自身初の大会MVPを獲得した柳本あまね(写真中央)
8月7日、グリーンアリーナ神戸(神戸市)で女子車いすバスケットボールの日本一決定戦「皇后杯 第31回日本女子車いすバスケットボール選手権大会」2日目が行われ、近畿ブロックのカクテルが7連覇を達成し、3回目の皇后杯を手にした。
決勝戦に先立ち行われた、九州ドルフィン(九州)とSCRATCH(東北)の3位決定戦。九州ドルフィンが積極的に攻め得点を重ねる中、SCRATCHはパスをつないで徐々に流れを引き寄せる。競技を本格的に始めてわずか3カ月だという郡司渚名のシュートでさらに勢いに乗るSCRATCHは、さらにリードを広げる。
後半、九州ドルフィンにとっては苦しい時間帯が続くが、新星・江口侑里が存在感を示す。左腕に装具をつけてプレーする江口は、ゴールにしっかり体を向け、右手首の美しいスナップでシュートを放つ。持ち前の高さに加え、タイミングをずらす等のシュートセンスも光った。しかし、その間にもSCRATCHは相手のルーズボールをチャンスへとつないで得点を重ね、メンバー全員が出場し59-39で勝利。笑顔で大会を終えた。
また、ELFIN(関東)とパッション(四国)の5・6位決定戦は、ニューフェイスたちの活躍が印象的な試合となった。今年度チームに加入したローポインター・青山結依(パッション)、新人ながら全4試合フル出場でコートを駆け回った増田汐里(ELFIN)。センターコートで堂々とシュートを決めてみせると、観客だけでなく他チームの選手からも温かい拍手が送られた。
そうして迎えた、カクテル(近畿)とWing(関東)の決勝戦。
「百花繚乱」のスローガンのもと、それぞれの強みを結集しチーム力で戦うカクテル。
「異体同心」という言葉と共に、亡き仲間への思いを胸に戦うWing。
両チームが笑顔で向き合ったのも束の間、ティップオフの瞬間から闘志あふれる攻防が繰り広げられた。
吉田絵里架(カクテル)が先制点を奪うと、切り替えの速さと、相手をペイントエリアに寄せ付けないアグレッシブなディフェンスでリズムをつかみ、女王の風格漂うプレーで勢いに乗るカクテル。一方のWingは緊張も重なり、立ち上がりから苦しい展開を強いられる。石川理恵の3ポイントシュートや財満いずみの得点でくらいつくも、27-19とカクテルの8点リードで前半を折り返す。
第3クォーター、カクテルは開始から6分以上もの間、Wingに得点を与えずその差を広げていく。小島瑠莉(中学2年)の渾身のシュートや、西村葵(高校1年)が転びながらも体を張ってディフェンスをする姿に先輩メンバーも刺激を受け、チーム一丸となって目標に向かって駆け抜ける。
それでも、車いすをこぐ手を止めることなく、「声を出そう」と仲間を鼓舞しながらゴールを狙うWing。しかし、“40分間オールコートバスケ"を誇るカクテルの集中力は途切れることがなく、最後は全員がコートに立ち、全力で走り切った。58-37で試合終了。カクテルが前人未到の7連覇を達成し、3大会連続3回目の皇后杯を獲得した。
7連覇を達成し、喜びを見せるカクテルのメンバーとコーチ陣
「試合の入りが良く、そこで走り切れたのが勝因」だと岩野博ヘッドコーチ。この日の試合内容は「99点」と、選手たちも驚くほどの評価をチームに与えた。その先に見据えるのは大会10連覇。「励まし合ったり笑い合いながら成長できるのがこのチーム。(10連覇するまでの過程で)ベテランから若手中心のチームへとうまく切り替わっていければ」と今後のビジョンを語った。
そして、柳本あまね(カクテル)が自身初の大会MVPを受賞した。武器である3ポイントシュートに磨きをかけ、チームの司令塔となる「ポイントガード」としての役割を追求し、前回大会から地道な努力を積み重ねてきた。「MVPの獲得は『成長した』と認めてもらうことなので、絶対に欲しいと思ってこの大会に臨みました」そう語る柳本は、笑顔とともに充実感をにじませた。
2年半ぶりの開催となった皇后杯は、カクテルの大会7連覇という偉業とともに幕を下ろした。同時に、勝つ喜び、負けた悔しさ、自身とチームの成長…忘れかけていた思いが、動き出した。止まっていた時計が、また動き出した。頼もしいルーキーたちも加わり、日本の女子車いすバスケットボール界がさらに活気を帯びることを期待させる、そんな大会となった。
【5・6位決定戦】
ELFIN●20-43○パッション
【3位決定戦】
SCRATCH○59-39●九州ドルフィン
【決勝】
Wing●37-58○カクテル
【大会結果】
優勝 カクテル
準優勝 Wing
3位 SCRATCH
4位 九州ドルフィン
5位 パッション
6位 ELFIN
【大会MVP】
柳本あまね(カクテル)
【オールスター5】
クラス1 北間優衣(カクテル)
クラス2 大森亜紀子(SCRATCH)
クラス3 清水千浪(カクテル)
クラス4 土田真由美(SCRATCH)
(文・張理恵)
【車いすバスケットボール】
一般のバスケットボールとほぼ同じルールで行われる。ただし「ダブルドリブル」はなく、2プッシュ(車いすを漕ぐこと)につき1回ドリブルをすればOK。
選手には障がいの程度に応じて持ち点があり、障がいが重い方から1.0~4.5までの8クラスに分けられている。コート上の5人の持ち点の合計は14点以内に編成しなければならない。主に1.0、1.5、2.0の選手を「ローポインター」、2.5、3.0、3.5を「ミドルポインター」、4.0、4.5を「ハイポインター」と呼ぶ。
コートの広さやゴールの高さ、3Pやフリースローの距離は一般のバスケと同じ。障がいが軽いハイポインターでも車いすのシートから臀部を離すことは許されず、座ったままの状態で一般のバスケと同じ高さ・距離でシュートを決めるのは至難の業だ。また、車いすを漕ぎながら、ドリブルをすることも容易ではなく、選手たちは日々のトレーニングによって高度な技術を習得している。
ジャンプはないが、ハイポインターが車いすの片輪を上げて高さを出す「ティルティング」という技がある。ゴール下の激しい攻防戦の中、ティルティングでシュートをねじ込むシーンは車いすバスケならではの見どころの一つだ。