STORMERSの得点源橋本勝也(左)へ激しいタックルで守るBLITZの島川慎一(右)
1月12~14日、クラブチーム日本一決定戦「第25回 車いすラグビー日本選手権大会」が千葉ポートアリーナ(千葉市)で行われ、BLITZが8年ぶり9度目の優勝を果たし、自らの持つ最多優勝回数を更新した。
選手の名前が書かれた手作り応援ボードや特製タオルが揺れ、会場の全視線が注がれるなか行われた「BLITZ(東京)対 TOHOKU STORMERS(東北)」の決勝戦。
ティップオフを待つコートに現れたのは、BLITZ(長谷川勇基―小川仁士―池崎大輔―島川慎一)とTOHOKU STORMERS(横森史也-庄子 健-中町俊耶-橋本勝也)のスターティング・メンバー。両チームとも同じラインナップでスタートした予選ラウンドでの対戦では、立ち上がりから火花散る激しい攻防が繰り広げられたが、決勝はチームのゲームプラン遂行に集中する、ときに静けさすら漂う展開となった。
強いプレッシャーをかけるBLITZに、TOHOKU STORMERS(以下、STORMERS)はフロントコートまでボールを運べない苦しい状況が続く。ターンオーバーを立て続けに奪い一気に3点をリードしたBLITZは、第1ピリオドを14-9で終える。第2ピリオドに入っても手を緩めないBLITZ、じりじりと点差を広げ、27-20で試合を折り返した。
後半に入ってもメンバーチェンジをすることなく戦い続ける両者。現役の日本代表選手4人で組むBLITZの国内最強ラインナップに対して、STORMERSは、ひるむことなく立ち向かう。第3ピリオド残り2分に差し掛かろうとしたところで、ようやくSTORMERSが選手交代。それを見たBLITZもすかさずメンバーを入れ替えたが、点差は11にまで広がっていた。それでも、チームスローガンの「執着」を体現するSTORMERSは、ピリオド残り1.5秒でトライを狙う。しかし、キーエリアで待ち構えていた橋本に、コーナーから中町が放ったインバウンドが通らずノートライ。会場からは、ため息が漏れた。
42-32とBLITZリードで迎えた最終ピリオド。昨年の日本選手権観戦を機に22年ぶりに競技復帰した山村泰史(BLITZ)がコートに立つ。一方のSTORMERSも、コロナ禍を経て3年ぶりにチームに戻ってきた熊崎 敬、岩渕 鋼が決勝の舞台で堂々としたプレーを見せる。最後は再びBLITZの最強ラインナップが登場、優勝への強い思いを持ち続けてきた島川慎一のラストトライで試合を締めくくり、55-46でBLITZが8年ぶりの優勝を果たした。
島川は、「ミーティングを重ね、直前の練習でしっかり確認して、みんなでひとつのことに向かってやれたことが勝因。全員で勝ち取った勝利です」と誇らしげに語った。
今シーズン、池崎の加入によりBLITZには「勝って当然」というプレッシャーがつねに重くのしかかり、それを、キャプテンの小川は“完全アウェー"と表現した。だからこそ、現役日本代表だけでない、全員ラグビーにこだわり、各ラインナップの強化に努めた。登録選手が昨シーズンの6名から9名になったことで試合形式の練習が可能となり、そこでレベルが高い練習を積めたことが後押しとなった。
「この優勝にあぐらをかくことなく、しっかり進化していきたい」と島川。来シーズンに向け連覇への決意をのぞかせた。
STORMERSの攻撃の要となるキャプテン中町俊耶
一方、前回大会でチーム史上初となる決勝進出を果たし、2年連続で準優勝に輝いたSTORMERS。昨年の決勝での戦いから課題を見いだし、三阪洋行ヘッドコーチが今シーズン、チームに提示したスローガンは「執着」。執着への意識が粘り強いプレーを生み、そこにJAPANとしても活躍する中町と橋本の成長、さらにはプレーへの信頼も加わり、準決勝では前回の決勝で敗れたFreedom(高知)に勝利し、リベンジを果たした。
今回の決勝を振り返り、「同じ負けだとしても、もう少し詰められた部分はある」と、悔しさをにじませたキャプテンの中町。「(準決勝で)Freedomに勝ってチームとして成長はできたが、今年はBLITZに負けたというところで、また成長できる部分が見られた。来年は決勝の舞台で勝てるようにしたい」と、頂点に挑む覚悟を示した。
そして連覇を目指し今大会に臨んだFreedomは、Fukuoka DANDELION(福岡・以下、DANDELION)との3位決定戦を54-47で制し、3位で大会を終えた。ヘッドコーチを兼任する池透暢は、「スペースを使ってパスでつなぐFreedomらしいラグビーはできたが、この結果が今の自分たちの力。まだ3位のレベルにいるチームだということを自覚できた大会だった」と冷静に語った。
目標としていた連覇達成とはならなかったが、Freedomの代名詞である「全員ラグビー」を3位決定戦でも貫いた。キャプテンの白川楓也は、「昨年は個のパフォーンマンスで打開できるところがたくさんあったが、どんどんクラブチームのレベルが上がってきて、チームの連動が課題だということを再認識した。コミュニケーションや判断、ゲーム感覚を養わなければ来年もこのままだと思うので、次回は決勝に進めるよう、みんなでがんばっていきたい」と、再び王座に返り咲く意欲をにじませた。
前回王者Freedomに対して圧倒的運動量でプレッシャーをかける朴雨撤(右)
