9月4日、東京パラリンピック・大会12日目。
センターコートに響く割れんばかりの拍手の中、国枝慎吾は日の丸を身にまとい体を震わせ泣いた。
車いすテニス・男子シングルス決勝。「俺は最強だ」と何度も自分に言い聞かせながらここまで戦ってきた、世界ランキング1位の国枝。日本中の大きな期待を一身に背負いコートに立った。集中力と強靭なメンタルから鋭い球を繰り出し、あっという間に第1セットを6-1で奪うと、第2セットではドロップショットなど多彩で芸術的なプレーが光る。オランダのトム・エフべリンクも粘りを見せるが、6-1、6-2で国枝がストレート勝ちを収め、2大会ぶりの金メダルに輝いた。重い重圧から解き放たれた国枝は拳を高く突き上げ、大きな大きな拍手に包まれながら男泣きした。リオからの道のりには引退を考えたこともあったという。3月頃からはグランドスラムを戦いながらもパラリンピックのことが常に頭にあったと話す。奥底では自分を疑うこともあったというが、そこに打ち勝ち今日を迎えた。無観客とはなったが画面を通して多くの方に車いすテニスを見てもらうことができ「金メダル以上の価値がある」と言葉に力を込めた。「これが国枝慎吾だ!」という生き様と強さを見せつけてくれた。
女子ダブルスでは上地結衣・大谷桃子ペアが中国との3位決定戦に臨んだ。第1セットを6-2で奪うと、続く第2セットでは、勢いを増した相手に対し辛抱強く戦っていった。上地は前日のシングルス決勝の疲れが残る中でも積極的にコミュニケーションをとり、大谷は粘り強くボールを追いかけ得点を重ねていった。高い集中力でタイブレークを制しストレート勝ち。日本の女子ダブルス初の銅メダルを獲得した。勝利の瞬間、ふたりは笑顔で抱き合い健闘を称え合った。
車いすテニスは、男子、女子、クアードの全クラスでメダルを獲得した。
東京パラリンピックで初めて正式競技として採用されたバドミントンは、各カテゴリーでメダルマッチが行われ、女子シングルスWH1(車いす)では、世界ランキング1位の里見紗李奈がタイの選手を破り、パラリンピック初代女王に輝いた。里見は第1ゲームを14-21で落とすと、第2ゲームも苦しい状況が続く。自分を鼓舞するかのように得点を奪うと小さなガッツポーズを作りながら流れを引き寄せ21-19で最終ゲームに望みをつないだ。タイの応援団が得点の度に盛り上がる、まるでアウェーのような状況。里見は「よし!」「ナイス!」と自らのリズムをキープしながら得点を重ね21-13。見事な逆転劇で金メダルを獲得した。優勝の瞬間、涙があふれ出て手で顔を覆った里見。「本当に夢みたい」と喜びを語った。
女子シングルスSU5(立位・上肢障がい)では、決勝に臨んだ世界ランキング1位の鈴木亜弥子が、中国の選手にストレートで敗れ銀メダルに。日本人対決となった同種目の3位決定戦は杉野明子が、亀山楓に2-1で勝ち銅メダルを獲得した。そして、鈴木は下肢障がいの伊藤則子と組んだ女子ダブルスSL3-SU5でフランスとの3位決定戦に臨み、ストレートで破って銅メダルを手にした。女子シングルスWH2(車いす)では山崎悠麻が3位決定戦でトルコの選手をストレートで下し、銅メダルを獲得した。
ボッチャは、2対2で競う混合ペア(BC3・運動機能)決勝が行われ、日本の河本圭亮、高橋和樹、田中恵子が韓国と対戦した。日本は韓国に大きくリードされた展開から4-4に追いつくもタイブレークの末に敗れ、惜しくも銀メダルに終わったが、この種目では日本勢初のメダル獲得となり、個人戦の金メダルに続き、またひとつ新たな歴史を作った。
そして3対3で競う混合チーム(BC1/BC2・脳性まひ)には、杉村英孝、中村拓海、廣瀬隆喜、藤井友里子が臨み、3位決定戦でポルトガルと対戦。2大会連続のメダル獲得となる銅メダルで大会を締めくくった。杉村は、「目指していた結果とは違うが堂々と胸を張れる結果。試合は4人でしたが『火ノ玉ジャパン(ボッチャ日本代表の愛称)』全員で戦って、応援してくれる多くの方々が後押ししてくれた。パラリンピックを最高の形で終えることができた」と胸を張った。
