相手ディフェンスを掻い潜りトライを決めるベテラン池崎大輔
10月18日、「International Wheelchair Rugby Cup Paris 2023」がフランス・パリのハル・ジョルジュ・ カルパンティエで開幕した。
ラグビーワールドカップ・フランス大会組織委員会とワールド車いすラグビー(WWR)の共催で行われる今大会には世界ランキング上位8か国が出場し、5日間にわたって熱戦が繰り広げられる。会場はフランスの大応援団で埋め尽くされ、コート上の声をかき消すほどの歓声が鳴り響いた。
悲願のパラリンピック金メダル獲得を狙う車いすラグビー日本代表にとっては、自らの現在地と各国の状況を知る貴重な実戦の機会となる。同時に、8月の岸 光太郎ヘッドコーチ(HC)就任後初の国際大会としても注目される。
試合は4カ国ずつ2つのプールに分かれて総当たりの予選ラウンドを行い、各プール上位2チームが準決勝へと進む方式で行われる。
プールBの日本(世界ランキング3位 ※2023年10月現在)は大会1日目の10月18日、ニュージーランド(同8位)との初戦に臨んだ。
日本は、スターティングラインナップに、ハイポインター2人とローポインター2人によるハイローラインを起用し、今大会がフル代表レベルの国際大会デビューとなる草場龍治も名を連ねた。初戦とあってか硬さの見えた立ち上がり、“日本対策"をして臨んだニュージーランドに、インバウンド後のボールを奪われ連続得点を許してしまう。すぐにセカンドラインナップを送り込んだ日本は、マンツーマン・ディフェンスで相手のパスコースをふさぎ、オフェンスでは着実にトライを取って流れを取り戻すと、第1ピリオドを9-9の同点で終えた。
日本代表として初の海外遠征ながら堂々たるプレーを見せた安藤夏輝
代表歴最長を誇るベテランの島川慎一が「選手全員がコーチングできるチーム」と語るように、コート内にいる4人だけではなく、ベンチで戦況を見守るメンバーも声を出し、仲間に指示を与える。第2ピリオドでは、波状ディフェンスとも言うべき、次々と壁になって立ちはだかる日本の守備が光り、23-21で試合を折り返した。
後半に入ると、今大会に7名で挑むニュージーランドに疲れが見え始め、試合序盤のような勢いはなくなりつつあった。それでも日本は気を緩めることなく自分たちのラグビーに集中する。第3ピリオド、ニュージーランドが7得点を挙げたのに対し、日本はダブルスコア以上となる15得点を叩き出し、38-28とリードを広げた。
第4ピリオドでは、今大会が初代表、初海外遠征となった安藤夏輝も存在感を見せ、若手とベテランが融合したラインナップが躍動する。安藤と草場が所属するクラブチームの先輩である乗松聖矢は大会前、「初出場のふたりには、今できるプレーを100パーセントでやってもらいたい。自分はそれをバックアップできるようにコミュニケーションをしっかりとりたい」と話していた。乗松はその言葉通りのリーダーシップで、草場と組むラインナップでは絶妙の連係プレーを発揮し、自らもトライを決めた。日本は52-36でニュージーランドに圧勝し、岸HC就任後初の国際試合を白星で飾った。
キャプテンの池透暢は、「スペース・チェアポジション・ディフェンス・ハードワーク…といった日本が目指すラグビー、“正しいプレー"をやり続けようと話して試合に臨んだ。メンバーのコンディション不良や普段と違うコートの床などイレギュラーな状況があったが、イレギュラーというのは必ず自分たちを強くしてくれる。今ある環境の中でベストを尽くそうとチームで取り組んだことが、終盤にかけて良いプレーを生んだ」と試合を振り返った。
大会2日目の10月19日、日本は“正しいプレー"に磨きをかけ、予選ラウンド2戦目となるアメリカとの一戦に臨む。
・大会1日目(10月18日)
■POOL A
オーストラリア ●48-49◯ カナダ
イギリス ○55-49● デンマーク
■POOL B
日本 ○52-36● ニュージーランド
フランス ●51-53○ アメリカ
(写真・中島功仁郎、木林暉 / 文・張 理恵)
【車いすラグビー】
1チーム4人で、8分間のピリオドを4回行い、その合計得点を競う。バスケットボールと同じ広さのコートでプレーし、ボールを持った選手の車いすの車輪2つが、敵陣のゴールラインに乗るか、もしくは通過するかでトライが認められ、1点が入る。
選手には障がいの程度に応じて持ち点があり、障がいが重い方から0.5~3.5までの7クラスに分けられている。持ち点の合計が8点以内で編成された4人が出場できる。ただし、女子選手が含まれる場合は1人につき0.5点の追加が許可される。
「ラグ車」と呼ばれる競技用車いすは「攻撃型」と「守備型」の2種類。主に持ち点が大きい選手が乗る「攻撃型」は、狭いスペースでも動きやすいようにコンパクトな作りになっている。一方、主に持ち点が小さい選手が乗る「守備型」には、前方に相手の動きをブロックするためのバンパーが付けられている。
車いすラグビーは、四肢麻痺など比較的障がいの重い人でもできるスポーツとして考案された男女混合の競技。しかし、パラリンピック競技で唯一、車いすによるタックルが認められており、「マーダー(殺人)ボール」という別名がつくほど、激しいプレーの応酬が魅力の一つ。その激しさは、ボコボコに凹んだ車いすのスポークカバーを見れば一目瞭然だ。