Glitters 障害者スポーツ専門ニュースメディア
2023年8月7日

皇后杯 第32回日本女子車いすバスケットボール選手権大会

シックスマンの活躍で“真夏の頂上決戦"を制したカクテルが前人未踏の8連覇!

大会MVPに輝いた網本麻里 | シックスマンの活躍で“真夏の頂上決戦”を制したカクテルが前人未踏の8連覇!
|皇后杯 第32回日本女子車いすバスケットボール選手権大会 | Glitters 障害者スポーツ専門ニュースメディア

大会MVPに輝いた網本麻里

8月5、6日、グリーンアリーナ神戸では「皇后杯 第32回日本女子車いすバスケットボール選手権大会」が行われた。5チームが参加した今大会は、決勝でWing(関東)を52-42で破ったカクテル(近畿)が史上初の8連覇達成で頂点に立った。MVPにはチームで唯一40分間フル出場し、最多17得点を挙げて優勝に大きく貢献した網本麻里が輝いた。3・4位決定戦では、ELFIN(関東)がSCRACH(東北)に38-36で競り勝った。1回戦、3・4位決定戦予選と連敗を喫した九州ドルフィン(九州)は5位に終わった。

試合の出だしは明暗が分かれた決勝戦

オールスター5に選ばれた財満いずみ | シックスマンの活躍で“真夏の頂上決戦”を制したカクテルが前人未踏の8連覇!
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オールスター5に選ばれた財満いずみ

昨年と同一カードとなった決勝戦。最初に主導権を握ったのは、Wingだった。序盤に立て続けに得点を重ね、7連覇中の女王カクテルからリードを奪ったのだ。それは、前回にはなかった姿だった。

1年前、Wingは決勝へと駒を進めたものの、チームの中でセンターコートで行われる大舞台を経験した選手はほとんどいなかったこともあったのだろう。カクテルとの決勝では、1Qですでにダブルスコアとされた。その後、一時は1ケタ差まで猛追したが、出だしで大きくつまづいたことが最後まで大きく響き、終わってみれば21点差での完敗だった。

同じ過ちは繰り返すまいと、Wingは試合の入りを良くするための対策を講じた。その一つが、試合前のアップ方法だった。これまで以上にしっかりと体を動かし、少し疲労を感じるくらいまで体を温めることにしたのだ。すると九州ドルフィンとの初戦では、1Qから25-2と攻防にわたって圧倒。その結果、83-18という大差での勝利となった。

手応えをつかんだWingは決勝でも同じように激しめにアップをして試合に臨んだ。それが奏功し、スタートから攻防にわたってプレーにはキレがあった。カクテルが24秒バイオレーションや、ファウルが混んだのは、Wingの動きが良かったこともあったはずだ。

一方、今大会のカクテルはオフェンスで苦戦するシーンが目立った。実は前日の準決勝もディフェンスこそ強さを発揮するも、オフェンスは珍しく精彩を欠いた。その準決勝の流れを「払拭できずに、決勝でも同じような入り方をしてしまった」と岩野博ヘッドコーチ(HC)が語った通り、1Qは最初の得点を挙げてから約7分もの間、シュートがリングに嫌われ続けた。結果的に1Qの終盤に逆転したが、カクテルにとっては不発に終わった形となった。

続く2Qは両チームともに一歩も譲らず、リードチェンジが繰り返された。最後に網本の3Pシュートが決まったカクテルがリードして終えたものの、その差はわずか5点。この時点で勝負の行方はまったくわからなかった。

勝利を呼びよせたベテラン吉川の活躍

迎えた3Q、試合が大きく動いた。まずは序盤、Wingの鈴木百萌子が相手の激しいディフェンスに転倒した際に車いすのベルトが切れ、そのままではプレー続行が不可能となり、交代を余儀なくされた。それでも鈴木と交代した青柳愛奈が好守備を見せ、非常にいい役割を果たした。すると3Q始まって以降、両チームになかった得点を椎名香菜子が決め、流れはWingに傾きかけた。

