天皇杯 第49回日本車いすバスケットボール選手権大会

神奈川VANGUARDSが大接戦を制し大会2連覇を果たす

2月3～4日、車いすバスケットボールのクラブチーム日本一を決める国内最高峰の大会「天皇杯 第49回日本車いすバスケットボール選手権大会」が東京体育館（東京都渋谷区）で開催された。
地方ブロックごとに行われた第1次予選会と西日本・東日本に分かれて行われた第2次予選会を突破した6チーム、最終予選会を勝ち抜いた1チーム、そして前回大会優勝チームの合計8チームが出場した今大会。ディフェンディング・チャンピオンとして臨んだ神奈川VANGUARDS（関東）が、試合終盤で逆転劇を演じ大会2連覇を達成、今年度登録の全国65のクラブチーム（※女子チームを除く）の頂点に立った。

3349人の観衆が見守るなか迎えた、「神奈川VANGUARDS 対 埼玉ライオンズ（関東）」の決勝戦。
会場は赤と緑のチームカラーを施した応援団とブースターで埋め尽くされた。センターコートに両チームの選手が現れると、会場のボルテージは一気に上がった。

昨年4月、前回大会優勝時の「パラ神奈川SC」から名称を変更した「神奈川VANGUARDS」（以下、VANGUARDS）。スピード、ディフェンス、トランジションを武器に、今大会では準々決勝で60点、準決勝では40点以上もの大差をつける王者の戦いぶりで勝ち上がってきた。
対する「埼玉ライオンズ」（以下、ライオンズ）は、前回大会の準決勝で神奈川VANGUARDSに敗れた悔しさを胸に、走り負けないフィジカルの強化を掲げ1年間取り組んできた。

VANGUARDSは髙柗義伸－古澤拓也－鳥海連志－丸山弘毅－宮本涼平、先月のアジア・オセアニア・チャンピオンシップス（AOC）に出場した日本代表メンバー5人がスタートを務める。挑戦者・ライオンズは、AOC男子日本代表の赤石竜我と女子日本代表の財満いずみ、ゲームキャプテンの北風大雅と古川諒、そして健常者のトッププレーヤー・大山伸明がスターティング・ラインナップに名を連ね、メラメラと闘志を燃やす。
ティップオフ。40分の真剣勝負が始まった。
立ち上がりからハイスピードの展開が予想されたが、両チームとも相手を探り合うような落ち着いたトーンでスタートした。なかなか得点が入らず重苦しい空気が立ち込める。開始から3分が過ぎようとした時、髙柗の初ゴールが決まり、ようやく試合が動きだした。決定力に欠けるVANGUARDSに対し、ライオンズは大山が高い集中力で着々と得点を重ね、9-14とライオンズのリードで第1Qを終えた。

第2Q、開始早々に赤石のレイアップで拍車をかけたライオンズは攻めの姿勢で戦い続ける。自分たちのリズムに持ち込めず、追いかける展開となったVANGUARDS。古澤が「こういう時にどうやって乗り切るかだよ」と若手メンバーを奮い立たせ、耐える状況の中でも自らのディフェンスをやり続け、ライオンズから立て続けに8秒バイオレーションを奪った。ただ、その間にもライオンズの赤石が3ポイントシュートにアシストと、強いリーダーシップでチームを引っ張り、22-29と依然としてライオンズリードのまま、前半を折り返した。
ハーフタイム、両チームともに余裕の表情などなかった。
もう一度気を引き締め直し、勝負の後半戦が始まった。
リバウンドからの早い球出しで、相手のトランジションに対抗するライオンズは、徹底的にインサイドを攻めた。おおよそ8点のビハインドをずっと背負いながら淡々と試合を進めるVANGUARDS。第3Q終了間際、ようやくVANGUARDSに淡い光が射し、鳥海のシュートで35-39。“射程圏内"に踏みとどまった。

