Glitters 障害者スポーツ専門ニュースメディア
2023年1月22日

第24回車いすラグビー日本選手権大会

池透暢 率いるFreedomが悲願の初優勝

Freedomの司令塔としてチームを引っ張る池透暢 | 池透暢 率いるFreedomが悲願の初優勝|第24回車いすラグビー日本選手権大会 | Glitters 障害者スポーツ専門ニュースメディア

Freedomの司令塔としてチームを引っ張る池透暢


1月20~22日、クラブチーム日本一を決める国内最高峰の大会「第24回車いすラグビー日本選手権大会」が千葉ポートアリーナ(千葉市)で行われ、Freedom(高知)が悲願の初優勝に輝いた。

2大会(22回、23回)の中止を経て、2019年12月の第21回大会以来3年ぶりの開催となった車いすラグビー日本選手権は、独特の緊張感が漂うなか幕を開けた。

予選大会を勝ち抜いた8チームが出場し行われた今大会は、まず2つのプールに分かれ4チーム総当たりの予選ラウンドが行われた。どのチームも初戦こそ硬さが見られたものの、徐々にエンジンがかかると、スピードにディフェンスにと、それぞれの持ち味を活かしたラグビーが展開された。

カナダから参戦したOkinawa Hurricanesのザチャリー・マデル | 池透暢 率いるFreedomが悲願の初優勝|第24回車いすラグビー日本選手権大会 | Glitters 障害者スポーツ専門ニュースメディア

カナダから参戦したOkinawa Hurricanesのザチャリー・マデル


なかでも見応えある試合を演じたのが、プールBのOkinawa Hurricanes(沖縄、以下ハリケーンズ)とBLITZ(東京)の対戦だ。4大会ぶりの王者奪還を狙うハリケーンズには21回大会に続いてカナダ代表の絶対的エース、ザチャリー・マデルが参戦、また日本代表候補の壁谷知茂が今シーズン加わり、選手層に厚みを増した。対するBLITZは大会最多優勝回数(8回)を誇る強豪チームで、島川慎一をはじめとする東京パラリンピック日本代表3名を擁するエリート集団だ。試合は国際マッチさながらの白熱した攻防が繰り広げられ、前半を25-25の同点で終えると、終盤まで互角の競り合いが続く。第4ピリオドで奪った2つのターンオーバーで流れを引き寄せたBLITZが、47-45で勝利を収めた。

プールAには、2015年の設立以来、日本選手権初出場となったSILVERBACKS(北海道)が登場。登録選手10名のうち7名が45歳以上という最年長チームだが、今年度に中学2年生の横内太陽が加入し平均年齢がぐっと引き下げられた。「他チームの胸を借りていろいろなことに挑戦したい」と加藤義隆キャプテン。どんなに点差が開こうとも、最後まであきらめることなく初の大舞台で堂々とプレーした。

予選ラウンドを終え、各プールの上位2チームが、決勝進出をかけたクロスオーバーへと駒を進め、準決勝はFreedom(プールA・1位)対 ハリケーンズ(プールB・2位)、BLITZ(プールB・1位)対TOHOKU STORMERS(東北・プールA2位、以下ストーマーズ)のカードで行われた。

Freedom 対 ハリケーンズの一戦。日本代表キャプテンの池透暢が選手兼ヘッドコーチ(HC)を務めるFreedomは、立ち上がりから連続得点を挙げ勢いに乗ると、第1ピリオドで18-12とハリケーンズを大きく引き離し、その後もリードを許すことなく63-48で圧勝し、優勝に王手をかけた。

