ゴール後に笑顔を見せる道下美里(右)とガイドの志田淳(左)
東京パラリンピック最終日の9月5日。
陸上の最後を飾るのはマラソン。東京の街を舞台に、車いす(男・女)、上肢障がい(男子)、視覚障がい(男・女)の5種目でレースが行われた。
午前6時30分。季節外れの涼しさと雨の中、車いす男子がスタート。鈴木朋樹は勢いよく飛び出し、ペースをキープしながら35km時点では3位まで1分以内と差を縮めるも、7位でフィニッシュした。女子はトライアスロンにも出場したレジェンド・土田和歌子が順調にレースを進め、40kmで先頭集団に加わり4位でゴール。右手を大きく突き上げ、つねに挑戦を続けてきたリオからの5年間を堂々と締めくくった。土田の背中を追いかけ、今や日本女子車いすの第一人者となった喜納翼は、途中3位まで浮上したものの7位でレースを終えた。
視覚障がいのクラスでは、前回のリオ大会2位、世界記録保持者の道下美里が会心の走りを見せた。144㎝と小柄な道下はふたりのガイドランナーとゴールを目指し、先頭集団でチャンスをうかがいながら後半一気に勝負をかけ、35kmからはトップを走りオリンピックスタジアムに現れると、トレードマークである笑顔でゴール。3時間00分50秒のパラリンピック記録で金メダルを手にした。「5年前の忘れ物を絶対取りに行くぞという強い気持ちで準備してきたのですごくうれしいです。 最後に失速することがあったのでゴールするまで油断をしないと思って走りました。トラックに入って、もう大丈夫じゃないっていうことで笑顔になりました」
男子は堀越信司が銅メダルを獲得。何度もガッツポーズを作り喜びをかみしめた。
そして、上肢障がいのクラスには、このクラスで日本勢初の出場となった世界ランキング2位・永田務が登場。3位でオリンピックスタジアムに戻ってくると、何度もガッツポーズをしながら笑顔でゴール。2時間29分33秒で銅メダルを獲得した。「怖かったです。途中まで頭の中でみんなに謝っている映像が出てきて、それと葛藤しながらのレースでしたが、応援してくれた方々のことを思いながらなんとか凌ぎました。本当だったら銅メダルは自分の中で残念な結果ではありますが、どんな結果であれ自分はこの大会に向けて精一杯やってきたので気持ちの中ではよしとしたいです」
新競技のバドミントンでも、日本人選手が躍動した。男子シングルスWH2(車いす)決勝に出場した世界ランキング6位・19歳の梶原大暉は、同1位のキム・ジョンジュン(韓国)と対戦。「挑戦者なので、負けないぞという強い気持ちで試合に臨んだ」という梶原がストレートで勝利し、初代世界チャンピオンに輝いた。そして、女子ダブルスWH(車いす)では、世界ランキング1位の里見紗李奈・山崎悠麻ペアが同2位の中国ペアをゲームカウント2‐1で下し金メダルを獲得。里見はシングルスに続き2冠を達成した。男子ダブルスは、親子ほど年齢の離れている梶原大暉・村山浩ペアが3位決定戦に臨み、タイのペアを2-0で破り銅メダルを獲得した。
車いすバスケットボールは男子決勝が行われ、前回のリオ大会以降、ベリーハードワークを積み重ねてきた日本がアメリカと対戦した。
第1クォーター、藤本怜央の3ポイントシュートで日本が先制すると、「ディフェンスで世界に勝つ」を有言実行する硬い守備で王者・アメリカを苦しめる。高いシュート率を誇るアメリカに対して激しいプレッシャーを与え、フィールドゴール成功率を47%にとどめ(日本は62%)18-18と互角の戦い。その後も一進一退の攻防が続き、27-32で前半を終えた。
