東京パラリンピックに出場し、次世代の主要メンバーとして期待される中町俊耶
11月20日、「2021 ジャパンパラ車いすラグビー競技大会」が千葉市の千葉ポートアリーナで開幕し、東京パラリンピック日本代表組を含む強化指定選手24名が3チームに分かれて対決した。
大会初日の20日には、全チーム総当たりの3試合が行われ、第1試合では、「日本代表候補A」と「日本代表候補B」が対戦。東京パラリンピック代表4名を含むチームBに、育成選手で構成されたチームAが挑んだ。
今井友明、乗松聖矢、壁谷知茂、橋本勝也のラインナップでスタートしたチームBは、立ち上がりから「これが日本代表だ!」と言わんばかりにプレーで圧倒する。インバウンドからプレッシャーを仕掛け、チームAは12秒以内にフロントコートにボールを運べず苦戦する場面も見られた。
それでも、「しっかりリーダーシップをとってチームを勝利に導けるような動きと声がけをする」と今大会に臨んだ中町俊耶を中心に、成長著しい白川楓也らミッドポインター陣がパスワークでボールをつなぐ。ベンチではチームAのヘッドコーチ(以下、HC)を務めるケビン・オアー日本代表HCが“声"でメンバーの背中を押し、選手がベンチに戻るとすぐにフィードバック。ケビンHCのアドバイス一つひとつに熱心に耳を傾けた。
試合は、ピリオドを重ねるごとに点差が開き、50-38でチームBが勝利した。
第2試合は、「日本代表候補A」と「日本代表候補C」の一戦。
若手中心の平均年齢27.8歳のチームAに、平均36.6歳の経験豊富なベテラン勢が揃うチームCが立ちはだかった。
初戦よりもチーム内のコミュニケーションが増し連係プレーがスムーズになったチームAだが、リーチの長さを生かした羽賀理之のボールカットに攻撃を阻まれる。クラス3.0の島川慎一が同2.5の白川とのマッチアップで0.5以上の実力の差を見せつければ、同じくチームCの倉橋香衣はプレーの先を読み車いすを走らせ、絶妙のタイミングでバンパーを返しブロックした。
連戦の疲れもあってか徐々にプレーの精度が落ちミスの連鎖が続くチームA。チーム最年少の櫻井永遠は強烈なタックルに何度も倒されながらも、また起き上がりボールにくらいついた。
試合は50-32でチームCが圧勝。
島川は試合後、「(大会前の)合宿の中で若い選手がどんどん伸びていくのを見てすごく楽しかった。今日の試合ではターンオーバーもしっかりとっていたので、もう一歩上のレベルに成長していてくれれば」と、次世代を担う後輩たちにエールを送った。
そして、この日のラストを飾ったのは「日本代表候補B」と「日本代表候補C」の壮絶な一戦。
東京パラリンピック代表メンバーを4名ずつ擁する両チームのプライドをかけた攻防が繰り広げられた。
ハイポインター同士、同じ持ち点(クラス)同士の駆け引きがコートの至るところで行われる。
「東京パラリンピックを終えて、より細かいところにまでフォーカスするトレーニングに内容を変えた」という橋本勝也(チームB)は、1対1の場面での間合いの取り方や動きのキレにさらなる成長が見られ、ゲームコントロールにおいてもチームをリードしていく。一方のチームCも集中力を高めて強度を増していく。
一進一退、逆転に次ぐ逆転でヒートアップしてゆく両者。個人技に加え、チーム競技ならではの連係プレーで乗松聖矢(チームB)や若山英史(チームC)も積極的にトライを奪う。
最後まで1点を争う、見応え満点のゲームを制したのはチームB。52-51で勝ち切り、2勝0敗で予選を終えた。
車いすラグビーの国内大会としては2019年12月の日本選手権以来、約2年ぶりの有観客試合となった今大会。観客は激しいデッドヒートに興奮し、好プレーの数々に思わず笑顔、そして試合が終わると惜しみない拍手を送った。
選手たちは観客の前でプレーする楽しさと喜びを噛みしめ、鳴りやまない拍手に手を振って応えた。
大会2日目の21日には、エキシビションマッチ「ローポインターズ・ゲーム」と決勝戦が行われる。
■1日目試合結果
日本代表候補A ●38-50○ 日本代表候補B
日本代表候補A ●32-50○ 日本代表候補C
日本代表候補B ○52-51● 日本代表候補C
(文・張理恵、撮影・湯谷夏子)
【車いすラグビー】
1チーム4人で、8分間のピリオドを4回行い、その合計得点を競う。バスケットボールと同じ広さのコートでプレーし、ボールを持った選手の車いすの車輪2つが、敵陣のゴールラインに乗るか、もしくは通過するかでトライが認められ、1点が入る。
選手には障がいの程度に応じて持ち点があり、障がいが重い方から0.5~3.5までの7クラスに分けられている。持ち点の合計が8点以内で編成された4人が出場できる。ただし、女子選手が含まれる場合は1人につき0.5点の追加が許可される。
「ラグ車」と呼ばれる競技用車いすは「攻撃型」と「守備型」の2種類。主に持ち点が大きい選手が乗る「攻撃型」は、狭いスペースでも動きやすいようにコンパクトな作りになっている。一方、主に持ち点が小さい選手が乗る「守備型」には、前方に相手の動きをブロックするためのバンパーが付けられている。
車いすラグビーは、四肢麻痺など比較的障がいの重い人でもできるスポーツとして考案された男女混合の競技。しかし、パラリンピック競技で唯一、車いすによるタックルが認められており、「マーダー(殺人)ボール」という別名がつくほど、激しいプレーの応酬が魅力の一つ。その激しさは、ボコボコに凹んだ車いすのスポークカバーを見れば一目瞭然だ。