11月20日、第41回大分国際車いすマラソンが大分市内で開催され、大分県庁前をスタートしジェイリーススタジアムをゴールとするコースで行われた。今年は3年ぶりに海外からの一般参加も受け入れられ、マラソン、ハーフマラソンの各種目に合計182名がエントリーした。
昨年は、新型コロナウイルスの影響により応援の自粛要請など、制限された中での開催だったが、今大会は1,500人規模のボランティアを迎え入れ、沿道からも多くの声援が送られた。
T53/54マラソン男子では、マルセル・フグ(スイス)が1時間21分10秒で優勝。
スタート直後、前へ出た鈴木朋樹(埼玉県)だったが、すぐさまフグが追い抜きトップへ躍り出た。そのままフグが後続を突き放し、独走状態でコースを走り抜け、圧巻の走りで10度目の優勝を果たした。
レース前、「いいライバルがいるので自分にとってもチャレンジ」と語ったフグだが、周りを寄せつけない走りを魅せた。フグは試合後、「とてもいいレースができた」と語り、「去年よりは(タイムが)速くないが、満足している」と優勝の喜びを話した。
次いで、1時間24分44秒で日本人トップの鈴木がゴール。
大会前の記者会見で、「まだまだ基礎ができていなかった」と昨年を振り返り、この1年持久力を強化してきた鈴木。レース後、「悔しいです」と一言。2024年のパリパラリンピックに向けて、フグに勝つために一からやっていきたいと決意を語った。
2時間22分33秒で世界新記録を樹立したピーター・ドゥ・プレア
T51マラソン男子では、2時間22分33秒でピーター・ドゥ・プレア(南アフリカ)が優勝。T51クラスの世界新記録を樹立した。
大会前の記者会見で、「大きなチャンスを活かしたい」と話したピーター。12年越しの世界記録樹立となった今回のレースだったが、レースを終えて、「世界記録を出せたことが信じられない」と目を潤ませながら話した。そして、応援に駆けつけてくれていた妻子に対し、「彼らのおかげ」と日々支えてくれている家族への感謝を語った。
T53/54マラソン女子では、土田和歌子(東京都)が1時間37分59秒で7回目の優勝を果たした。
「海外から選手が集まるので、非常に楽しみにしていた」と話した今大会のレース。トライアスロンとマラソンの2種目で東京パラリンピックに出場した土田だが、東京パラリンピック後は、車いすマラソンに専念。「挑戦の年になる、自分自身を成長させていきたい」と今後の意気込みを語った。
曇り空の下スタートした今回のレースだったが、大きなアクシデントもなく大会を終えることができた。3年ぶりに沿道に歓声が戻った今大会。観客からの温かい声援は、大きな力となって選手達の背中を押した。
【結果一覧】
マラソン
・男子T53/54
優勝 マルセル・フグ(スイス) 1時間21分10秒
2位 鈴木朋樹(埼玉県) 1時間24分44秒
3位 渡辺勝(福岡県) 1時間29分28秒
・男子T52
優勝 佐藤友祈(岡山県) 1時間49分57秒
2位 上与那原寛和(沖縄県) 1時間50分00秒
3位 クリスチャン・トーレス(コロンビア) 2時間3分8秒
・男子T51
優勝 ピーター・ドゥ・プレア(南アフリカ) 2時間22分33秒※世界新記録
2位 エルネスト・フォンセカ(コスタリカ) 2時間49分45秒
・女子T53/54
優勝 土田和歌子(東京都) 1時間37秒59
2位 スザンナ・スカロニ(アメリカ) 1時間38分01秒
3位 喜納翼(沖縄県) 1時間38分11秒
ハーフマラソン
・男子T53/54
優勝 生馬知季(岡山県) 45分32秒
2位 岸澤宏樹(大阪府) 46分43秒
3位 廣道純(福岡県) 47分19秒
・男子T52
優勝 伊藤竜也(福井県) 55分54秒
2位 ジョナサン・タン(オーストラリア) 1時間4分26秒
3位 飯嶋毅洋(大阪府) 1時間11分34秒
・男子T51
優勝 清田愼也(熊本県) 1時間31分48秒
2位 甲斐邦生(大分県) 2時間5分32秒
・女子T53/54
優勝 村岡桃佳(岡山県) 54分10秒
2位 正木楓(神奈川県) 1時間3分34秒
3位 棚田優子(富山県) 1時間4分29秒
・女子T52
優勝 木山由加(岡山県) 1時間19分59秒
(文・鈴木奈緒/撮影・湯谷夏子、鈴木奈緒、村上智彦)
【陸上】
一般の陸上競技と同じく、「短距離走」「中距離走」「長距離走」「跳躍」「投てき」「マラソン」と多岐にわたった種目が行われる。
障がいの種類や程度に応じて男女別にクラスが分かれ、タイムや高さ、距離を競う。選手たちは、「義足」「義手」「レーサー」(競技用車いす)など、それぞれの障がいに合った用具を付けて、パフォーマンスを磨いている。
用具の進化によって、選手のパフォーマンスが上がっていることは事実だが、決して用具頼りの記録ではない。用具を使えば技術が上がるわけではなく、選手には使いこなすだけの身体能力、筋力、バランスなどが必須となる。
視覚障がいのクラスでは、選手に伴走する「ガイドランナー」や、跳躍の際に声や拍手で方向やタイミングなどを伝える「コーラー」などといったサポーターの存在も重要となる。選手とサポーターとの信頼なくしては成り立たず、息の合ったやりとりはふだんの練習の賜物でもある。
クラスによっては、オリンピックにも劣らないレベルの記録が出るなど、時代とともにレベルが高くなっており、毎大会トップ選手の記録更新が注目されている。多種多様な障がいの選手が一堂に会し、さまざまな工夫を凝らし、自分自身の限界に挑む姿が見られるのが、この競技の魅力でもある。