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2024年8月31日

パリ2024パラリンピック競技大会 8/31【パラ陸上】

髙桑早生、自身パラリンピック初の5m突破で5位入賞!

髙桑早生、パリの空に舞う。6回目の跳躍で自己シーズンベストを更新し、念願の5m突破を果たした | 髙桑早生、自身パラリンピック初の5m突破で5位入賞!|パリ2024パラリンピック競技大会 8/31【パラ陸上】 | Glitters 障害者スポーツ専門ニュースメディア

髙桑早生、パリの空に舞う。6回目の跳躍で自己シーズンベストを更新し、念願の5m突破を果たした

8月31日、パリ2024パラリンピックは競技3日目を迎え、パラ陸上(スタッド・ド・フランス)では女子走り幅跳び(T64)が行われた。シーズンベストを3回更新し、調子の良さを見せた髙桑早生は、最後の6回目で5m04をマークし、5位入賞。パラリンピックでは4回目にして初の5mジャンプとなった。一方、2019年世界選手権覇者の中西麻耶は4m91に終わり、7位となった。

大舞台で見せた過去の自分を超える跳躍

「今すごく調子がいいので、ぜひ走りを見てほしいんです」

髙桑からそう声をかけられたのは、今年5月、神戸で開催された世界選手権だった。2011年から10年以上、彼女を追い続けてきたが、そうしたことは初めてのことだった。それだけ確かなものを、髙桑はつかみ始めていた。そして、それはそのまま走り幅跳びに重要な助走にもいい影響を及ぼし、パリの地で実力を発揮してみせた。

「これまでのどんな大会よりも走り幅跳びに自信を持って臨むことができた大会で、それは過去のパラリンピックにはないことでした」

その自信は、1回目から表れていた。結果的にファウルにはなったものの、踏み切り板のぎりぎりを攻めた跳躍に「自分のなかではばっちりだった」と髙桑。改めて調子の良さを再確認することができた1本だった。

2回目にはシーズンベストを10cm更新する4m89をマークした髙桑は、3回目を終えて7番目につけ、上位8人による4回目以降に進んだ。すると、ここからさらにギアを上げた。5回目に4m90とシーズンベストを更新すると、最後の6回目には向かい風だったにもかかわらず5m04をマーク。シーズンベストを更新するとともに、目標としてきた5m突破を大舞台で達成させた。それは髙桑にとって、念願でもあった。

髙桑が初めて5m台の跳躍を見せたのは、15年の世界選手権。自己ベストを13cmも更新する5m09をマークし、銅メダルを獲得した。それ以降、毎年5m台のジャンプを見せてきたものの、16年リオデジャネイロ大会は4m95(5位)、21年東京大会は4m88(8位)と、パラリンピックの舞台では5mの壁にはね返されてきた。それが、今回は初めて世界最高峰の舞台で、自己ベストこそ更新できなかったものの、今できる最高の跳躍を実現させたのだ。

「シーズンベストよりも、5mにのせることができたということが、私にとっては自信になりました」と髙桑。順位はリオと同じ5位だが、髙桑にとっては過去の自分を超えることができたものとなったに違いない。

さらにもう一つ、成長の跡があった。これまでは、前半に記録を残すことがほとんどで、トップジャンパーたちがメダルをかけて記録を伸ばしてくる4回目以降は記録を出せないことがほとんどだった。

15年世界選手権で銅メダルを獲得して以降、唯一5m台を跳んだ“世界一決定戦"は19年世界選手権だが、この時も3回目に5m04を跳んだものの4回目以降はファウルや4m台のジャンプが続き、記録を伸ばすことができなかった。

しかし、今大会では2回目でシーズンベストを更新した後も、5回目でさらに記録を伸ばし、最後の6回目で5mの壁を突破するというこの日最高の跳躍で締めた。これについて、髙桑はこう振り返った。

「私はいつも有終の美を飾れないタイプなのですが、今回は記録を出せるという自信があったのが大きかったと思います。目標としていた記録には届きませんでしたが、最後にちゃんと記録を伸ばして5mにのせて終わるんだということは強く思っていたので良かったです」
髙桑早生、勢いを持って助走。大舞台で挑んだパリ2024パラリンピック、パラリンピックでの自己最長の5m04を記録し、自信を確信に変えた | 髙桑早生、自身パラリンピック初の5m突破で5位入賞!|パリ2024パラリンピック競技大会 8/31【パラ陸上】 | Glitters 障害者スポーツ専門ニュースメディア

髙桑早生、勢いを持って助走。大舞台で挑んだパリ2024パラリンピック、パラリンピックでの自己最長の5m04を記録し、自信を確信に変えた

苦しんできた分だけ思いがつまった12年ぶりの嬉し涙

ミックスゾーンでのインタビュー後、髙桑に握手を求めに行くと、それまでは落ち着き払って報道陣の質問に答えていた時とは一転、安堵の表情を浮かべ、いつもの柔らかな笑顔を見せた。

そして「今回は本当に自信があったので、結果が出せて良かったです」と言い終わらないうちに、彼女の目からは大粒の涙がこぼれ落ちた。自信があったからこそ、「結果を出したい、出さなければ」という気持ちとの葛藤もあり、納得の結果を出せたことにほっとしたのだろう。

髙桑の嬉し涙を見たのは、パラリンピックデビューとなった12年ロンドン大会以来、実に12年ぶりのことだった。12年前のロンドン大会、大学生だった20歳の髙桑は大観衆の前でパフォーマンスを見せることの喜びと幸福感に包まれて涙を流した。しかし、酸いも甘いも経験してきた32歳の髙桑が今大会で流した涙は、その時とはまた違った意味を持つ。そして、これまで何度も流してきた悔し涙の分、喜びもひとしおだったに違いない。

振り返れば、パリへの道のりはこれまで経験したどのパラリンピックよりも険しく、特に東京大会以降は、悶々とした日々が続いた。心身ともに疲弊し、結果も出なかった。なかでも走り幅跳びに関しては、22年シーズンは一度も試合に出ることはなく、昨シーズンは4m99と5mまであと1cm届かなかった。そして同年世界選手権では、12年ロンドンパラリンピックで代表デビューして以来、初めての代表落選という苦い経験も味わった。

そんななか、ようやくたどり着いた大舞台で過去の自分を超えてみせたのだ。日本からパリへと持ち込んだ“自信"は、今回の跳躍で“"確信"へと変わったはずだ。

9月5日には100m予選が行われる。ロングジャンパーである前に、スプリンターとしての矜持を持つ髙桑にとって、このレースにかける思いはより強い。

「スプリントも順調に調整できているので、今回の幅跳びの経験を胸に刻み、自己ベスト更新と決勝進出を目指して頑張りたいと思います」

自己ベストの13秒43はこれまで3回記録している。そのうち2回はリオ、東京のパラリンピックと大舞台に強さを発揮してきた。それでも8年間、過去の自分を超えられてはいないということも事実だ。そして年々、髙桑のクラスはレベルが高くなっており、ライバルも多い。東京大会では自己ベストタイのタイムでも決勝に残ることができず、初めて予選敗退を喫した。今回は3年前の雪辱を果たし、2大会ぶりとなるファイナリストへの返り咲きを狙う。

(文・斎藤 寿子/撮影・中島 功仁郎)

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