また、3位決定戦でFreedomに敗れはしたものの、前回大会の6位を上回るベスト4という結果を残したDANDELION。ディフェンスで日本代表での確固たる地位を築いている乗松聖矢を筆頭にハードワーカーがそろい、32分間をラインナップのメンバー全員が走り切れる圧巻の走力と体力を存分にアピールした。
選手4人の持ち点の合計が8.0以内というルールだが、バランスを考慮しながらメンバー選出を行える日本代表とは違い、クラブチームレベルでは思い描くようなラインナップを組めない現実がある。
その中で今大会、ゲームの流れを握るスターティング・ラインナップとしてDANDELIONが起用したのは、ハイポインターを含まないトータル6.5のラインだった。極端に言えば、つねに1人分の数的不利な状況を背負いながら戦っているようなものだ。にも関わらず、抜かれたら即座に次のディフェンスに向かい、ハイポインターを相手に走り切ってトライを奪い、相手の心を折るような運動量で、FreedomやBLITZといった強豪と互角に渡り合う姿は、見る者に大きな勇気と希望を与えた。さらには、このようなプレーヤーたちが日本にいるという、JAPANの活躍をも期待させる戦いぶりだった。
クラブチームの可能性と、代表戦とはまた違う、クラブチーム同士の戦いの面白さが示された、車いすラグビー日本選手権。来年度は、会場を横浜に移し今年12月の開催が予定されている。
パリ・パラリンピック後に行われる国内大会として、大きく注目されることだろう。
■大会結果
【Pool A】
BLITZ ◯60-35● AXE
TOHOKU STORMERS ◯59-37● RIZE CHIBA
BLITZ ◯65-27● RIZE CHIBA
Freedom ◯49-37●Fukuoka DANDELION
AXE ◯41-39● RIZE CHIBA
TOHOKU STORMERS ●47-57◯ BLITZ
【Pool B】
Okinawa Hurricanes ●21-60◯ Fukuoka DANDELION
Freedom ◯64-34● SILVERBACKS
SILVERBACKS ◯51-32● Okinawa Hurricanes
TOHOKU STORMERS ◯55-52● AXE
Fukuoka DANDELION ◯69-18● SILVERBACKS
Freedom ◯50-31● Okinawa Hurricanes
【Classification Game】
AXE ◯47-41● SILVERBACKS
Okinawa Hurricanes ●31-44◯ RIZE CHIBA
BLITZ ◯53-38● Fukuoka DANDELION
Freedom ●51-54◯ TOHOKU STORMERS
【7・8位決定戦】
SILVERBACKS ●38-47◯ Okinawa Hurricanes
【5・6位決定戦】
AXE ◯44-36● RIZE CHIBA
【3・4位決定戦】
Freedom ◯54-47● Fukuoka DANDELION
【決勝戦】
BLITZ ◯55-46● TOHOKU STORMERS
■最終順位
優勝 BLITZ
第2位 TOHOKU STORMERS
第3位 Freedom
第4位 Fukuoka DANDELION
第5位 AXE
第6位 RIZE CHIBA
第7位 Okinawa Hurricanes
第8位 SILVERBACKS
■ベストプレーヤー賞
MVP 橋本勝也(TOHOKU STORMERS)
クラス0.5 長谷川勇基(BLITZ)
クラス 1.0 若山英史(Okinawa Hurricanes)
クラス 1.5 乗松聖矢(Fukuoka DANDELION)
クラス 2.0 朴雨撤(Fukuoka DANDELION)
クラス 2.5 荒武優仁(BLITZ)
クラス 3.0 白川楓也(Freedom)
クラス 3.5 峰島靖(AXE)
(写真・中島功仁郎、木林暉 / 文・張 理恵)
【車いすラグビー】
四肢麻痺など比較的障がいの重い人でもできるスポーツとして考案された男女混合の競技。1チーム4人で、8分間のピリオドを4回行い、その合計得点を競う。バスケットボールと同じ広さのコートでプレーし、球形の専用ボールを使用する。ボールを持った選手の車いすの車輪2つが、敵陣のトライラインに乗るか、もしくは通過するかで得点が認められる。
選手には障がいの程度に応じて持ち点があり、障がいが重い方から0.5~3.5までの7クラスに分けられている。コート上の4人の持ち点の合計は8点以内。ただし、女子選手が含まれる場合は1人につき0.5点の加算(上限は2.0点)が認められている。
「ラグ車」とも呼ばれる競技用車いすは「攻撃型」と「守備型」の2種類ある。主に障がいが軽い選手が乗る「攻撃型」は、狭いスペースでも動きやすいようにコンパクトな作りになっており、相手の守備につかまらないように凹凸が少ない丸みを帯びた形状となっている。一方、主に障がいが重い選手が乗る「守備型」は、前方に相手の動きをブロックするためのバンパーが付けられている。
パラリンピック競技で唯一、車いすによるタックルが認められており、「マーダー(殺人)ボール」という別名がつくほど、激しいプレーの応酬が魅力の一つ。その激しさは、ボコボコに凹んだ車いすのスポークカバーを見れば一目瞭然だ。