最終Q、勝利を信じる両者。だが、またもや点が動かない膠着状態となりメンタルが削られていく。ライオンズの連係にほころびが見え始める。その時、VANGUARDSは一気にギアを上げた。古澤が2点を返し37-39。そして残り6分22秒で髙柗がゴール下からのシュートを決め39-39の同点。ライオンズのベンチでは、「気持ちを切らすな」と北風が拳を胸にあて仲間を鼓舞する。必死にくらいつくライオンズは大山が意地のシュートを沈め再び2点差に。ただ、そこでまた古澤がレイアップで返し同点。手に汗握る攻防に、会場は歓声とため息が入り混じる。試合時間のこり33秒、古澤のシュートで46-44と、ついに逆転したVANGUARDS。一方のライオンズは、チームファウルが5つとなり、ここまで体を張り続けた財満と古川がファウルアウト。ラストチャンスを信じるも、VANGUARDSにフリースローを許し47-44で試合終了。全力以上の力を尽くした両チームに、会場から鳴りやまない拍手が送られた。
2年連続の日本一に輝いたVANGUARDSはチームの歴史に新たな1ページを刻み、天皇杯を高らかに掲げた。
「とても苦しい試合になりましたが、しっかりと、優勝するという目標が達成できてうれしいです」
試合直後のオンコート・インタビューで、アシスタントコーチを兼任するキャプテンの鳥海は率直に心境を綴った。
そして、チームに勝利を手繰り寄せた古澤は、「最後は『勝ちたい』という気持ちで勝てた。ルーズボールを必死に追いかけて、泥臭いことをしっかりとやって、どうにかボールをつなぐということをやり続けたからチャンスの瞬間が来た。そして、そのチャンスを決めることができたから勝てた。素直に振り返ると勝ちゲームではなかったが、そこで勝ち切れたことはチームとして大きな進歩だと思う」と、表情を引き締めて語った。

一方、あと一歩のところまで相手を追い込みながら、数センチ勝利に手が届かなかったライオンズ。40分間ファイトし続け、チーム最多の14点を挙げた赤石は「4Qで相手のギアが間違いなく上がり、そこで戸惑って自分たちがアジャストするこができなかった。そこがまだ若いチームだと思う。ただ、決して受け身にならずに、自分たちが勝てるということを信じて一人ひとりが試合に臨むことができた。前回の優勝チームであるVANGUARDSにこれだけの点差まで迫れたというのは僕らの成長。悔しい気持ちはあるが、やり切った。これが自分たちの実力だと受け止めて次に進みたい」と清々しい表情で語った。

勝利への熱い思いと、仲間を信じ最後まであきらめることなく戦う勇姿が、5800人を超える観客の心をつかんだ今年の天皇杯。1年をかけて積み上げてきたチームの絆が、数々の名場面を生んだ。
ここからまたどんなドラマが作られていくのか、期待が高まる大会となった。

（写真・竹内 圭 ／ 文・張 理恵）

【3・4位決定戦】
NO EXCUSE ●40-53○ 伊丹スーパーフェニックス

【決勝】
神奈川VANGUARDS ○47-44● 埼玉ライオンズ

【最終順位】
優勝：神奈川VANGUARDS
準優勝：埼玉ライオンズ
3位：伊丹スーパーフェニックス
4位：NO EXCUSE
5位：SAGAMIFORCE、ワールドバスケットボールクラブ、COOLS、ライジングゼファーフクオカ Wheelchair

【個人賞】
＜オールスター5＞
MVP：丸山弘毅(神奈川VANGUARDS)
クラス１：財満いずみ(埼玉ライオンズ)
クラス２：鳥海連志(神奈川VANGUARDS)
クラス３：古澤拓也(神奈川VANGUARDS)
クラス４：村上直広(伊丹スーパーフェニックス)

＜サントリーやってみなはれスピリッツ賞＞
髙柗義伸(神奈川VANGUARDS)

＜三菱電機 Changes for the Better賞＞
青山結依(伊丹スーパーフェニックス)