藤本怜央はチーム最年長らしい安定したプレーでチームを牽引した
12~20日、タイ・バンコクで開催された車いすバスケットボールのアジアオセアニアチャンピオンシップス。最終日の20日、男子日本代表は韓国との3位決定戦に臨んだ。前日の準決勝でイランに敗れ、パリパラリンピックへの道が閉ざされたが、それでも「次への大事な一歩」として勝利を目指した。しかし、結果は45-53と勝利で飾ることはできなかった。京谷和幸ヘッドコーチ(HC)は「選手は最後までよく戦ってくれた」と労い、「モチベーションを上げることができなかった自分の責任」と反省の弁を口にした。ただ京谷HCの指導の下、東京パラリンピック後に磨き続けてきたディフェンスは、間違いなく世界レベルにあった。それだけにより課題の大きさも浮き彫りとなった一戦となった。
最もシュート決定力が課題となった韓国とのラストゲーム
1Q、日本は藤本怜央(4.5)、髙柗義伸(4.0)、鳥海連志(2.5)、川原凜(1.5)、宮本涼平(1.0)のラインナップでスタート。今大会では初めて切るカードだったが、京谷HCは「もともとオーストラリアや韓国に対して用意していた」として自信を持ってコートに送り出した。
その1Qは10-9。3枚のハイポインター陣を完全にインサイドから締め出し、いずれも無得点に終わらせた予選プールの時のような完璧なスタートではなかったが、それでも内容的には日本のディフェンスが機能していた。フィールドゴール(FG)のアテンプトは、日本が17に対して韓国は12。それだけシュートチャンスを与えなかったという証だ。
それでもこれだけ拮抗した展開となったのは、課題としてきたシュート決定力に要因があった。FG成功率は韓国の33%を下回る29%と、試合の入りとしては今大会最低の数字だった。
2Qではその課題がさらに浮き彫りとなった。FGでの得点は、香西宏昭(3.5)が一人で挙げた8得点のみ。そのほかは赤石竜我(2.5)のフリースローでの1点のみとなった。一方、韓国は一番乗せてはいけないエースのキム・ドンヒョン(4.0)がFG成功率50%で8得点を挙げ、チームを勢いづけていた。FG成功率を43%にまで引き上げた韓国に逆転を許した日本は、19-22とビハインドの状態で試合を折り返した。
チーム最多の12得点を挙げ、オフェンスでも牽引した香西宏昭
ハーフタイム明け後の3Q、日本は気持ちを立て直して臨んだのだろう。前半は皆無だった速攻からのレイアップを赤石が次々と決め、コートやベンチに活気が戻り始めた。しかし、キムからの得点を抑えることができず、さらにはもう一人のエースであるチョ・スンヒョン(4.0)には3ポイントシュートを決められるなどして、得点で韓国を上回ることはできなかった。それでも31-36として、まだ勝負の行方はまったくわからなかった。
迎えた最後の4Q、開始早々に香西がチームを鼓舞するかのようにミドルシュートを決め、3点差に迫った。ところが、それ以降は日本の得点がピタリと止んでしまった。その間に韓国はハイポインター陣が次々と得点を挙げ、残り5分で33-48。韓国のリードは大きく広がった。
「このまま終わってしまうのか……」
誰もがそう思ったことだろう。しかし、「われわれ代表には最後までしっかりと戦う責任がある」と前日に京谷HCが選手たちにかけた言葉を思い出したかのように、日本は最後に粘りを見せた。香西、赤石、そして今大会で最も成長した選手である丸山弘毅(2.5)の3人が競い合うようにしてそれぞれ4得点ずつを挙げて猛追。そのラストを飾ったのは、残り15秒、赤石のレイアップシュート。ディフェンスリバウンドからの速攻という日本らしい攻撃だった。
最後の5分間の攻防は、8-5と日本の得点が上回ったものの、挽回とまではいかなかった。45-53で敗れ、最終順位は4位。これでAOCでは3大会連続でメダルなしに終わった。それでも韓国からターンオーバー17を奪ったことからも、最後まで日本のディフェンスは崩れることはなく、強さが光った。
次へのプラス材料にしたい“成果"と“課題“
もちろん、日本代表は結果が全てだ。パラリンピックの出場権がかかる大一番の今大会はなおさらだろう。これが日本の現在地であり、予想以上に厳しい状況に、日本は今あるということが今大会で示されたと言っても過言ではない。
ただ、決して後退したわけではないはずだ。若手の台頭もあり、日本は確かに東京パラリンピック以降も成長し続けてきた。特に新たにさまざまなシステムを導入したディフェンスにおいては、その種類の豊富さと精度の高さ、いずれにおいても世界トップレベルにある。
今大会、トップのディビジョン同士の試合(準々決勝を除く7試合)での総失点を見ても、それは明らかだろう。
日本 353点
オーストラリア 378点
イラン 385点
韓国 387点
一方、最大の課題はやはり得点力不足が解消できなかったことにあった。同じようにトップのディビジョン同士の試合での総得点は次の通りだ。
イラン 485点
オーストラリア 471点
日本 403点
韓国 369点
イラン、オーストラリアには大きく水をあけられている。かろうじて韓国を上回っているが、決勝トーナメントでの2試合では
イラン 114点
オーストラリア 109点
韓国 104点
日本 93点
と日本だけが100点台に乗せることができなかった。
こうした今大会で示された“成果"と“課題"を、どう次につなげていくのか。
「日本はここで終わりません。絶対にまた戻ってきます」とキャプテンの川原。4年後、厳しい道のりの向こうに明るい未来が待っていることを信じたい。
(文・斎藤寿子/写真・湯谷夏子、村上智彦)
【車いすバスケットボール】
一般のバスケットボールとほぼ同じルールで行われる。ただし「ダブルドリブル」はなく、2プッシュ(車いすを漕ぐこと)につき1回ドリブルをすればOK。
選手には障がいの程度に応じて持ち点があり、障がいが重い方から1.0~4.5までの8クラスに分けられている。コート上の5人の持ち点の合計は14点以内に編成しなければならない。主に1.0、1.5、2.0の選手を「ローポインター」、2.5、3.0、3.5を「ミドルポインター」、4.0、4.5を「ハイポインター」と呼ぶ。
国内では健常者の参加が可能で、持ち点は4.5。また天皇杯など男子の大会に女子選手が参加することも可能で、女子選手1人につきコート上の5人の持ち点の合計が1.5点加算される。
障がいが軽いハイポインターでも車いすのシートから臀部を離すことは許されず、座ったままの状態で一般のバスケと同じ高さ・距離でシュートを決めるのは至難の業だ。また、車いすを漕ぎながら、ドリブルをすることも容易ではなく、選手たちは日々のトレーニングによって高度な技術を習得している。
ジャンプはないが、ハイポインターが車いすの片輪を上げて高さを出す「ティルティング」という技がある。ゴール下の激しい攻防戦の中、ティルティングでシュートをねじ込むシーンは車いすバスケならではの見どころの一つだ。