10月19日、フランス・パリ(会場:ハル・ジョルジュ・ カルパンティエ)を舞台に熱戦が繰り広げられている「International Wheelchair Rugby Cup Paris 2023」は大会2日目を迎え、世界ランキング3位の日本は、予選ラウンド2戦目で同1位のアメリカを55-50で破り開幕2連勝とした。
第1ピリオド、日本が初戦と同じくハイローラインナップでスタートに臨んだのに対し、アメリカは昨年の世界選手権に出場したメンバーを起用。両者ともコートのスペースを広く使い、長めのパスでつなぐスピーディーなラグビーを展開する。序盤の連係ミスにより日本が1点を追いかける状況が続くが、コートで戦うメンバーに焦りや浮付いた様子はなかった。
14-15のビハインドで迎えた第2ピリオド。成熟度を増した、池透暢―島川慎一―羽賀理之―倉橋香衣のラインナップが安定したプレーでリズムを整える。日本の堅いディフェンスが、アメリカの体力、そして戦術としてのカギも握る「タイムアウト」をじりじりと削っていく。ただ、相手も一歩も引く気配はない。ひとつのミスも許されない中、さすが世界トップレベル同士の戦いと唸らせる攻防が続く。ピリオド中盤で日本がターンオーバーを奪うが、ラストでトライを取ったのはアメリカ。27-27の同点で前半を終えた。
パスカットやインバウンダー等の様々な役割を器用にこなす小川仁士
会場では、ホームゲームと錯覚するほどの「ニッポン!」コール。パリの日本人学校の小学1年生から中学3年生までの全校生徒、約150人が応援にかけつけ、日本の旗や選手の写真入りうちわで、チームジャパンにパワーを送った。
「子どもたちの『ニッポン』コールに場内DJも加わって、会場全体が自分たちを応援してくれているみたいでうれしかった」と、倉橋はかわいい応援を振り返り、白い歯を見せ満面の笑みで語った。
第3ピリオド。アメリカはコート上の4人中2人がペナルティーボックスに入った状態からのスタートとなり苦戦を強いられる。一方で、「後半に強い」日本はチーム力をフル稼働させる。ボールにくらいついて、羽賀や小川仁士がパスカットでターンオーバーを奪う。池崎大輔と橋本勝也のコンビネーションにも磨きがかかり、キーエリアでの状況を即座に判断し、パスダミーから自ら切り込んだ橋本のトライが光った。そうして、41-37と精神的にも有利な状況で最終ピリオドにつないだ。
「三井不動産 2023ワールド車いすラグビー アジア・オセアニア チャンピオンシップ」(6/29~7/2、東京)で見せた強さは本物だ、と証明するかのように、この試合に登録したメンバー全員の総力戦で戦い抜いた。最後はアメリカが主力メンバーをベンチに下げ、55-50で試合終了。
昨年の世界選手権では準決勝でアメリカに敗れ悔し涙を見せた日本だったが、チーム力に加え、メンタルの成長を印象づける勝利でリベンジを果たした。
持ち味のスピードを活かし次々とトライを決めていく橋本勝也
試合後、今大会では羽賀とともにバイスキャプテンを務める橋本は、「チームとして勝利できてうれしい。優勝は目指しているが、あくまでもチームの目標はパリ・パラリンピックでの金メダル獲得。この大会に向けて強化してきた部分をどれだけコートで体現できるか、個人よりもチームとしてのプレーを意識して、この先も戦っていきたい」と、きりっと引き締まった明るい表情で語った。
各チームが2試合を戦い、プールBでは唯一2勝をあげた日本。
大会3日目の10月20日、予選ラウンド全勝での準決勝進出をかけ、地元・フランスと対戦する。
・大会2日目(10月19日)
■POOL A
デンマーク ●46-50◯ カナダ
イギリス ●48-50○ オーストラリア
■POOL B
フランス ○46-37● ニュージーランド
日本 ○55-50 ●アメリカ
(写真・中島功仁郎、木林暉 / 文・張 理恵)
【車いすラグビー】
1チーム4人で、8分間のピリオドを4回行い、その合計得点を競う。バスケットボールと同じ広さのコートでプレーし、ボールを持った選手の車いすの車輪2つが、敵陣のゴールラインに乗るか、もしくは通過するかでトライが認められ、1点が入る。
選手には障がいの程度に応じて持ち点があり、障がいが重い方から0.5~3.5までの7クラスに分けられている。持ち点の合計が8点以内で編成された4人が出場できる。ただし、女子選手が含まれる場合は1人につき0.5点の追加が許可される。
「ラグ車」と呼ばれる競技用車いすは「攻撃型」と「守備型」の2種類。主に持ち点が大きい選手が乗る「攻撃型」は、狭いスペースでも動きやすいようにコンパクトな作りになっている。一方、主に持ち点が小さい選手が乗る「守備型」には、前方に相手の動きをブロックするためのバンパーが付けられている。
車いすラグビーは、四肢麻痺など比較的障がいの重い人でもできるスポーツとして考案された男女混合の競技。しかし、パラリンピック競技で唯一、車いすによるタックルが認められており、「マーダー(殺人)ボール」という別名がつくほど、激しいプレーの応酬が魅力の一つ。その激しさは、ボコボコに凹んだ車いすのスポークカバーを見れば一目瞭然だ。