持ち前のスピードでインサイドに切り込みレイアップを決める柳本あまね
12日にタイ・バンコクで開幕した車いすバスケットボールのアジアオセアニアチャンピオンシップスも、いよいよ大詰めを迎えている。大会7日目の18日には女子の予選プール最終戦が行われ、順位が決定した。プールAの日本は、中国、オーストラリアと2試合ずつの総当たりでのリーグ戦を戦い、2勝2敗として2位で通過。18日には決勝トーナメントが始まり、日本はオーストラリアとの準決勝に臨む。果たして日本は、わずか1枚のパリへの切符を掴むことができるのか。予選プールでの戦いを振り返り、決勝トーナメントでのポイントを探る。
優勝へカギ握る2種類の強力ラインナップ
今大会、女子日本代表は苦しいチーム事情を抱えている。開幕直前に行われた強化合宿で、スタートに起用されることが多い主力ラインナップの一人、大津美穂(2.5)が負傷し、欠場を余儀なくされた。そのため日本は11人で現地入りし、戦いに臨んでいる。
そんななか予選プール4試合を振り返った際、決勝トーナメントで注目したいラインナップが2種類ある。
まずは19日の準決勝、オーストラリア戦でカギを握ると思われるのが、網本麻里(4.5)、土田真由美(4.0)、清水千浪(3.0)、萩野真世(1.5)、財満いずみ(1.0)のラインナップだ。
予選プール第2戦、一巡目のオーストラリア戦、日本は絶対的エースだったアンバー・メリットが現役引退をし、明らかに戦力ダウンしたオーストラリア相手に、前半はリードを許す苦しい展開となった。
そんななかチームに流れを引き寄せ、逆転勝利の要因となったのが、前述したラインナップが出た3Qだった。5人全員が得点を挙げ、ディフェンスではそのラインナップが出た6分半の間でオーストラリアから2度の8秒バイオレーションを奪うなどして得点を許さなかったのだ。
さらに予選プール第4戦、二巡目のオーストラリア戦でも、同じように前半にビハインドを負ったなか、このラインナップが出た2Qの終盤から3Qにかけて主導権を握り、逆転に成功。チームの勢いが加速し、勝利へとつながった時間帯となった。
一方、昨年10月のアジアパラ競技大会や今大会の一巡目とは異なり、二巡目ではプレスではなくハーフコートに下がってのディフェンスをしいてきた中国に対しては前述したラインナップでスタートしたが、網本の4得点にとどまり、4-17と1Qで大きく引き離されてしまった。
そこでもう一つの強力なラインナップに期待が寄せられる。キャプテンの北田千尋(4.5)、網本、柳本あまね(2.5)、萩野、財満の組み合わせだ。昨年6月の世界選手権でも試合の流れを変える役割を果たし、勝利のカギを握るラインナップとされた。今大会では、初戦の3Qで7分間起用され、この間のスコアは9-12と拮抗している。
さらに二巡目の中国戦では2Qの10分間で起用され、5人中4人が主力という強いラインナップの中国を相手に、24秒バイオレーションを奪ってもいる。今大会では多くは起用していないことからも、指揮官の頭には決勝まではできるだけ温存したいという考えがあったのだろう。それだけに世界2位の中国相手にどのタイミングでこのカードを切るのか、注目だ。
好調・萩野のアウトサイドシュート、網本の打開力に期待
そして今大会、最も好調の様相を呈しているのが、萩野だろう。一巡目のオーストラリア戦では1QでFG成功率75%で6得点を挙げると、後半にも高確率でシュートを決め、チーム最多となる12得点をマーク。さらに二巡目のオーストラリア戦でも清水に並び、チーム最多タイの10得点。FG成功率は66%を誇った。
東京パラリンピック後はポジションが変更となり、それまでほとんど打っていなかった0度からのシュートが求められてきた。だが、昨年のアジアパラ後にはもともとガードを務めていた時に得意としていたトップからのアウトサイドシュートのシチュエーションもチームで作り始めており、それが今大会で得点を伸ばしている一つの要因ともなっている。
ただ、今大会は中国戦では2試合いずれも無得点に終わっている。それだけに萩野のアウトサイドシュートが決まると、日本が優位に試合を進められるはずだ。
また、打開力という点で期待したいのは網本だ。予選プールでも、チームが得点できずに苦戦している時にこそ、網本のドライブからのレイアップシュートが頼りの綱となったシーンは少なくなかった。網本自身も「それが私の仕事」と自覚している。決勝トーナメントでも躍動したプレーでチームを鼓舞してくれるだろう。
もちろん、世界選手権で3ポイントシュートを炸裂した柳本や、インサイドに強い清水、ミドルシュートを得意とする北田や土田の得点力にも期待したい。得点源が分散されれば、それだけ相手のディフェンスは苦しくなるからだ。
チーム最年少ながら強いメンタルで果敢に攻める小島瑠莉
さらに大津が不在とするなか、予選プールでは高校2年生の西村葵(1.5)と、チーム最年少中学3年生の小島瑠莉(2.5)の出番も少なくなかった。いずれも「今大会中にシュートを決めたい」としていた2人だが、二巡目の中国戦で西村が2本中2本と数少ないチャンスを確実に決めると、それに触発されたかのように、小島も二巡目のオーストラリア戦で0度からのミドルシュートを見事に決め、代表初得点とした。
その西村と小島は、スキルはまだ先輩たちに及ばないものの、どんな場面でも物怖じせずにプレーすることができる強いメンタルの持ち主でもある。さらにチームスローガン「Fearless」を体現したような10代の果敢なプレーがチームに刺激を与えていることは間違いないだろう。決勝トーナメントでもチームの士気を高める存在となれるか。
一方でチームとしての課題は、試合の入り方だろう。予選プールでは全4試合いずれも1Qでは相手にリードを許している。決勝トーナメントでは先に主導権を握り、優位に試合を進められるかが勝敗に大きく関わってくると見られる。そのためにも、いかにディフェンスでリズムを作れるかが重要だろう。世界選手権のような統率の取れた日本らしいディフェンスが見られることを期待したい。
(文・斎藤寿子/写真・湯谷夏子、村上智彦)
【車いすバスケットボール】
一般のバスケットボールとほぼ同じルールで行われる。ただし「ダブルドリブル」はなく、2プッシュ(車いすを漕ぐこと)につき1回ドリブルをすればOK。
選手には障がいの程度に応じて持ち点があり、障がいが重い方から1.0~4.5までの8クラスに分けられている。コート上の5人の持ち点の合計は14点以内に編成しなければならない。主に1.0、1.5、2.0の選手を「ローポインター」、2.5、3.0、3.5を「ミドルポインター」、4.0、4.5を「ハイポインター」と呼ぶ。
国内では健常者の参加が可能で、持ち点は4.5。また天皇杯など男子の大会に女子選手が参加することも可能で、女子選手1人につきコート上の5人の持ち点の合計が1.5点加算される。
障がいが軽いハイポインターでも車いすのシートから臀部を離すことは許されず、座ったままの状態で一般のバスケと同じ高さ・距離でシュートを決めるのは至難の業だ。また、車いすを漕ぎながら、ドリブルをすることも容易ではなく、選手たちは日々のトレーニングによって高度な技術を習得している。
ジャンプはないが、ハイポインターが車いすの片輪を上げて高さを出す「ティルティング」という技がある。ゴール下の激しい攻防戦の中、ティルティングでシュートをねじ込むシーンは車いすバスケならではの見どころの一つだ。