得意のレイアップシュートを決める今大会チーム最年長の古川諒
11月10~12日、北九州市立総合体育館では「第20回北九州チャンピオンズカップ国際車いすバスケットボール大会」が開催された。今大会には日本のほか、イギリスと韓国の3カ国が参加。2試合ずつ総当たりでの予選リーグが行われ、上位2チームが決勝を行った。その結果、予選リーグを1位通過(4勝0敗)したイギリスが、決勝では2位通過(2勝2敗)の韓国を60-48で破り、完全優勝を達成した。一方、日本は予選で4戦全敗という結果に終わった。だが、そこにはチームが最大のテーマとしていた「成長」があった。今後につながる爪痕を残した3日間の軌跡をたどる。
2試合目で見せたプレスへの対応力
今大会、日本は30歳以下の男子次世代強化指定選手の中から12人を選抜して構成された「次世代男子日本代表」を結成。そのなかには2025年の男子U23世界選手権を目指す若手が7人含まれ、さらに4人が国際大会デビューというフレッシュな顔ぶれとなった。
そのなかでひときわレベルの違いを見せつけたのが、U23世界選手権に2度の出場経験を持つ古崎倫太朗(2.5)だ。17年にはチーム最年少の16歳で出場。そして昨年には日本車いすバスケットボール界にとって史上初の金メダル獲得に大きく貢献した古崎。最近では男子ハイパフォーマンス強化指定選手の強化合宿にも参加するなど、次世代のなかでは群を抜いた存在だ。その古崎が、大会初日の初戦からエースとしてチームをけん引し、28得点をマークした。
しかし、対戦相手の韓国が試合巧者ぶりを発揮した一戦でもあった。韓国から参加したのは、昨年と同じクラブチーム「COWAY」。今年6月の世界選手権や10月のアジアパラ競技大会の韓国代表が3人所属するなど、経験豊富な選手がそろい、昨年には韓国国内リーグで優勝に輝いている。
その韓国に1Qで18-25と大きくリードを許した日本は、2Qでは後半からしいてきた相手のプレスディフェンスに翻弄され、一気に流れをもっていかれた。3Qは古崎が孤軍奮闘したものの、相手の勢いを止めるまでには至らず、56-83と完敗を喫した。
それでもやられたままで終わったわけではない。今年7月のアジアドリームカップではハイパフォーマンス強化指定選手も含まれた日本代表にチーム最年少として選出され、活躍した19歳の岩田晋作(4.5)がようやく“らしさ"を発揮。得意とするペイントアタックでゴールを狙い、3連続得点と実力の高さを示した。
さらに今大会最年少16歳の岡田壮矢(3.5)や、19歳で今大会が初の国際大会となった中川西優紀(3.5)、昨年に続いての代表選出となった18歳の谷口拓磨(2.0)と、いずれも25年のU23世界選手権を目指す若手メンバーも得点。4Qは18-16と韓国を上回り、一矢報いた。
その約6時間後、日本はイギリスとの第1戦に臨んだ。イギリスは半数の6人が10代と若く、チームの平均年齢は日本の20.6歳とほぼ同じ21.2歳。2年後のU23世界選手権をはじめ、今後何度も対戦することが予想される同世代同士の注目の一戦だった。
1Qの序盤、先に主導権を握ったのはイギリス。日本が得点できずに苦戦を強いられたなか、イギリスは次々と得点を挙げ、勢いに乗った。ようやく日本に得点が生まれたのは、試合開始から4分を過ぎてからのことだった。古崎が12得点を挙げて猛追し、1Qは14-18となんとか食らいついた。
しかし、2Q以降は相手の勢いにのまれた。3Qを終えて29-53。相手がほぼベンチメンバーで臨んできた4Qこそ13-10と上回ったが、結果は42-63。厳しい現実を突き付けられた。
それでも確かな成長の跡はあった。韓国戦ではボールをフロントコートに運ぶこともままならなかったプレスディフェンスに対し、イギリス戦ではしっかりとブレイクが成功していたのだ。土子大輔ヘッドコーチ(HC)によると、事前にプレスブレイクの練習はほとんどできていなかったのだという。しかし、韓国戦後の数時間でのミーティングで修正ポイントを伝え、イギリス戦ではしっかりと遂行することができていた。ただフィニッシュの決定力では、イギリスが大きく上回っていたことが結果に表れた一戦だった。
爪痕を残した19歳のハイポインター岩田晋作
