2023年7月2日

三井不動産 2023ワールド車いすラグビーアジア・オセアニアチャンピオンシップ
車いすラグビー日本代表　「日本ラグビー」でパリパラリンピック出場権獲得！

パリパラリンピックの出場権を獲得し歓喜する日本ベンチ

6月29日～7月2日、「三井不動産 2023ワールド車いすラグビーアジア・オセアニアチャンピオンシップ」が東京体育館（東京都渋谷区）で開催された。

来年のパリパラリンピック予選を兼ねる今大会には、日本（世界ランキング3位　※2023年5月現在）、オーストラリア（同2位）、ニュージーランド（同8位）、そして韓国（同15位）の4カ国が出場し、アジア・オセアニア地域に与えられた、わずか「１枠」のパラリンピック出場権をめぐり、熾烈な戦いが繰り広げられた。
日本は、アグレッシブで質の高さをも兼ね備えた「日本ラグビー」で圧倒し、昨年の世界選手権王者・オーストラリアを55-44で下して、パリパラリンピックへの切符を勝ち取った。

海外選手の力強いタックルにも動じない島川慎一

オーストラリアとの決勝戦。
「お前たちは世界一のチームだ」
ケビン・オアーHC（ヘッドコーチ）の言葉を信じて試合に臨んだ日本代表は、立ち上がりから強いプレッシャーをかけ、安定した連係で得点を重ねていく。開始2分半で日本が新たなラインナップを送り込むと、想定内と言わんばかりにオーストラリアもすかさず一番強いラインナップを投入。すると、島川慎一のパスカットに橋本勝也の渾身のタックルと、ターンオーバーを次々と奪い一気に3点のリード。しかし、続くラインナップで同点にまで追いつかれると、さらに新たなラインナップで対抗する。キャプテンの池透暢が相手インバウンドをカットしてトライ、そして乗松聖矢が持ち前のハードワークでパスをカットして得点につなげ、怒涛の連続ターンオーバーで第1ピリオドを16-12で終えた。

第2ピリオド、必死に巻き返しを図るオーストラリアに対して、日本は揺らぐことのないチーム力で立ち向かう。コート上の4人が連動して動き、2人で相手のボーラーを封じ込めるといったボールプレッシャーにいき、あとの2人はエリアを守り、パス等の次に起こるシチュエーションのケアをする。東京パラリンピック前から取り組んできた、この「2ハード2ソフト」と呼ばれるディフェンスを徹底的に磨きあげた日本は、相手に一瞬の隙も与えず、30-25で前半を終了した。

持ち味のスピードを活かして日本の攻撃を支える池崎大輔

日本は精神的に有利な状況にあっても、決して気を緩めることはなかった。
「試合開始のブザーが鳴って終了のブザーが鳴るまで全力を尽くす」と、池崎大輔。第3ピリオドだけでも、実に6つのラインナップが次々とコートに登場し、生き生きとコートを駆け回りフルスピードで相手の足を止める。この試合ここまでベンチに下がることなくプレーし続けるのはオーストラリアの大黒柱、ライリー・バット。“世界ナンバー1プレーヤー"の名を誇るバットでさえも、体力とメンタルは極限に達しようとしている。

41-33で迎えた最終ピリオド、日本は12名のメンバー全員が出場し、この大会を最後に退任するオアーHCと築きあげたラグビーを体現する。試合時間のこり1分を切り、勝利へのカウントダウンが始まった頃、オアーHCの目に涙があふれた。55-44。予選ラウンドから強さを見せつけた日本は、7戦全勝の完全優勝を果たし、歓喜と感謝の渦の中、パリパラリンピックへの切符を掴み取った。

今大会を最後に退任が決まっているケビン・オアーHC

「パリパラリンピック出場権がかかると同時に、自分が指揮をとる最後の試合ということで、選手は様々な思いの中メンタル面のプレッシャーがかかっていたと思う。けれども全員が試合に集中して『日本ラグビー』をしっかりやってくれた」
オアーHCは誇らしげに試合を振り返り、「これまで選手には厳しい要求をしてきたが、自分を信じて、信頼してくれたことにお礼を言いたい。アリガトウゴザイマス」と、選手一人ひとりの顔を見渡しながら深々と頭を下げた。

