2023年10月22日

International Wheelchair Rugby Cup Paris 2023（最終日）
車いすラグビー日本代表 3位決定戦でフランスを下し銅メダル獲得！

攻撃のながれを変え逆転の立役者となった橋本勝也

車いすラグビーの世界頂上決戦「International Wheelchair Rugby Cup Paris 2023」は大会最終日の10月22日、アコーホテルズアリーナ（フランス・パリ）で決勝戦と順位決定戦が行われ、フランスとの3位決定戦に臨んだ日本は大逆転劇を演じ、50-49で勝利を収め銅メダルを獲得した。

休日とあって、会場にはフェイスペイントをした家族連れやフランスの国旗を持った大勢のファンが訪れ、選手たちがコートに現れると場内は大歓声に包まれた。

準決勝から一夜明け、引き締まった表情でティップオフを迎えた日本。試合開始早々、相手のパスをカットして得点につなげ、リードする展開で試合を運ぶ。3点、4点…と得点を重ねるが、それに反比例して、フランスの強いディフェンスが日本のタイムアウトを1つ、また1つと削っていく。ピリオド残り6秒で、ロングパスからのトライを決め13-13の同点としたフランス。“ホームの意地"が感じられた。

相手のパスミスを逃さずターンオーバーを決める池崎大輔

第2ピリオド、フランスのキャプテン、ジョナサン・イベルナが、トライライン手前の「キーエリア」付近で蛇行をしながら時間を使ってトライするシーンが、やけに気になる。日本の攻めるディフェンスに、たまらず相手もタイムを取り、両チームともにピリオド中盤にして、コート内の選手が要求できる4回のタイムアウトを使い果たした。早速それが影響を及ぼし、フロントコートにどうにかボールを出そうと、相手が苦し紛れに放ったパスを、池崎大輔が全速力で追いかけキャッチしターンオーバー。リードしては戻される互角の戦いで25-25、またもや同点で試合を折り返した。

フランスに多くのラインナップがあるわけではない。しかしその分、個人技を存分に生かしたプレーで日本の守備を突破する。
後半に入っても、前半と同じようなペースで試合が進み、第3ピリオドを37-37の同点で終了した。

勝利の行方が気になり始めた最終ピリオド。両者ともに、タイムアウトを取れない厳しい状況が、プレーの精度を落とす。ひたすらチャンスを狙っていたフランスが、ここぞとばかりにギアを上げ、12秒バイオレーションを取られまいと投げた、日本の甘いボールをさらった。フランスの得点で43-45となった、試合時間のこり3分07秒。羽賀理之の車いすにトラブルが起きて試合が止まった。見ている人の多くは、おそらくこれを日本のピンチだと感じたことだろう。ところが、この“不運"こそが大逆転劇の幕開けだった。

中盤の苦しい展開で起用されるも見事に役割を果たした草場龍治

池透暢と倉橋香衣をコートに残し、羽賀と島川慎一がベンチに下がった。そして急遽、乗松聖矢と橋本勝也がコートに送られた。その直後に43-46とされた日本だが、強度を高めたディフェンスで、相手にバックコート・バイオレーションを起こさせ、残り1分31秒で45-46。1点を取られて45-47になるも、ベンチを含め誰一人として、あきらめてはいなかった。「絶対に勝ってやる。俺が決めるんだ！」橋本はそう呟き、感覚を研ぎ澄ました。ゴールへの執着心、勝利への執着心が、プログラミングされたかのような4人の連係を生む。フランスのスペースをとことん潰し、相手のインバウンドに極度のプレッシャーをかけた。日本のトライライン手前、5メートル程のエリアで混戦となる。

その時だった。一瞬の隙をついて、橋本、池、橋本、橋本と、日本がわずか23秒の間になんと4連続トライを挙げた。49-47、時計は残り43秒を示す。両者1つずつゴールを奪い、さらにフランスが決死のトライを決める。そして、試合終了のブザー。コート中央の電光掲示板に大きく映し出されたのは、“50-49"。

なんという幕切れ。こんな展開をどれだけの人が予想できただろうか。
ヒーローとなった4人を、ベンチメンバーが満面の笑みとハイタッチで迎える。観客席は歓声と口笛と拍手が入り乱れ、会場のボルテージは最高潮に達した。

チーム一丸となって掴んだ勝利をハイタッチで讃え合う池透暢

「誰もが勝利を信じて最後の1秒まであきらめずに戦った。自分たちのプレーをやり切れば勝てる、そう信じた結果が勝利につながった」キャプテンの池は、喜びをかみしめながら勝因を語った。
そして、この試合をパリ・パラリンピックの決勝だと思って臨んだと明かし、「金メダルを獲ったくらいうれしい」と、うっすら涙を浮かべた。

劇的勝利も、悔しい負けも経験した今大会。
パラリンピックを1年後に控え、世界の強豪がライバルたちを研究し、それぞれの武器を磨いている。
日本が目指すのは、パリ・パラリンピックでの金メダル獲得。目標は明確だ。
車いすラグビー日本代表は、悲願達成に向け、成長と前進を続ける。

・大会5日目(10月22日)
■7・8位決定戦
ニュージーランド ●47-54◯ デンマーク

■5・6位決定戦
イギリス ◯45-43● アメリカ

■3位決定戦
日本 ◯50-49● フランス

■決勝
カナダ ●48-53◯ オーストラリア

＜最終順位＞
優勝　オーストラリア
2位　カナダ
3位　日本
4位　フランス
5位　イギリス
6位　アメリカ
7位　デンマーク
8位　ニュージーランド

＜MVP＞
クラス0.5 Jack Smith(イギリス)
クラス1.0 Lee Fredette(アメリカ)
クラス1.5 Cedric Nankin(フランス)
クラス2.0 Cody Caldwell(カナダ)
クラス2.5 Cameron Leslie(ニュージーランド)
クラス3.0 Jonathan Hivernat(フランス)
クラス3.5 Zak Madell(カナダ)

（写真・中島功仁郎、木林暉／文・張理恵）

【車いすラグビー】
　1チーム4人で、8分間のピリオドを4回行い、その合計得点を競う。バスケットボールと同じ広さのコートでプレーし、ボールを持った選手の車いすの車輪2つが、敵陣のゴールラインに乗るか、もしくは通過するかでトライが認められ、1点が入る。
　選手には障がいの程度に応じて持ち点があり、障がいが重い方から0.5～3.5までの7クラスに分けられている。持ち点の合計が8点以内で編成された4人が出場できる。ただし、女子選手が含まれる場合は1人につき0.5点の追加が許可される。
「ラグ車」と呼ばれる競技用車いすは「攻撃型」と「守備型」の2種類。主に持ち点が大きい選手が乗る「攻撃型」は、狭いスペースでも動きやすいようにコンパクトな作りになっている。一方、主に持ち点が小さい選手が乗る「守備型」には、前方に相手の動きをブロックするためのバンパーが付けられている。
車いすラグビーは、四肢麻痺など比較的障がいの重い人でもできるスポーツとして考案された男女混合の競技。しかし、パラリンピック競技で唯一、車いすによるタックルが認められており、「マーダー（殺人）ボール」という別名がつくほど、激しいプレーの応酬が魅力の一つ。その激しさは、ボコボコに凹んだ車いすのスポークカバーを見れば一目瞭然だ。