車いすラグビーの世界大会「International Wheelchair Rugby Cup Paris 2023」は大会3日目の10月20日、予選ラウンド最終戦が行われ、ここまで2勝0敗の日本(世界ランキング3位)は、1勝1敗のフランス(同6位)と対戦した。前半、4点のビハインドを負うも、後半に怒涛の巻き返しを図り同点に持ち込んだ日本。最後まで果敢に攻めたが49-50で惜敗した。
予選ラウンドを終え、プールBは日本、フランス、アメリカが2勝1敗で並び、得失点差で1位通過となった日本は準決勝進出を果たした。
会場となったハル・ジョルジュ・ カルパンティエ(フランス・パリ)には多くのファンが駆けつけ、観客席では両国の旗が揺れた。フランスが勝利すると場内に大歓声が響いた。
第1ピリオド、相手のインバウンドから強いプレッシャーをかける日本は、順調な立ち上がりを見せる。ターンオーバーを取られては取り返す壮絶なバトルが繰り広げられる。フランスのハイポインターを引きつけバシッと動きを止める乗松聖矢の献身的なディフェンスが池透暢に道を作る。乗松はピリオド残り0.2秒で自らトライも決めてみせ、13-13の同点とした。
第2ピリオドに入っても、お互い一歩も譲らないシーソーゲームが続く。試合が大きく動いたのは残り3分を切った頃。相手のディフェンスによるものなのか、日本の“距離感"にわずかなズレが生じる。パスが長かったり短かったりと思うように通らず、立て続けにターンオーバーを与え、痛恨の3連続失点。23-27の4点ビハインドで前半を終える。
スピードのある相手ハイポインターの動きを封じる若山英史
同じような状況で重い空気を引きずってしまったのが1年前の日本だった。けれども、この日は違った。
暗い雰囲気が漂うどころか、ハーフタイムに円陣を組むと、活発に飛び交う仲間の意見に耳を傾け、全員が大きくうなずく。
「(負けていても)気持ちが切れなかった。自分たちのやることを、しっかりやろうと確認した」と、小川仁士。
苦しい時ほど声を出し、再び心をひとつにした。
第3ピリオド、クラス3.0のハイポインター同士2対2のせめぎ合いが観客の目を釘付けにする。トライラインの最後まであきらめない日本のディフェンスに、フランスはノートライを連発する。ハーフタイムに一番大きな声で仲間を奮い立たせた橋本勝也がクラス3.5の意地を見せ、フランスのスピードスターを置き去りにするランでトライ。橋本は4分足らずの間に2つのターンオーバーと8つのトライを奪う大車輪の活躍で、38-38と試合を振り出しに戻した。
最終ピリオド。仲間がきっと来ると信じ、懸命にボールをキープする若山英史。池がそのボールを受け取り、池崎へとつなぎ、トライを取った。追いついては、また相手に一歩先を行かれる。この緊迫した場面でコートに送り込まれたのは、フル代表初選出の草場龍治。持てる力のすべてを出し得点を奪った。しかし、残り7.8秒でフランスがトライを挙げ49-50。橋本がゴールをめがけて走るも数メートル届かず、試合終了のブザーが鳴った。
相手オフェンスに必死に食らいつく副キャプテンの羽賀理之
歓喜に沸くフランスを横目に肩を落とす日本。だが、けっして下を向いてはいなかった。
「負けたことは悔しいが、自分たちができることはやったので、そこまで悲観的になる必要はないと思っている」若山は胸を張って、そう語る。
そして副キャプテンの羽賀理之は、「反省すべき点は反省したうえで気持ちを切り替え、明日に向かって最高の試合をしようと話し合った」と、すっきりした表情でコートを後にした。
予選ラウンドの3試合を終え、プールBは、日本、フランス、アメリカの3チームが2勝1敗で並び、得失点差により日本が1位通過、フランスはプール2位で準決勝進出を決めた。
大会4日目の10月21日、日本はプールAを2位通過したオーストラリアとの準決勝に臨む。
・大会3日目(10月20日)
■POOL A
イギリス ●47-48◯ カナダ
デンマーク ●50-57◯ オーストラリア
■POOL B
アメリカ ◯48-35● ニュージーランド
日本 ●49-50◯ フランス
(写真・中島功仁郎、木林暉 / 文・張 理恵)
【車いすラグビー】
1チーム4人で、8分間のピリオドを4回行い、その合計得点を競う。バスケットボールと同じ広さのコートでプレーし、ボールを持った選手の車いすの車輪2つが、敵陣のゴールラインに乗るか、もしくは通過するかでトライが認められ、1点が入る。
選手には障がいの程度に応じて持ち点があり、障がいが重い方から0.5~3.5までの7クラスに分けられている。持ち点の合計が8点以内で編成された4人が出場できる。ただし、女子選手が含まれる場合は1人につき0.5点の追加が許可される。
「ラグ車」と呼ばれる競技用車いすは「攻撃型」と「守備型」の2種類。主に持ち点が大きい選手が乗る「攻撃型」は、狭いスペースでも動きやすいようにコンパクトな作りになっている。一方、主に持ち点が小さい選手が乗る「守備型」には、前方に相手の動きをブロックするためのバンパーが付けられている。
車いすラグビーは、四肢麻痺など比較的障がいの重い人でもできるスポーツとして考案された男女混合の競技。しかし、パラリンピック競技で唯一、車いすによるタックルが認められており、「マーダー(殺人)ボール」という別名がつくほど、激しいプレーの応酬が魅力の一つ。その激しさは、ボコボコに凹んだ車いすのスポークカバーを見れば一目瞭然だ。