しかし、カクテルにはその流れを断ち切る“シックスマン"がいた。ベテランの吉川美保だ。3Q中盤、パーソナルファウルが3つとなった北田千尋に代わってコートに入った吉川は、その直後、いきなり連続得点を挙げてみせた。それは3Qに入って約4分間、得点できずにいたチームを鼓舞する値千金のシュートだった。吉川は終盤にも得点し、わずか3分間で6得点の活躍を見せた。

すると、このベテランのプレーにレギュラー陣も奮起した。4Qに入ると、柳本あまね、網本、清水千浪といった、女子日本代表として活躍する選手たちが競うように得点を決め、その差を広げた。Wingも椎名が3Pシュート2本を含む12得点と孤軍奮闘したものの、反撃には至らなかった。

粘るWingを退け、日本一を達成したカクテル。だが、「最高の入りだった」と語っていた1年前とは異なり、試合後、岩野HCは開口一番に「あまりいい出来とは言えない試合だった」と述べた。しかし裏を返せば、それでも負けないのがカクテルの強さでもある。今大会においては流れを変えた“シックスマン"の存在が大きかった。準決勝では清水がその役割を果たし、そして決勝では吉川だった。
試合の流れを牽引した吉川美保 | シックスマンの活躍で“真夏の頂上決戦”を制したカクテルが前人未踏の8連覇!
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試合の流れを牽引した吉川美保

特にベンチを温めることの方が多く、決してプレータイムが多くはない選手の一人である吉川の活躍は、チームに力を与え、そして観客を魅了したに違いない。岩野HCも「あの3Qで吉川が流れを引き寄せてくれたことが最大の勝因」と称えた。

結局、決勝での吉川のプレータイムは3Qでのわずか約4分間にとどまった。それでも彼女は優勝の立役者となった。それは、自らの役割を理解し、ベンチにいる時からしっかりと準備していたからにほかならない。

「ベテランである私の役割は誰かにトラブルが発生した時にバックアップできる存在であること。だからベンチではいつでも出られるように心の準備はしています。今日は千尋がファウル3つになった時に“呼ばれるだろうな"とは予想していました。あとはコートに出たらいつも通りできることを一生懸命やるだけでした。誰しもその日の調子というのはあるものなので、だからこそ誰が出てもいつも通りにプレーするのがカクテルのスタイル。私はみんなみたいに速さはないので、やれることはただ一つ。インサイでシュートを決めること。だから今日も絶対に決めてやる、という強い気持ちでプレーしました」

また、カクテルは中学3年生の小島瑠莉と高校2年生の西村葵の飛躍もチームの底上げとなっている。優勝がかかっている大一番、しかもリードがわずか2点という厳しい状況下で2人を投入すること自体、今までにはなかったことだろう。岩野HCも「経験を積ませるための起用ではもうない」と述べている通り、初出場だった前回大会とは異なり、2人はすでに列記とした戦力となっている。

忘れられなかった悔しさを糧に励んだ日々の練習

一方、Wingは敗れはしたものの、スタートで大きく離された昨年とは異なり、リードを奪うこともあった今回は、チームとしての成長がうかがい知れた。選手たちの高いモチベーションとなっていたのは、言うまでもなく、1年前の悔しさにほかならない。

昨年末、チームで忘年会を開いた際も、結局は皇后杯の動画を見ていたと言い、いつのまにか反省会になっていたという。その席で改めてチームメイトの「勝ちたい」という気持ちを再確認し、気持ちが引き締まったと語るのは、鈴木だ。
今大会大量得点を挙げた鈴木百萌子 | シックスマンの活躍で“真夏の頂上決戦”を制したカクテルが前人未踏の8連覇!
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今大会大量得点を挙げた鈴木百萌子

本来であれば前回大会で現役を引退しようと考えていたというが、「このままでは終われない」と一念発起。フルタイムで仕事をしながらも可能な限り、バスケットに時間を費やしてきた。パーソナルトレーナーのもとでトレーニングするなどしてフィジカルを強化。ベンチプレスは昨年の倍の重さを持ち上げるまでになった。