大会2日目の韓国戦で、本領を発揮したのが岩田だ。力強いペイントアタックでインサイド勝負に挑んだ岩田。特に古崎との2対2での“合わせ"で相手の隙をつくようにしてゴール下のポジションを奪うと、倒れながらもタフショットをねじ込み、岩田の良さが光った。岩田も古崎も、初日の2試合をしっかりと糧にした成果だった。
「特に初戦は相手のディフェンスを崩して、というところを強く意識していたのですが、それだと自分の良さが出ていませんでした。アグレッシブさや勢いが足りないという指摘もいただいていたので、今日はとにかく積極的にインサイドに入ってシュートを狙うということを一番に意識してプレーしました」と岩田。古崎もまた指導者たちからの助言によってプレーの意識を変えていた。
「自分でいくだけでなく、もっと周りを見て、パッシングで切っていきながら展開をして相手を引き付けたなかで、ピックをかけてチャンスメイクをしていこうと。岩田ともしっかりと試合前にコミュニケーションを取っていたので、それがうまくいった試合だったと思います」
この日、岩田は19得点の古崎に次ぐ13得点を挙げ、存在感を示した。
その2人を中心に、初日は無得点に終わっていた岩田と同じ19歳のハイポインター渡辺将斗(4.0)も6得点を挙げるなど、チームは初戦とは様変わりしていた。さらにディフェンスでも、初戦でやられていたベースラインからの侵入をしっかりと止めるなどして、高さのある韓国の攻撃にも対応した日本。1Qは17-8とリードを奪い、2Qでは逆転を許したものの、29-31と食らいついた。
ゴール下のポジションを果敢に狙いショットを放つハイポインター岩田晋作
しかし、相手がプレスをしかけてきた3Qで流れもっていかれてしまうと、4Qで一気に引き離され、45-64。白星を飾ることはできなかった。
大会最終日、イギリスとの第2戦も2Qを終えて24-30と互角に渡り合ったものの、3Q以降に引き離され、34-66。勝利で締めくくることはできなかった。
4戦全敗と、今大会は次世代における日本の厳しい現在地を示す結果に終わった。ただこのカテゴリーで最も大事なのは、海外との貴重な経験を今後にどう生かすかだ。特に25年のU23世界選手権を目指す若手たちが、同世代のイギリスとの差をどう感じ、これからの2年間をどう過ごすかは非常に重要だろう。
今回の経験は決して“停滞"や“後退"ではない。伸びしろしかない無限大の可能性を持つ彼らにとって“躍進"への糧となるはずだ。1年後、2年後、彼らがどんな成長した姿を見せてくれるのか、期待しかない。
<結果一覧>
【予選】
日本 ●56-83◯ 韓国
韓国 ●59-63◯ イギリス
日本 ●42-63◯ イギリス
日本 ●45-64◯ 韓国
韓国 ●64-65◯ イギリス
日本 ●38-66◯ イギリス
【決勝】
イギリス ◯60-48● 韓国
<最終順位>
優勝 イギリス
第2位 韓国
第3位 日本
<個人賞>
リバウンド王:Yang Dong Gil(韓国)
アシスト王:Yang Dong Gil(韓国)
得点王:古崎倫太朗(日本)
モリサワスピリッツ賞/MVP:Tyler Baines(イギリス)
ベストレフリー賞:初瀬真由子
(文・斎藤寿子/写真・木林暉)
【車いすバスケットボール】
一般のバスケットボールとほぼ同じルールで行われる。ただし「ダブルドリブル」はなく、2プッシュ(車いすを漕ぐこと)につき1回ドリブルをすればOK。
選手には障がいの程度に応じて持ち点があり、障がいが重い方から1.0~4.5までの8クラスに分けられている。コート上の5人の持ち点の合計は14点以内に編成しなければならない。主に1.0、1.5、2.0の選手を「ローポインター」、2.5、3.0、3.5を「ミドルポインター」、4.0、4.5を「ハイポインター」と呼ぶ。
コートの広さやゴールの高さ、3Pやフリースローの距離は一般のバスケと同じ。障がいが軽いハイポインターでも車いすのシートから臀部を離すことは許されず、座ったままの状態で一般のバスケと同じ高さ・距離でシュートを決めるのは至難の業だ。また、車いすを漕ぎながら、ドリブルをすることも容易ではなく、選手たちは日々のトレーニングによって高度な技術を習得している。
ジャンプはないが、ハイポインターが車いすの片輪を上げて高さを出す「ティルティング」という技がある。ゴール下の激しい攻防戦の中、ティルティングでシュートをねじ込むシーンは車いすバスケならではの見どころの一つだ。