスに続くメダル獲得とはならなかったが、自身初のパラリンピックを終え、「悔しい思いもしたが今できる最高のプレーはできたので悔いはない」と締めくくった。
男子ダブルスの3位決定戦では、国枝慎吾・眞田卓ペアがオランダのペアと銅メダルをかけて対戦。国枝は「眞田選手にメダルを味わせてあげたい」との思いで試合に臨んだ。第1セットは互いにゲームをキープする展開が続き、第4ゲームでは6度のデュースの末、ブレークに成功した国枝・眞田ペア。しかし、このセットを3-6で奪われると、続く第2セットも相手の流れを崩せず2-6で落とし、2大会連続での男子ダブルス銅メダルとはならなかった。試合後、眞田は「国枝選手にここまで連れてきてもらって、プロになってからも支えてもらった。東京の舞台ではパートナーとして戦えることが本当に光栄で、夢のような時間をいただいた」と感謝の気持ちを綴った。
陸上は、男子100m(車いすT52)でパラリンピック初出場の大矢勇気が銀メダルを獲得した。雨のレース、大矢はスタートで勢いよく飛び出すと力強くこぎ続けた。惜しくも終盤でリードを許したが17秒18で銀メダルを獲得した。走り高跳びには、日本のパイオニアとしてパラ陸上の道を切り拓いてきたパラリンピック6大会連続出場の鈴木徹が登場。1m88をクリアし1m93の跳躍に臨むも、雨の影響もあり思うようなジャンプができず1m88の4位でレースを終えた。会場に手拍子を求め1回ごとに笑顔で跳躍に臨んだ鈴木。レース後、2日前に義足との切断部分を痛めたことを明かした。「自分が出場しなければ、義足で走り高跳びをする選手はいないと思われてしまっていた」競技の普及と発展のため、レジェンドは挑み続けた。目標にしてきたパラリンピックでのメダルには届かなったが、「すっきりした」と清々しい表情で会場を後にした。
新種目の4x100mユニバーサルリレーは、予選で攻めの「タッチワーク」で日本新記録をマークした日本が全体4位で決勝進出。ガイドランナーも合わせて5人の走りでつないだ日本は銅メダルを獲得した。視覚障がいの澤田優蘭、切断・機能障がいの大島健吾、脳性まひの高松佑圭、車いすの鈴木朋樹。異なる障がいの選手が、バトンではなく体にタッチする「タッチワーク」でつないでゴールを目指す男女混合種目。予選で世界新記録をマークした中国が失格となり日本は繰り上がりでの銅メダル獲得となった。各国のスター選手が競演する同じ種目は今後も注目されそうだ。
ゴールボール女子は3位決定戦に臨み、日本はブラジルを6-1で下し2大会ぶりのメダルを獲得した。前半、欠端瑛子とニューヒロイン・萩原紀佳が得点を奪うと日本の守備も光り、5-0で折り返す。後半もその勢いは止まらず、ブラジルに許したのはわずか1ゴール。6-1と強さを見せつけた日本が銅メダルを獲得した。
(文・張 理恵)
■日本人結果一覧
【アーチェリー】
男子個人リカーブオープン 1回戦
●上山友裕 0 – 6 バーツラフ・コシュティアル○
【カヌー】
男子カヤックシングル KL2(運動機能) 決勝
第11位 辰己博実 47秒325
男子カヤックシングル KL1(運動機能) 決勝
第12位 髙木裕太 58秒509
女子ヴァーシングル VL2(運動機能)準決勝
準決勝敗退 小松沙季 1分8秒477
【競泳】
男子100mバタフライ S11(視覚)
第1位 木村敬一 予選:1分2秒25 決勝:1分2秒57
第2位 富田宇宙 予選:1分3秒32 決勝:1分3秒59
女子200m個人メドレー SM5(運動機能)
第6位 由井真緒里 決勝:3分46秒95
女子50mバタフライ S7(運動機能)
第8位 西田杏 予選:38秒39 決勝:37秒98
女子100m自由形 S11(視覚)
第8位 石浦智美 決勝:1分13秒80 予選:1分13秒76
予選敗退 小野智華子 予選:1分19秒82
男子400mメドレーリレー34ポイント(運動機能)
第8位 窪田幸太/山田拓朗/南井瑛翔/荻原虎太郎 予選:4分32秒18 決勝:4分29秒85
男子100mバタフライ S8(運動機能)
予選敗退 荻原虎太郎 予選:1分5秒98
【車いすテニス】
クアードシングルス 3位決定戦
●菅野浩二 0 – 2 ニールス・フィンク○
男子ダブルス3位決定戦
●国枝慎吾/眞田卓 0 – 2 エフベリンク・トム/シェフェルス・マイケル○
女子シングルス 決勝
●上地結衣 0 – 2 ディーデ・デフロート○
【車いすバスケ】
女子 5-6位決定戦
●日本 49 – 68 カナダ○
男子 準決勝
○日本 79 - 68 イギリス●
【ゴールボール】
