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2024年1月13日

2024アジアオセアニアチャンピオンシップス

チームスローガン「魄繋」を体現し全員で繋げた40分間

攻めのプレーで得点力を発揮した赤石竜我 | チームスローガン「魄繋」を体現し全員で繋げた40分間|2024アジアオセアニアチャンピオンシップス | Glitters 障害者スポーツ専門ニュースメディア

攻めのプレーで得点力を発揮した赤石竜我

1月12日、パリパラリンピックの切符がかかった戦いが幕を開け、大会2日目の13日には男子日本代表がグループリーグ初戦でオーストラリアと対戦した。出だしでリードを奪われ、最大13点差とされたものの、終盤に挽回。ミスが多くなり、得点が減少していったオーストラリアに対し、日本は徐々にリズムが良くなっていった。結果的には48-49と敗れはしたものの、次に繋がる大きな手応えを掴んだ試合でもあった。

ベテランがもたらしたリズムに若手の赤石が本領を発揮

「全員で40分間戦いましょう!」
試合前の円陣で、キャプテン川原凜(1.5)が発したこの言葉がカギとなった一戦だった。

対戦相手は、アジアオセアニアチャンピオンシップス(AOC)で一度も優勝を逃していないオーストラリア。高さに加えて、プレーの粗さでも知られており、この試合もオフェンスファウルは3つを数え、さらにアンスポーツマンライクファウルもあった。

そうした粗さの目立つコンタクトの強さに、公式戦でオーストラリアと対戦するのは東京2020パラリンピック以来、実に2年半ぶりとなった日本は出だしでやや押され気味となった。

しかし、ベンチスタートのベテラン2人がそんな嫌な流れを払拭した。5大会連続パラリンピック出場のチーム最年長40歳の藤本怜央(4.5)、そして4大会連続パラリンピック出場の35歳、香西宏昭(3.5)だ。12人中9人が20代というチームにとって、2人はいざという時にこそ頼れる存在だ。

この試合でも1Qの終盤から藤本がコートに出るとチームは落ち着きを取り戻し、フロアバランスの取れたオフェンスが増えていった。さらに2Qからは、香西が存在感を示した。2Qでは得点こそ2にとどまったものの、アシストでチームの得点に貢献。そのいいリズムに乗り、本領を発揮したのが赤石竜我(2.5)だった。

もともとの持ち味であるディフェンス力に加えて、シュートにも磨きをかけてきた赤石は、大会前の記者会見で「AOCでは新しい赤石竜我をお見せしたい」と宣言。初戦から有言実行とばかりに、1Qの終盤に最初の1本を決めると、2Qでは中盤の3分間で8得点、フィールドゴール(FG)成功率は80%を誇り、得点力を見せつけた。

丸山弘毅は交代出場ながらアグレッシブなプレーでチームを勢いづけた | チームスローガン「魄繋」を体現し全員で繋げた40分間|2024アジアオセアニアチャンピオンシップス | Glitters 障害者スポーツ専門ニュースメディア

丸山弘毅は交代出場ながらアグレッシブなプレーでチームを勢いづけた

チーム力が試された突然のアクシデントに丸山が奮闘!

ところが、そんな赤石にアクシデントが起こった。2Qの後半、これ以上勢いづかせたくなかったのか、速攻に走る赤石を後ろからオーストラリアが激突。激しく転倒した赤石は腰を強くひねり、交代を余儀なくされた。京谷和幸ヘッドコーチ(HC)は無理をさせたくないと、この時点で赤石を出さない決断を下した。そして指揮官が託したのは、同じクラス2.5の丸山弘毅だった。

丸山は、東京パラリンピック後に躍進した27歳。2017年の男子U23世界選手権では、川原や鳥海連志(2.5)、古澤拓也(3.0)らと共に、京谷HCの指揮の下、主力の一人としてプレーし、4強入りした。しかし、その後は同世代が次々とA代表入りする中、なかなか日の目を見なかった苦労人でもある。

努力の末に本格的に代表候補へと這い上がってきたのは、22年のこと。そして公式戦としては昨年10月のアジアパラ競技大会でA代表デビューを果たした。そんな代表戦の経験がまだ少ない丸山に突然訪れた交代劇。しかも流れを引き寄せかけたタイミングでの赤石との交代だっただけに、試合のトーンについていくだけでも必死だったに違いない。

すると丸山の緊張をほぐすかのように、コートに出てきた彼に真っ先に声をかけたのは、藤本と香西の2人だった。それが安心感を与えたのだろう。その後、最後まで出続けた丸山はミスもあったものの、それでも持ち味のアグレッシブなプレーを見せ、チームに貢献。京谷HCも「赤石のリタイアは想定外だったが、その分、丸山がファイトしてくれた」と称えた。

チーム自体も大きなアクシデントがあったにもかかわらず、2Qは14-14。オーストラリアと互角に渡り合い、24-31と1ケタ差につけて試合を折り返した。

主柱としてチームを支えたベテラン香西宏昭 | チームスローガン「魄繋」を体現し全員で繋げた40分間|2024アジアオセアニアチャンピオンシップス | Glitters 障害者スポーツ専門ニュースメディア

