オランダの高さあるディフェンスにも果敢に攻める土田真由美
8月30日、パリ2024パラリンピックは、競技2日目を迎え、ベルシー・アリーナでは車いすバスケットボール女子日本代表がグループリーグ初戦に臨み、2018年世界選手権以来“世界一"の称号を手にし続けているオランダと対戦した。日本は前半から12人全員がコートに立ち、世界最強国に立ち向かった。
4Qにはベンチスタートの土田真由美(4.0)が立て続けにシュートを炸裂させ、一人で12得点を叩き出す活躍を見せた。しかし、高さとスピードを兼ね備えたオランダの勢いを最後まで止めることができず、34-87で敗れた。それでも今後につながるプレーも散見され、得たものは決して小さくはなかった。浮き彫りとなった課題とともに、スコアからは見えない舞台裏に迫る。
浮き彫りとなった高さで劣る日本の宿命
平日の午前中であるにもかかわらず、会場は大勢の観客がつめかけ、試合前から熱気に包まれていた。網本麻里(4.5)が「予想以上に日本の応援が大きくて嬉しかった」と語ったように、スタンドのあちこちに日の丸が掲げられ、歓声の大きさも決してオランダにひけをとってはいなかった。
そうした会場の雰囲気にのみこまれることなく、逆に心を躍らせていたのが、チーム最年少、16歳の小島瑠莉(2.5)だった。
「緊張もしていたのですが、アップの時から“やばい!楽しすぎる!"と思いながらやっていました」
ほかの選手たちについても「誰も緊張して硬くなっているようなことはなかった」と財満いずみ(1.0)が語ったように、チームには浮き足立つようなところは見受けられず、静かに闘争心を燃やすかのようにいい緊張感が流れていた。しかし、パラリンピック連覇、世界選手権をあわせると“世界一決定戦"4連覇を狙っているオランダの強さは、やはり際立っていた。
この試合で日本が最大のポイントとしていたのは、速攻に走られないことだった。時間がたっぷりある状態で攻撃されれば、ペイントエリア内でミスマッチの状態から軽々とシュートを打ってくることはわかりきっていたからだ。
実際1Qの前半には、マンツーマンからきれいにシャドウのラインを作り、オランダの攻撃時間を削るディフェンスが機能したシーンもあった。だが、徐々にオランダの速攻の頻度が高くなっていった。その背景には、日本が得点できずにいたことが要因となっていた。
試合開始1分で柳本あまね(2.5)がミドルシュートを決めたものの、それ以降、日本は3分半もの間、無得点。ようやく中盤に網本のミドルシュートが決まり、さらに終盤には柳本が両チームあわせて初の3ポイントシュートで得点するも、1Qの日本のフィールドゴール成功率は19%にとどまった。それが、相手に速攻を許す引き金にもなっていた。
「こちらの得点が止まったので、そこで速攻に走られて押し込まれたというケースが多くなってしまった。得点が入ってくると、インバウンドで一人外に出るので、シャドウが機能してくる。その点、やはり得点が取れないと、なかなか自分たちのやりたいディフェンスというのが難しかったなと」と岩野博ヘッドコーチ。結局、2Qも日本の得点は伸びず、オランダに走られた。前半、相手の攻撃時間を削るための本来やりたいディフェンスをほとんどさせてもらえなかった日本は、後半はハーフコートのディフェンスに切り換えざるを得なかった。
ただ、得点が伸び悩んだ要因は、日本のオフェンスが通用していなかったからではなかった。前半20分間でのアテンプト数は、オランダが37に対して、日本も34と同等の数だけシュートを打っており、チャンスは作り出すことができていた。ただ、オランダとは決定的に大きな差があった。
ズバリ、高さだ。長身の選手を擁するオランダはどれだけ囲まれても、腕を伸ばせば軽々と日本選手の頭の上からシュートを打つことができる。そのため自分のタイミングで打つことができた。一方の日本は、逆ミスマッチとなるケースが多い。そのため相手がジャンプアップしてくる前に、キャッチしたらすぐにリリースしなければならない。体勢を整える時間はなく、ほとんどがタフショットとなる。
つまり、オランダ以上のシュート力がなければ、得点することも、そして武器であるディフェンスで相手の得点を抑えることも難しい。それはどうしても体格で劣る日本の宿命でもある。そのことが改めて明確となった一戦でもあった。
日本の強みが発揮されたチームプレーによる得点シーン
それでもやられたままで終わったわけではなく、次戦に向けての収穫も少なくなかった。最も大きかったのは、ベンチメンバーの活躍だろう。前半から12人全員がプレーしたなか、5人の初出場組も非常に冷静にプレーし、それぞれの役割を全うすることに集中しており、頼もしさが感じられた。
なかでも得点力の面で、大きな戦力であることを示したのは、江口侑里(2.5)だ。海外勢にも劣らない高さが武器の江口だが、この1、2年でシュートの飛距離を伸ばし、アウトサイドのシュート力を磨いてきた。その実力を、オランダ相手にも遺憾なく発揮し、スタートに抜擢された2Qの序盤、いきなり連続得点を挙げる活躍を見せた。
一方、4Qでシュートを炸裂させ、会場をわかせたのは、2大会連続出場の土田だった。3Qで今大会初得点を挙げた土田は、そこで感覚をつかんだのだろう。スタートから出た4Qではフリースローを2本ともに決めたのを皮切りに、その後、土田の手から放たれたボールは次々とネットに吸い込まれていった。
「最後の方は、打った瞬間に入ると感じていた」という土田。4Qの中盤にキャプテンの北田千尋(4.5)が激しく転倒し、負傷退場というアクシデントがあったなか、チームを鼓舞するかのようにシュートを決めていった。結局、4Qの10分間で、土田は14得点中12得点を叩き出し、この試合チーム最多の14得点を挙げた。
そして、こうした江口や土田の活躍の裏には、シュートシーンを演出する献身的なプレーをした選手たちがいた。オランダ戦でその代表格となったのが、網本だ。自らも抜群のシュート力を持つ網本だが、同じリードガードの柳本や萩野真世(1.0)がベンチに下がった際には、世界からも怖れられる俊敏性とボールハンドリングを生かして積極的にドライブで切り込んだ。そうして相手ディフェンスを引き付けてスペースを作り出し、アウトサイドからのシュートチャンスを見事に作り出していたのだ。
「完全に狙っていました(笑)。オランダとは開幕前に2試合しているので、向こうもそれがわかっていたはずですが、それでも相手を迷わせられたのは自信になりました。でもそれは『シュートを決めてくれる』と味方を信頼できているからこそ、私も思い切ってパスが出せているという部分がある。そういう意味でいいチームプレーで得点ができたなと思っています」
次戦は、9月1日、ドイツと対戦する。東京2020パラリンピックでは、4Q前半までリードしながらも、残り5分で逆転を許し、そのまま押し切られた。3年前の雪辱を果たし、今大会初勝利を挙げられるか。シュート成功率をどこまで上げることができるかに注目したい。
(文・斎藤 寿子/撮影・中島 功仁郎)