○日本 6 – 1 ブラジル●
【シッティングバレー】
女子 7-8位決定戦
●日本 0-3 ルワンダ○
【自転車】
女子個人ロードレース C1-3(運動機能)
第1位 杉浦佳子 決勝:1時間12分55
第15位 藤井美穂 決勝:1時間37分24
【テコンドー】
男子 K44 75キロ級 準々決勝
●工藤俊介 23 – 31 マゴメドザギル・イサルディビロフ○
男子 K44 75キロ級 敗者復活戦 1回戦
○工藤俊介 52 – 31 セイエ・イブラヒマ●
男子 K44 75キロ級 敗者復活戦 2回戦
●工藤俊介 22 – 42 フアン・サモラノ○
【バドミントン】
女子ダブルス SL3-SU5(立位)予選リーグ グループA
○伊藤則子/鈴木亜弥子 2 – 0 チャニダー・シーナワグン/ニパーダー・セーンスパー●
男子ダブルス WH1-2(車いす) 予選リーグ グループA
○梶原大暉/村山浩 2 - 0 トーマス・バンドシュナイダー/ヤンチン・ミ●
女子シングルス WH2(車いす)予選リーグ グループB
●山崎悠麻 1 -2 エミネ・セチキン○
混合ダブルスSL3-SU5(立位) 予選リーグ グループA
○杉野明子/藤原大輔 2 – 0 カトリン・ザイベルト/ヤンニクラス・ポット●
男子シングルスSU5(立位・腕)予選リーグ グループB
●今井大湧 0 -2 リエホウ・チア○
男子シングルスWH2(車いす)予選リーグ グループC
○梶原大暉 2 -1 陳浩源●
女子シングルスSU5(立位・腕)予選リーグ グループA
○鈴木亜弥子 2 – 0 バーラル・ゼブラ●
女子ダブルス WH1-2(車いす)予選リーグ グループA
○里見紗季奈/山崎悠麻 2 – 0 ウェートウィターン・アイヌアイ/プッカム・スジラット●
女子シングルスSU5(立位・腕)予選リーグ グループB
○亀山楓 2 – 0 ローセングレン・カタリーヌ
男子ダブルスWH1-2(車いす)予選リーグ グループA
●梶原大暉/村山浩 0 – 2 麦建朋/屈子墨○
女子ダブルス SL3-SU5(立位)予選リーグ グループA
●伊藤則子/鈴木亜弥子 0 – 2 レアニラトゥ・オクティラ/カリマトゥス・サディヤァ○
女子シングルス WH1(車いす)準々決勝
○里見紗季奈 2 - 0 ズターエラート・カリン●
女子シングルス WH2(車いす)準々決勝
○山崎悠麻 2 - 1 タチアナ・グレーワ●
男子シングルス WH1(車いす)準々決勝
●長島理 0 - 2 村山浩○
女子シングルス SU5(立位・腕) 準々決勝
○杉野明子 2 – 0 ベアトリス・モンテイロ●
女子シングルス SU5(立位・腕)準々決勝
○亀山楓 2 - 0 パラク・コーリ●
【ボッチャ】
ペア BC4(運動機能) 予選 グループB
●江崎駿/古満渉/木村朱里 2 – 8 ポーンチョーク・ラープイェン/リッティクライ・ソムサヌック/ヌアンジャン・ポンスィラー○
ペアBC4(運動機能)予選 グループB
○江崎駿/古満渉/木村朱里 7 – 1 ドゥバン・セリ/レイディ・チカチカ/エウクリデス・グリサレス●
ペアBC3(運動機能)予選 グループB
○河本圭亮/高橋和樹/田中恵子 7 – 0アベリノ・アンドラージ/アナ・コスタ/ジョセ・マセド●
団体BC1/2(運動機能)予選 グループB
○日本 6 – 4 ブラジル●
ペアBC3(運動機能)予選 グループB
○河本圭亮/高橋和樹/田中恵子 3 – 3 ( 0 – 1 )TB エバニ・ソアレス ダ シウバ カラード/エベリン・デ オリイベラ/マテウス・カルバーリョ●
【陸上】
男子1500mT 20(知的)
第5位 赤井大樹 決勝:3分58秒78
第8位 岩田悠希 決勝:4分1秒72
第9位 十川裕次 決勝:4分3秒62
女子1500mT20(知的)
第4位 古屋杏樹 決勝:4分38秒58
第6位 蒔田沙弥香 決勝:4分54秒60
第7位 山本萌恵子 決勝:4分55秒03
400mT47(切断・運動機能)
予選敗退 石田駆 予選:51秒56
男子走り高跳びT64(運動機能・義足)
第4位 鈴木徹 決勝:1m88cm
男子100mT52(車いす)
第2位 大矢勇気 決勝:17秒18
混合400mユニバーサルリレー
第3位 澤田優蘭/大島健吾/高松佑圭/鈴木朋樹 予選:47秒94 決勝:47秒98
男子100m T36(脳性まひなど)
予選敗退 松本武尊 予選:12秒61
女子400m T38(脳性まひなど)
予選敗退 高松佑圭 予選:1分7秒23
予選敗退 竹村明結美 予選:1分8秒29