BLITZ 対 ストーマーズの試合は、一進一退、逆転に次ぐ逆転の激しい攻防となった。日本代表の次世代エース・橋本勝也と中町俊耶を擁するストーマーズは、橋本のアグレッシブなアタックに加え、中町の目の覚めるようなロングパスや庄子健のランが光る。しかし、強度の高いBLITZの攻撃力は衰えることを知らない。BLITZは一時3点のリードを許すも、試合時間残り2分を切ったところで同点に持ち込んだ。だがそこで、ストーマーズの橋本がパスをカットしてトライ。48-47で接戦を制し、決勝への切符をつかんだ。チーム結成から5年。「5年で決勝に行く」との結成当時の目標を見事に成し遂げ、庄子と共にストーマーズを立ち上げた三阪洋行HCの目には涙があふれた。

両チームエース同士のスピード感溢れる攻防 | 池透暢 率いるFreedomが悲願の初優勝|第24回車いすラグビー日本選手権大会 | Glitters 障害者スポーツ専門ニュースメディア

両チームエース同士のスピード感溢れる攻防


そうして迎えた「Freedom 対 TOHOKU STORMERS」の決勝戦。どちらが勝っても初優勝となる試合に、会場の全視線が送られた。
「歳を取っても輝けるんだ。みんなが輝けるチームになろう」(Freedom)
「思いきりプレーして、思いきり楽しもう」(ストーマーズ)
思いと思いがぶつかる32分間の頂上決戦が始まった。

橋本勝也を中心に攻撃を仕掛けるストーマーズに対し、池透暢、白川楓也のハイポインターが連動しながら得点を重ねていくFreedom。橋本が走る道を作る、ストーマーズ・横森史也のディフェンスが頼もしい。横森は車いすラグビーを本格的に始めてわずか半年、日本選手権が公式戦デビューなうえに、今大会ではチーム唯一のローポインターとして重責を担いながら、決勝までの4試合を戦い抜いてきた影の功労者だ。その横森の献身的なプレーに、中町と庄子が呼応する。

試合が大きく動いたのは第2ピリオド。Freedomは、池の高さと白川のリーチの長さを生かして相手ボールを次々とカットすると、スペースに走った渡邉翔太が着実にトライを決める。1点、2点…と点差を広げ、26-21とストーマーズを大きくリードし前半を終えた。

後半に入っても、流れはFreedomにあった。司令塔として的確な指示を送り、ゲームコントロールする池の頭脳が冴えわたる。ストーマーズは、チームのスローガンとして今シーズン掲げる「デュエル(duel=勝負、戦い)」を全員がコート上で体現し、局面、局面で、目の前の相手から逃げずに戦い続ける。橋本が、池に競り勝つプレーで仲間を奮い立たせる。

Freedomは、2013年のチーム設立から今日までの“集大成"ともいうべきラインナップでバトンをつないでいく。立ち上げメンバーである最年長60歳の和田将英、畑中功介。そして昨年度に加入した森澤知央へと。それはまるでチームが歩んできた歴史を見るかのようだった。選手全員が決勝のコートに立ち、51-45で試合終了。2大会連続で準優勝に終わったFreedomが、ついに悲願の初優勝を果たした。
Freedomは予選大会を含め今シーズンの公式戦で負けなしの全勝で優勝を飾った。

決勝戦後、笑みを浮かべる大会MVPの池透暢 | 池透暢 率いるFreedomが悲願の初優勝|第24回車いすラグビー日本選手権大会 | Glitters 障害者スポーツ専門ニュースメディア

決勝戦後、笑みを浮かべる大会MVPの池透暢


池は「自分が車いすラグビーを始めて10年近くチームとしてやってきたことが、初優勝という形にできて感謝の気持ちでいっぱい。いつも支えてくれているスタッフの涙を見られたのがご褒美。最初は不安もあったが最後は自信に変わった。来年も期待したい」と充実感に満ちた表情で喜びを語った。

そして自身初の大会MVP獲得については、「初めてのMVPでドキドキして胸が熱くなった。和田さんと畑中さんがいたからFreedomがあって、Freedomがあるから僕が車いすラグビーを始めた。それを作ってくれた2人に感謝している」と胸の内を率直に綴った。

