体を張りターンオーバーを生むプレーで勝利に貢献した小川仁士
8月31日、パリ2024パラリンピックの車いすラグビー競技は予選ラウンド最終戦が行われ、日本はカナダを50-46で下し、3戦全勝の予選1位通過で準決勝進出を果たした。会場のシャン・ド・マルス・アリーナは、応援にかけつけた大勢の観客の熱気に包まれた。ここまで予選ラウンド2勝0敗の日本は、準決勝進出をかけ、カナダ(1勝1敗)との大一番に臨んだ。
第1ピリオド。初戦、2戦目と同じ、池 透暢-池崎大輔-小川仁士―草場龍治による「ハイローライン」をスタメンに起用した日本は、立ち上がりから強いディフェンスを見せつける。相手のボールにアグレッシブに絡んでターンオーバーを取り、じりじりと点差を広げていく。
カナダにリズムを渡すまいと日本は次なるラインナップを送り込む。その直後、橋本勝也がカナダの絶対的エース、ザック・マデルにスピードで競り勝ちボールを奪うと、すかさず乗松聖矢がサポートに入ってマデルをブロック。まるで“お手本"のような2on1で、橋本がトライ。4点差にリードを広げ、13-9で終了した。
この流れに乗って順調に試合が進むかと思われた第2ピリオド。思わぬ展開が待ち受けていた。相手のプレッシャーによるものなのか、パスのタイミングが合わずにターンオーバーを次々と奪われてしまう。気づけば1点差にまで詰め寄られ、さらにはフィジカル・アドバンテージのバイオレーションも加わり、25-25の同点となったところで前半を終えた。
ハーフタイム、相手に傾いている流れを食い止めたい日本のベンチでは、後半に向け軽くウォーミングアップしながら、複数の会話がコートの至るところで行われている。なかでも、自分とラインナップを組むメンバーに積極的に声をかけていたのが小川仁士だ。東京2020大会でパラリンピック初出場を果たした小川だったが、「東京パラリンピックではチームの戦力になれず、情けない気持ちで終わってしまった」と、当時を振り返る。
パリではもっとチームに貢献できる存在になろうと、東京からの3年間で積み上げたのは“ラグビーIQ"の部分だという。「ラグビーを知る、ということ。プレーでのパフォーマンスよりも、日本のラグビーをしっかりと頭の中に入れる作業をした。その作業をすることによって、(ラインナップを組む)僕以外の3人の考えが分かるようになり、チームプレーとしてうまくいくようになった」
経験や年齢に関係なく、気づいたことを言い合える環境が、今の日本代表にある。タイムアウト等でプレーが止まっている時に小川に目をやると、積極的にメンバーとトークしている姿を見ることができる。「チーム内のコミュニケーションの柱として、プレッシャーのかかるハイポインターへの気持ちのサポートだったり、プレーについても毎回毎回、確認しようと心がけている」。小川のように、チームが強くなるために、チームが勝つために自分は何で貢献できるかを追求してきた選手たちだからこそ、ここで簡単に折れるわけがなかった。
第3ピリオド。再び集中力を高め、着実にスコアを重ねていく。チャンスだと思えば体を張って手を限界まで伸ばし、それがターンオーバーを生む。1点、また1点とカナダを退け、37-34で最終ピリオドを迎えた。
スタメンと同じラインナップで流れを落ち着かせた日本は、崩れることなく最後までしっかりと戦い抜き、50-46で勝利を収めた。そうして、予選ラウンド(プールA)3戦全勝の1位通過で準決勝進出を果たし、悲願達成への挑戦の切符をしっかりと握った。
準決勝を前に、池崎大輔はどっしりと構えて決意を語った。「自分たちは頂点に立つためにここに来ている。明日勝って、あさって勝って、それだけだ。ただ、今のままではいけない。予選の3試合から学んだこと、気づいたことを修正して、日本の力をしっかり出せるように、チームを思って明日、あさってに向かっていきたい」。
9月1日、日本はオーストラリアとの準決勝に臨む。いつも通りの“日本のラグビー"に期待したい。
(撮影・中島 功仁郎 / 文・張 理恵)