主柱としてチームを支えたベテラン香西宏昭

香西が後半にシュートを炸裂!17得点で猛追の糸口に

そして3Qの終盤、わずか3分間で11得点を叩き出し、独壇場としたのは香西だ。2Qはシュートがリングに嫌われ続けたが、それでも打ち続けることで感覚をつかみ、「途中でバンクショットに切り換えた」ことも功を奏した。この香西の活躍で、38-42と4点差にまで詰め寄った状態で、最終Qを迎えた。

その4Qで日本は髙柗義伸(4.0)が技ありのレイバックショットを決めれば、鳥海もミドルシュートをネットに沈め、連続得点で同点に追いついた。ディフェンスも機能し、オーストラリアには約5分間、得点を許さなかった。しかし、オーストラリアにフリースローでの1点をリードされた状態から一進一退の攻防が続き、なかなか逆転することができなかった。

最後は残り10秒で日本ボールとなり、速攻をしかけるも、パスが通らずにボールはアウトオブバウンズし、相手ボールに。残り7.3秒、日本は一縷の望みをかけてプレスをしかけたが、オーストラリアに逃げ切られ、勝利をつかむことはできなかった。

ただ、最大13点差を最後は1点差にまで詰め寄り、オーストラリアを十分に苦しめただけに着地点としては決して悪くはなかったはずだ。川原も「最後の最後に勝つという日本のスタイルを見せられたので、次に繋がる」と手応えを口にしている。

さらにこの日、京谷HCは「手の内を見せずに戦う」ことを決めていたと言い、日本は新しいディフェンスのカードを1枚も切ることなく、フラットディフェンスだけで凌いだ。そのうえでオーストラリアを49点というロースコアに抑えた点について、京谷HCも「大きな収穫だった」と語る。

そして何より「全員で40分間を戦う」という姿勢がしっかりと見えたことが大きかったに違いない。「メンバーチェンジをしながら、しっかりと立て直しを図ることができた」と川原の言葉通り、ベテラン勢がコート上にいい流れをもたらし、そして丸山も自らの役割を全うし、チームに貢献した。

ガッツポーズを決める日本代表 | チームスローガン「魄繋」を体現し全員で繋げた40分間|2024アジアオセアニアチャンピオンシップス | Glitters 障害者スポーツ専門ニュースメディア

ガッツポーズを決める日本代表

随所に見られた「全員で戦う」姿勢

もちろん、それだけではない。チームメイトのミスをカバーするシーンも少なくない試合だった。それはベテランが若手をというだけでなく、逆に若手がベテランのミスを帳消しにするプレーもあった。

例えば2Q、香西がディフェンスリバウンドを取った際、ちょうど鳥海が走るコースに居合わせた相手にパスが渡ってしまったことがあった。ゴールに近いところでのターンオーバーだったが、全員でしっかりと守り、鳥海がスティール。すぐに速攻につなげ、鳥海から香西、そして赤石へと渡り、日本の得点へとつなげたのだ。

そして出場機会がなかった選手たちも、ベンチからコートを鼓舞し続け、12人全員で戦う姿勢がチームにはあった。それは「どんなに困難な状況にあっても、全員で立ち向かい、40分間繋げていく」という意味を込めて掲げたチームスローガン「魄繋(はっけい)」をまさに体現した姿だった。

一方のオーストラリアも昨年の世界選手権では全7試合で先発に起用した1.0、1.0、4.0、4.0、4.0のラインナップを一度も使わなかったことを考えると、やはり決勝トーナメントは別ものと考えた方がよさそうだ。そしてだからこそ「毎回勝ちにいくことは変わりませんが、その中でどんどんチャレンジして修正してというのを今のうちに一つ一つ積み上げて、いい形で決勝トーナメントに入っていきたい」と川原が言うように、予選での戦い方が決勝トーナメントに大きな意味を持つに違いない。

そういう点で、初戦は日本にとって大きな収穫を得た一戦となった。間違いなく「次に繋がる」ゲームだったからだ。

(文・斎藤寿子/写真・湯谷夏子、村上智彦)

【車いすバスケットボール】
 一般のバスケットボールとほぼ同じルールで行われる。ただし「ダブルドリブル」はなく、2プッシュ(車いすを漕ぐこと)につき1回ドリブルをすればOK。
選手には障がいの程度に応じて持ち点があり、障がいが重い方から1.0~4.5までの8クラスに分けられている。コート上の5人の持ち点の合計は14点以内に編成しなければならない。主に1.0、1.5、2.0の選手を「ローポインター」、2.5、3.0、3.5を「ミドルポインター」、4.0、4.5を「ハイポインター」と呼ぶ。
 国内では健常者の参加が可能で、持ち点は4.5。また天皇杯など男子の大会に女子選手が参加することも可能で、女子選手1人につきコート上の5人の持ち点の合計が1.5点加算される。
障がいが軽いハイポインターでも車いすのシートから臀部を離すことは許されず、座ったままの状態で一般のバスケと同じ高さ・距離でシュートを決めるのは至難の業だ。また、車いすを漕ぎながら、ドリブルをすることも容易ではなく、選手たちは日々のトレーニングによって高度な技術を習得している。
ジャンプはないが、ハイポインターが車いすの片輪を上げて高さを出す「ティルティング」という技がある。ゴール下の激しい攻防戦の中、ティルティングでシュートをねじ込むシーンは車いすバスケならではの見どころの一つだ。
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