創立メンバーの和田は「最高にうれしいです」、そして畑中は「ここまで長かった。Freedomはいろいろな個性があるけど楽しいチームです」と笑顔で語り、優勝会見はなごやかな雰囲気に包まれた。

一方、優勝には届かなかったものの、初の決勝の舞台で堂々とプレーしたストーマーズの橋本は、「悔しい気持ちはあるが、これが自分たちの今の実力。すべてを出し切り、ストーマーズとしてすごく成長した姿を見せることができたので悔いはない。チームとしても個人としても、もっともっと強くなって、またこの舞台に戻ってきたい」と、時折涙をにじませながらも清々しい表情で語った。

3年ぶりに開催された車いすラグビー日本選手権。
仲間への、チームへの3年分の思いが込められた大会となった。
そして、車いすラグビーを観てみたい、選手を応援したいと会場を訪れた観客は、選手の名前が書かれた手作りグッズを揺らしながら応援し、熱のこもった全力プレーに胸を躍らせた。数百、数千ものエピソードが結集し、いくつものドラマが生まれるクラブチーム日本一決定戦に、今後も注目したい。

(文・張理恵)

■結果一覧

<最終順位>
優勝 Freedom
2位 TOHOKU STORMERS
3位 BLITZ
4位 Okinawa Hurricanes
5位 AXE
6位 Fukuoka DANDELION
7位 RIZE CHIBA
8位 SILVERBACKS

<Best Player>
0.5 横森 史也選手(TOHOKU STORMERS)
1.0 草場 龍治選手(Fukuoka DANDELION)
1.5 乗松 聖矢選手(Fukuoka DANDELION)
2.0 堀 貴志選手(Fukuoka DANDELION)
2.5 荒武 優仁選手(BLITZ)
3.0 島川 慎一選手(BLITZ)
3.5 ザック・マデル選手(OKINAWA Hurricanes)

<MVP>
3.0 池 透暢選手(Freedom)

【予選 プールA】
1位 Freedom
2位 TOHOKU STORMERS
3位 Fukuoka DANDELION
4位 SILVERBACKS

【予選 プールB】
1位 BLITZ
2位 Okinawa Hurricanes
3位 AXE
4位 RIZE CHIBA

【7位・8位決定戦】
RIZE CHIBA ○70-12● SILVERBACKS

【5位・6位決定戦】
Fukuoka DANDELION ●42-49○ AXE

【3位決定戦】
Okinawa Hurricanes ●47-52○ BLITZ

【決勝】
Freedom ○51-45● TOHOKU STORMERS

【車いすラグビー】
 1チーム4人で、8分間のピリオドを4回行い、その合計得点を競う。バスケットボールと同じ広さのコートでプレーし、ボールを持った選手の車いすの車輪2つが、敵陣のゴールラインに乗るか、もしくは通過するかでトライが認められ、1点が入る。
 選手には障がいの程度に応じて持ち点があり、障がいが重い方から0.5~3.5までの7クラスに分けられている。持ち点の合計が8点以内で編成された4人が出場できる。ただし、女子選手が含まれる場合は1人につき0.5点の追加が許可される。
「ラグ車」と呼ばれる競技用車いすは「攻撃型」と「守備型」の2種類。主に持ち点が大きい選手が乗る「攻撃型」は、狭いスペースでも動きやすいようにコンパクトな作りになっている。一方、主に持ち点が小さい選手が乗る「守備型」には、前方に相手の動きをブロックするためのバンパーが付けられている。
車いすラグビーは、四肢麻痺など比較的障がいの重い人でもできるスポーツとして考案された男女混合の競技。しかし、パラリンピック競技で唯一、車いすによるタックルが認められており、「マーダー(殺人)ボール」という別名がつくほど、激しいプレーの応酬が魅力の一つ。その激しさは、ボコボコに凹んだ車いすのスポークカバーを見れば一目瞭然だ。
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