第3クォーター、日本は秋田啓や藤沢潔、そして香西宏昭の連続得点などで追いつくと、鳥海連志のシュートで逆転する。46-45で迎えた運命の最終クォーター。日本のリードが続く。金メダルが見えるところまで近づき会場のボルテージも上がる。再び追い上げ逆転するアメリカ。日本も懸命に追うが、無情にも試合終了を告げるブザーが鳴り60-64で試合終了。アメリカが世界の頂点に立った。
日本は史上最高の銀メダルを獲得!その強さを世界中に証明した。
キャプテンの豊島は「僕たちのディフェンスがどこまでアメリカに通用するかを挑戦しながら試合に臨みましたが、思っている以上にアメリカの背中が近くて、接戦にもちこむことができました。僕たちはメダル獲得を目標に掲げてやってきましたが、この(リオからの)5年間だけではなく今までの先輩方も含めて積み上げてきた歴史。本当にこのメダルは重いです」
会場からはエキサイティングなゲームを演じた両チームに大きな拍手が送られ、それに応えるように選手たちは深々と一礼して感謝の思いを伝えた。リオからの5年間の思いが溢れると涙で頬がぬれ、肩を抱き合い仲間と健闘を称え合った。あと一歩のところで頂点には届かなかったが、あと一歩のところまでは着実に上り詰めた。世界を脅かす「日本のバスケ」がパラリンピックという世界最高の大舞台で惜しみなく表現された。
そして、「一心」という合言葉のもとチーム一丸となって進んできた日本代表。その活躍は、見ている人の「心」を揺さぶり、「心」を動かした。
東京2020パラリンピックは幕を下ろした。
日本は金メダル13個、銀メダル15個、銅メダル23個の計51個のメダルを獲得した。
大会にあたり、また戦いを終えて、選手から一番聞かれたのは「感謝」という言葉だった。
応援への感謝、これまで支えてくれた方々への感謝、仲間への感謝、そして、コロナ禍という困難な状況の中で大会を開催して頂いたことへの感謝。
自国開催のパラリンピックで、多くの選手たちが目標として掲げていたメダルの獲得。
それは決して、自分の名誉のためや、これまでがんばってきた証を残したいというためだけではない。
メダルを獲得することで日本の方々に競技を知ってもらい、東京2020大会を終えたあとも関心を寄せてさらに広めたいという、競技の普及と発展を真剣に願う思いから掲げた目標でもあった。
パラスポーツに取り組む選手たちや関係者の方々の思い、涙、汗、笑顔、活躍…。
この先も大いに注目し応援したい。
■日本人結果一覧
【車いすバスケットボール】
男子 決勝
●日本 60 – 64 アメリカ○
【射撃】
混合ライフル伏射 SH1(運動機能)
予選敗退 渡邊裕介 予選:610.1点
【バトミントン】
男子シングルス WH2(車いす) 決勝
○梶原大暉 2 – 0 キム・ジョンジュン●
女子ダブルス WH1-2(車いす) 決勝
○里見紗李奈/山崎悠麻 2 – 1 劉禹彤/尹夢璐●
男子ダブルス WH1-2(車いす) 3位決定戦
○梶原大暉/村山浩 2 – 0 ダムヌーン・ジャントーン/ジャッカリン・ホームフアン●
混合ダブルス SL3-SU5(立位) 3位決定戦
○杉野明子/藤原大輔 2 – 0 パラク・コーリ/プラモッド・バガット●
【陸上】
男子マラソン T54(車いす)
第7位 鈴木朋樹 1時間30分45秒
女子マラソン T54(車いす)
第4位 土田和歌子 1時間38分32秒
第7位 喜納翼 1時間42分33秒
男子マラソン T12(視覚)
第3位 堀越信司 2時間28分1秒
第7位 熊谷豊 2時間31分32秒
第9位 和田伸也 2時間33分5秒
男子マラソン T46(切断・運動機能)
第3位 永田務 2時間29分33秒
女子マラソン T12(視覚)
第1位 道下 美里 3時間0分50秒
第5位 藤井 由美子 3時間17分44秒
第8位 西島 美保子 3時間29分12秒