「日本ラグビー」、「自分たちのラグビー」。選手みんなが口にするこの言葉がはっきりと表現されたのが、予選ラウンド6戦目の韓国戦だった。今大会の出場メンバー全員が競技歴3年未満で国際大会に初めて参加する選手ばかりの韓国に対して、日本はローポインターを中心としたラインナップを起用した。コート上4選手の持ち点の合計は8.0点以内というルールがあるが、最終的には4選手で合計3.5点という、この日の試合で組める最小のラインナップも見られた。ふだんはディフェンスに徹することの多いローポインターだが、4人がそれぞれの役割を即座に把握し、自らボールを持って運び、キーエリアのスペースに入り込んだ選手にパスをしてトライを決めてみせた。声を出し、コミュニケーションを取りながら、より確実な選択肢で得点を重ね、ベンチで試合を見つめるハイポインターもその戦いぶりに大きくうなずいた。

金メダルとともにパリパラリンピックへの出場権を獲得した日本代表の選手たち

「まさに日本ラグビーをやってくれた」とオアーHC。「日本チームのやるべきことは決まっている。攻撃であればしっかりスペースをとることだったり、誰がコートに出ても同じラグビーをやることを徹底している」
コート上の4人、ベンチも含めた12人が同じ絵を見ているからこそ成せるラグビーだ。そして、その基盤がチームに根付いているからこそ、その応用編ともいうべき、オーストラリアとの決勝戦でもブレずに、迷わずに、自分たちのラグビーができた。勝つべくして勝った試合だった。

団体競技として日本勢初となるパリパラリンピック出場権を獲得した、車いすラグビー日本代表。
キャプテンの池は、「ここに選ばれたメンバーは世界一だと思っているし、今すぐパリ大会があれば間違いなく金メダルを獲れただろう。これから世界のラグビーが発展したとしても、自分たちはそれをさらに超えて、パリでは絶対金メダルを獲りに行きます」と、確固たる決意を語った。

新たな体制のもと、悲願のパラリンピック金メダル獲得に向け挑む。日本のラグビーが世界の頂点に立つプロセスに注目したい。

（文・張理恵）

【試合結果】
（予選ラウンド）
▼6/29
日本 ○51-40● ニュージーランド
日本 ○53-46● オーストラリア
▼6/30
日本 ○70-18● 韓国
日本 ○57-52● オーストラリア
▼7/1
日本 ○49-40● ニュージーランド
日本 ○58-20● 韓国（※）

（決勝）
▼7/2
日本 ○55-44● オーストラリア

※韓国は大会途中で棄権したため、エキシビションゲームとして試合が行われた。
　WWR競技規則により、棄権した試合の結果は【1-0】で韓国の敗戦として記録される。
　上記は、実際の得点を反映したもの。

【ベストプレーヤー賞】
クラス0.5　ジェイムズ・マクウィラン（オーストラリア）
クラス1.0　小川仁士（日本）
クラス1.5　乗松聖矢（日本）
クラス2.0　アンドリュー・エドモンソン（オーストラリア）
クラス2.5　キャメロン・レズリー（ニュージーランド）
クラス3.0　池崎大輔（日本）
クラス3.5　橋本勝也（日本）
大会MVP 　池透暢（日本）

【車いすラグビー】
　1チーム4人で、8分間のピリオドを4回行い、その合計得点を競う。バスケットボールと同じ広さのコートでプレーし、ボールを持った選手の車いすの車輪2つが、敵陣のゴールラインに乗るか、もしくは通過するかでトライが認められ、1点が入る。
　選手には障がいの程度に応じて持ち点があり、障がいが重い方から0.5～3.5までの7クラスに分けられている。持ち点の合計が8点以内で編成された4人が出場できる。ただし、女子選手が含まれる場合は1人につき0.5点の追加が許可される。
「ラグ車」と呼ばれる競技用車いすは「攻撃型」と「守備型」の2種類。主に持ち点が大きい選手が乗る「攻撃型」は、狭いスペースでも動きやすいようにコンパクトな作りになっている。一方、主に持ち点が小さい選手が乗る「守備型」には、前方に相手の動きをブロックするためのバンパーが付けられている。
車いすラグビーは、四肢麻痺など比較的障がいの重い人でもできるスポーツとして考案された男女混合の競技。しかし、パラリンピック競技で唯一、車いすによるタックルが認められており、「マーダー（殺人）ボール」という別名がつくほど、激しいプレーの応酬が魅力の一つ。その激しさは、ボコボコに凹んだ車いすのスポークカバーを見れば一目瞭然だ。