さらにチーム練習では男子選手を相手に、いかにタフショットをねじ込むかに取り組んだ。ホットラインとされる椎名とは、パスの高さやタイミングを徹底的に合わせた。最後は阿吽の呼吸でパスがもらえるようになるまで信頼を高め合うことができたという。

「男子を相手にこれだけインサイドのパスが通り、シュートを決められたのだから大丈夫!」。そう自信を持って臨んだ今大会、初戦の九州ドルフィン戦で、鈴木は42得点を叩き出した。

迎えた決勝も、ファーストショットを決め、幸先いいスタートを切った。ところが、強いコンタクトをしてきた相手のディフェンスに転倒した際に右ひじを痛めた。「言い訳にはするつもりはない」としながらも、やはり影響は小さくはなかったのだろう。3Qの途中、ベルトが切れて一度ベンチに下がった後、3分後にはコートに戻ったものの、4Qとあわせてもその後シュートが決まったのは一度きり。フリースローの場面ではボールがリングに届かないほど、右ヒジの状態は悪かった。

またWingには厳しいチーム事情もあった。ミドルポインター不在の中、クラス1点台の選手が3人というラインナップでの戦いを余儀なくされたからだ。それでも女子ハイパフォーマンス強化指定選手4人を擁するカクテルと堂々と渡り合ったのだ。2ケタ差ではあったが、内容的にはまさに“惜敗"と言えた。

試合後、両チームには涙する姿があった。それだけカクテルにとっては苦しい中での勝利だったのだろう。そしてWingには勝つ可能性を感じることができたからこその悔しさがあったに違いない。

今大会で8連覇となったカクテルには、岩野HCが就任して以来の目標としてきた“10連覇"が見えてきた。果たしてこのままカクテルが連勝街道をひた走るのか。それとも牙城を崩すチームが出現するのか。次回の皇后杯も熱い戦いを期待したい。

(文・斎藤寿子/写真:湯谷夏子、木林暉)

■結果一覧
<最終順位>
1位 カクテル
2位 Wing
3位 ELFIN
4位 SCRATCH
5位 九州ドルフィン

<試合結果>
〈1回戦〉
ELFIN ●39-40○ SCRATCH
九州ドルフィン ●18-83○ Wing
〈準決勝〉
カクテル ○53-35● SCRATCH
〈3・4位決定戦予選〉
ELFIN ○54-40● 九州ドルフィン
〈3位決定戦〉
ELFIN ○38-36● SCRATCH
〈決勝〉
カクテル ○52-42● Wing

<オールスター5>
MVP 網本麻里(カクテル)
クラス1 財満いずみ(Wing)
クラス2 江口侑里(ELFIN)
クラス3 清水千浪(カクテル)
クラス4 土田真由美(SCRATCH)
【車いすバスケットボール】
 一般のバスケットボールとほぼ同じルールで行われる。ただし「ダブルドリブル」はなく、2プッシュ(車いすを漕ぐこと)につき1回ドリブルをすればOK。
選手には障がいの程度に応じて持ち点があり、障がいが重い方から1.0~4.5までの8クラスに分けられている。コート上の5人の持ち点の合計は14点以内に編成しなければならない。主に1.0、1.5、2.0の選手を「ローポインター」、2.5、3.0、3.5を「ミドルポインター」、4.0、4.5を「ハイポインター」と呼ぶ。
コートの広さやゴールの高さ、3Pやフリースローの距離は一般のバスケと同じ。障がいが軽いハイポインターでも車いすのシートから臀部を離すことは許されず、座ったままの状態で一般のバスケと同じ高さ・距離でシュートを決めるのは至難の業だ。また、車いすを漕ぎながら、ドリブルをすることも容易ではなく、選手たちは日々のトレーニングによって高度な技術を習得している。
ジャンプはないが、ハイポインターが車いすの片輪を上げて高さを出す「ティルティング」という技がある。ゴール下の激しい攻防戦の中、ティルティングでシュートをねじ込むシーンは車いすバスケならではの見どころの一つだ。
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