■日本人結果一覧
【アーチェリー】
混合団体リカーブ オープン 1回戦
○日本 5 – 1 ブラジル●
混合団体リカーブ オープン 準々決勝
●日本 2 – 6 イタリア○
【カヌー】
女子カヤックシングル KL 1(運動機能)
第7位 瀬立モニカ 準決勝:1分00秒489 決勝:57秒998
女子カヤックシングル KL3(運動機能)
準決勝敗退 加治良美 準決勝:52秒948
男子ヴァーシングル VL3(運動機能)
第10位 今井航一 準決勝:54秒992 決勝:57秒028
【車いすテニス】
女子ダブルス 3位決定戦
○上地結衣/大谷桃子 2 – 0 王紫瑩/朱珍珍●
男子シングルス 決勝
○国枝慎吾 2 – 0 トム・エフべリンク●
【テコンドー】
女子 K44 58キロ超級
準々決勝 ●太田渉子 12 – 37 グルジョノイ・ナイモワ○
敗者復活戦 1回戦 ○太田渉子 0 – 0 ローラ・シエル(棄権)●
敗者復活戦 2回戦 ●太田渉子 12 – 32 ジャニン・ワトソン○
【バドミントン】
男子シングルス WH1(車いす)
準決勝 ●村山浩 0 – 2 屈子墨○
3位決定戦 ●村山浩 2 – 1 イ・ドン ソプ◯
女子ダブルスSL3–SU5(立位)
準決勝 ●伊藤則子/鈴木亜弥子 0 – 2 馬会会/程和芳○
3位決定戦 ○伊藤則子/鈴木亜弥子 2 – 0 レナイ・モラン/フォスティーヌ・ノエル●
女子シングルスWH1(車いす)
準決勝 ○里見紗李奈 2 – 0 尹 夢璐●
決勝 ○里見 紗李奈 2 – 1 スジラット・プックカム●
男子シングルスSL3(立位•足)
準決勝 ●藤原大輔 0 – 2 プラモッド・バガット○
3位決定戦 ●藤原大輔 0 – 2 マノージ・サルカル○
女子シングルスWH(車いす)
準決勝 ●山崎悠麻 0 – 2 徐 婷婷○
3位決定戦 ○山崎悠麻 2 – 0 エミネ・セチキン●
男子シングルス WH2(車いす) 準決勝
○梶原大暉 2 – 0 キム・ギョン フン
女子シングルス SU5(立位・腕)
準決勝 ○鈴木亜弥子 2 – 0 亀山楓●
準決勝 ●杉野明子 0 – 2 楊秋霞○
決勝 ●鈴木亜弥子 0 – 2 楊秋霞●
3位決定戦 ●亀山楓 1 – 2 杉野明子○
女子ダブルス WH1-2(車いす) 準決勝
○里見紗李奈/山崎悠麻 2 – 0 スジラット・プックカム/アムヌアイ・ウェートウィターン
●
混合ダブルス SL3-SU5(立位) 準決勝
●杉野明子/藤原大輔 0 – 2 フォスティーヌ・ノエル/ルカ・マズール○
男子ダブルス WH1-2(車いす) 準決勝
●梶原大暉/村山浩 0 – 2 麦建朋/屈子墨○
【ボッチャ】
団体BC1/2(運動機能) 準決勝
●日本 3 – 8 タイ○
ペア BC3(運動機能) 準決勝
○河本圭亮/高橋和樹/田中恵子 5 – 1 グリゴリオス・ポリクロニディス/アナ・デンタ/アナスタシア・ピルギオティス●
団体 BC1/2(運動機能) 3位決定戦
○日本 4 – 3 ポルトガル●
ペア BC3(運動機能) 決勝
●河本圭亮/高橋和樹/田中恵子 4 – 4 (0 - 1)TB チョン・ホウォン/キム・ハンス/チェ・イェジン○
【陸上】
女子400m T13(視覚)
第7位 佐々木真菜 決勝:58秒05
女子100m T63(運動機能・義足)
第8位 兎澤朋美 予選:16秒26 決勝:16秒48
予選敗退 前川楓 予選:16秒57
男子200m T64(運動機能・義足)
第8位 大島健吾 予選:23 秒99 決勝:23秒62
女子200m T47(切断・運動機能)
予選敗退 辻沙絵 予選:26秒88
男子走り幅跳びT20(知的)
第4位 小久保寛太 決勝:7m01