第2Q終了時点でFG成功率100%を叩き出した萩野
9月5日、パリ2024パラリンピックは競技8日目を迎え、ベルシー・アリーナでは車いすバスケットボールの5-8位決定戦予選が行われた。日本はイギリスと対戦し、前半を終えて30-29と激戦が繰り広げた。しかし3Qに逆転を許し、さらに4Qに突き放されて55-67で敗れた。今大会初勝利とはならなかったが、それでも内容的には日本の強さが垣間見えた一戦となった。
萩野&柳本が得点源となり前半で今大会初の30得点!
1Qは、今大会最高のスタートと言っても良かった。まずは試合を重ねるごとにシュートの調子を取り戻してきた柳本あまね(2.5)がミドルシュートを決め、日本が幸先よく先制した。さらにこの日、チームで最も爆発した萩野真世(1.5)が自身今大会初の3Pシュートを決め、チームに勢いを与えた。
一方、ディフェンスは最も警戒していた長身のジェイド・アトキン(4.5)にインサイドからのシュートを許したものの、もう一人のシューター、ロビン・ラブ(3.5)にはシュートチャンスさえも与えなかった。イギリスのフィールドゴール(FG)成功率を39%に抑えた1Qは13-15と互角に渡り合った。
続く2Qでは、まずは序盤、完全復活した萩野が連続でミドルシュートを決めた。特に2本目は、ショットクロック残り2.7秒からのスローインの場面、柳本からのパスをキャッチすると体勢を整える間もなく素早くリリースしなければならない難しいシュートを、萩野は見事にネットに沈めた。
本来の調子を戻しつつある柳本が日本代表に勢いをもたらした
そして中盤には、柳本が魅せた。ディフェンスリバウンドからの速攻でレイアップを決めると、次はミドルシュート、さらには3Pシュートと、マルチな活躍で得点を伸ばした。
2Q終了時点で、萩野はFG成功率は100%で9得点。一方の柳本はチーム最多の11得点。ハイポインター並みの得点力を持つローポインターとミドルポインターの存在が、日本の強みであることを証明した数字だった。
そのほか網本麻里(4.5)も4得点を挙げた日本は2Qの10分間で17得点とイギリスの14得点を上回り、30-29。わずか1点ながらリードしたうえに、今大会初めて前半20分で30点台にのせ、試合を折り返した。
土田は持ち前の安定したパフォーマンスで日本代表を鼓舞した
しかし、「一つの勝負どころとなった」と岩野博ヘッドコーチ(HC)が言うように、勝敗を分けた最大のポイントは、3Qの序盤だった。
「向こうがギアを上げてくることも、自分たちのディフェンスに対応してくるだろうことはわかっていた」と網本。日本も警戒していたつもりだったが、それでもイギリスの方が一枚上手だった。約3分間、日本が得点できずにいたなか、イギリスは5連続得点。完全に主導権を握られ、30-39と一気に差を広げられてしまった。日本も今大会初戦から好調をキープしている土田真由美(4.0)を投入し、急いで追い上げを図った。土田の期待通りの活躍で大きく離されることはなかったものの、相手の勢いを止めるまでには至らず、42-49で4Qを迎えた。
4Q、日本は網本がドライブで切り込みレイアップを決めれば、柳本が今大会チーム最多タイの5本目となる3Pシュートで得点を伸ばすなどして追い上げようとしたが、イギリスも連続得点で日本の猛追をかわし、なかなかその差は縮まらなかった。試合時間残り1分を切ると、日本はファウルゲームで逆転を狙った。しかし3Pシュートがことごとくリングに嫌われ、追い上げることができずに、55-67で敗れた。
今大会大活躍のキャプテン北田はイギリス戦でのFGがなく悔しさを滲ませた
初勝利で有終の美を狙うスペインとの最終戦
ただ、この試合は磨いてきた得点力が発揮された一戦でもあった。前半はFG成功率100%を誇った萩野は、後半も好調をキープし、最終的にはFGは71%。2Pシュートに限っては外したのはわずか1本で80%にものぼった。また、チーム最多得点を挙げた網本は19得点13リバウンド、柳本も15得点10アシストで、そろってダブルダブルを達成。今大会を通してチーム一の好調ぶりを見せている土田は、この日もFGを57%の高確率で成功させる安定ぶりを見せ、9得点を挙げた。
一方、突然のスランプに陥ったのが、キャプテンの北田千尋(4.5)だった。グループリーグでは3試合中2試合でチーム最多得点とまさに大車輪の活躍を見せていた北田だったが、この日は一転、ミドルシュート、3Pシュート、さらにはレイアップまで、ことごとくリングに嫌われ続けた。そして4Qの終盤に5ファウルで退場を余儀なくされた北田は、結局この試合、FGでは一度もネットを揺らすことはできなかった。
網本は19得点13リバウンドのダブルダブルと攻守にわたり存在感を発揮
しかし、今大会の日本の強さはお互いにカバーし合えていることにある。グループリーグでは萩野、柳本が不調だった分も土田と一緒に最大の得点源としてチームをけん引したのが北田だった。それがこの試合では逆転したに過ぎない。
パリでの戦いも、残すところあと1試合。7日の7-8位決定戦が、泣いても笑っても、このチームでのラストゲームとなる。相手のスペインとは、東京2020パラリンピック以降の対戦成績は1勝1敗。昨年の世界選手権では3点差で競り勝ったが、今年の最終予選では19点差で敗れている。いずれにしても簡単に勝てる相手ではないことは確かだが、参加8カ国中、唯一の未勝利で終わるわけにはいかない。
「1勝はして帰りたいので、みんなで爆発して得点力があるところを最後に見せて勝って終わりたいと思います」と萩野。網本も「最後は自分らも見てくれている人たちも、みんなを笑顔にしたい」と意気込む。
「これまでずっと皆さんに見ていただいた日本のバスケットを遺憾なく発揮して、自分たちのバスケットを最後まで貫き通したいと思います」と岩野HC。お預けになっている“初勝利"を挙げ、東京2020パラリンピックではかなわなかった“有終の美"を飾りたい。
(文・斎藤寿子/撮影・中島功仁郎)