パリ2024パラリンピック競技大会 9/2【車いすラグビー】

最強日本、史上初のパラリンピック金メダル獲得！

パリ2024パラリンピックの車いすラグビー競技最終日となった9月2日、決勝と順位決定戦がシャン・ド・マルス・アリーナで行われた。日本はアメリカとの決勝戦に臨み、序盤でビハインドを背負うも、自分たちが積み上げてきたチームプレーで相手を大きく引き離して48-41と圧倒的な勝利を収め、史上初の金メダルを獲得した。リオ、東京の銅メダルに続き、パラリンピック3大会連続のメダル獲得となった。


史上初のパラリンピック決勝の大舞台。
感情を高ぶらせることなく“いつも通り"のメンタルで試合に挑む日本。

第1ピリオドでは、予選ラウンドでの対戦時よりもギアを上げたアメリカが、ハイエナのような鋭いボールプレッシャーを仕掛け日本の行く手を阻む。さらに、トライライン手前のキーエリアでは、世界最強を誇るアメリカの鉄壁のキーディフェンスが立ちはだかる。日本は、キーエリア内でパスをはじかれるなど得点を思うように重ねられず、いきなり11-14と3点のビハインドを背負う。

第2ピリオド、まずは着実にターンオーバーを奪って差を詰めると、勢いのあるアメリカの若手選手に経験の差を見せつけバイオレーションを誘う。そして、橋本勝也がサラ・アダムの放ったバスをブロックし、その高く浮いたボールをキャッチするとトライまで持ち込んで、日本のリードに転じる。ラストゴールもきっちり取り、24-23の1点リードで前半を終了した。

史上初のパラリンピック決勝進出となった日本に対し、アメリカは決勝の常連国。けれども、日本は物怖じするどころか、アグレッシブなハードワークが続く。ミスをしたら取り返せばいい、そんなタフささえ感じられる。


後半に入ると、日本のラグビーが伸び伸びと躍動する。ハイポインターのパワフルかつ丁寧なプレー、ローポインターの体を張ったスクリーンプレー、コート内の4人が連係して動くチームプレー。そこに、5番目の選手として仲間の背中を押すベンチメンバーたち。

橋本が「ディフェンス最強ライン」と呼ぶ、倉橋香衣―乗松聖矢―池 透暢―橋本のラインナップが、アメリカのメンタルを削っていく。さらに、4回ある選手タイムアウトも使い果たしたアメリカはどんどん追い込まれていく。日本は自分たちのラグビーを貫いて1点1点をもぎ取り、気づけば35-32とリードを広げた。

そうして迎えた、栄光への最終ピリオド。日本の勢いは止まらず、このピリオドだけで4つのターンオーバーを奪い、もはやアメリカに打つ手はなかった。ついには試合時間残り1分29秒で、エースのチャック・アオキをベンチに下げた。

勝利を確信した日本は、相手のインバウンドをキャッチした橋本が、そのボールを天井に向かって高く放り上げ試合終了。48-41とアメリカを圧倒し、予選から5戦全勝の完全優勝で、悲願の金メダルを獲得した。ついに日本が、パラリンピック・チャンピオンになった瞬間だった。


コートで抱き合い、健闘を称え合い、泣き合い、笑い合った。会場は拍手と歓声の嵐。喝采の中、ウィニングランで観客と喜びを分かち、センターサークルで円陣を組んだ。キャプテンの池は、熱く仲間に語りかけた。「東京パラリンピックで『金メダルを獲れるチームになろう』と話した言葉を、今日みんなで達成した。ここに来られなかった仲間やスタッフの分まで感謝を返していこう」

表彰式では、重厚な金メダルが選手一人ひとりにかけられた。何度も撫でてみたり、持ち上げてみたり。その重みを、金メダルまでの道のりを噛みしめた。「メダルをもらった瞬間、ひとつの悔しさもなくて、すべてのものがすばらしく美しかった。こんな最高の場所で、最高のプレーをして、最高の結果が出せた。スポーツ選手として、最高の瞬間だった」池にとっても、特別な時間となった。

そして、池崎大輔は「今までの努力が報われた、幸せな瞬間だった」と語る。「今までは自分がコートに立つ時間が長かった。でも今回、コートの外から戦いぶりを見て、日本は強いな、橋本が育ったな、と感じることができた。いろんな人とこのチームを築き上げて強いチームになった。たくさんの人のおかげで、この金メダルにつながった」。最後は、感謝の思いが綴られた。

語り継がれる、栄光の歴史を刻んだ、車いすラグビー日本代表。
世界王者として、金メダリストとして、新たな挑戦への幕が開いた。

（文・張 理恵／撮影・中島 功仁郎）