笑顔でメダルを掲げる木村敬一(東京ガス)と富田宇宙(EY Japan)
パリ2024パラリンピック大会10日目の9月6日、水泳の男子100メートルバタフライ(S11・全盲)決勝がパリ・ラ・デファンス・アリーナで行われ、木村敬一がパラリンピック記録を更新する泳ぎで東京2020大会に続き連覇を達成、富田宇宙が銅メダルを獲得した。
東京パラリンピックでは同種目で木村が悲願の金メダルを獲得。富田が銀メダルに輝き、日本勢がワンツーフィニッシュを果たした。今回のパリでも大きな期待が寄せられた。
大会4日目に行われた男子50メートル自由形で金メダルを獲得した木村は、この日の100メートルバタフライがメイン種目。パリに向けては、フォームの改良に取り組むなど、前回の東京とは違うアプローチで自身の泳ぎを追求してきた。
木村は午前中に行われた予選で1組目に登場すると、1分01秒48と全体1位のタイムをマークした。「いい流れ。決勝もこの流れでしがみついていきたい」と手応えを口にした。
一方の富田は、大会3日目の男子400メートル自由形で銅メダルを獲得。有観客で行われるパラリンピックは初めての経験となり、「こんな最高の場所だったら笑顔になっちゃう。こういうすばらしい場所に立たせてもらって感謝でいっぱい。泳ぐ前から泣きそうになった」と声を弾ませていた。
予選2組目に登場した富田は同組トップ、木村に次ぐ全体2位のタイムで決勝に進出した。
木村は圧巻の泳ぎを見せ、パラリンピック新記録で連覇を達成した
決勝で木村は、横一線のスタートから徐々にリードすると、32秒77のトップで50メートルをターン。75メートル付近から体ひとつ抜け出すと、最後まで安定した大きな泳ぎを披露し1着でゴールした。
金メダル獲得の瞬間、木村は左腕を大きく突き上げ、納得の表情を浮かべた。
4位とわずか0秒01差の3着でフィニッシュした富田が木村のもとへ向かうと、「スゲーよ。お前、やっぱスゲーよ!」と肩をたたき、ライバルを讃えた。
木村は、目標としていた自己ベストを更新し、1分00秒90のパラリンピック新記録を打ち立てた。そして富田は1分03秒89のタイムでレースを終えた。
東京大会に続き、ライバルとしてパラリンピックという大舞台を共に戦い抜いた木村(手前)と富田(奥)
表彰式。富田は「ブロンズメダリスト」とコールされると両手を大きく広げ、解き放たれた笑顔で会場を見渡した。対する木村は深々とお辞儀をして表情台の頂点に立ち、輝く金メダルを胸のあたりまで掲げて観客たちに見せ、感謝と喜びを伝えた。
木村は「(東京パラリンピックまでと)同じことをやって、パリで金メダルを獲ろうとは思っていない」と、昨年からオリンピック競泳メダリストの星 奈津美さんの指導を受け、バタフライのフォーム改良に努めた。そして、3月のパラリンピック代表選考会では、「技術をしっかり磨き上げ、もう一度世界で戦えるような泳ぎを作ってパリに臨みたい」と決意を語っていた。
それを有言実行した、この日の決勝の泳ぎについては、「何よりも自己ベストという形で示すことができた。体力的な練習は積めていないが、技術でここまで記録を伸ばすことができた。ひとつの成果として自分に自信を持ちたい」と堂々と語った。
そして、「こうして金メダルを獲れたことはうれしいが、スイマーとして、成長というよりは記録を上げていくことにもう一度気持ちを戻すことができた。改めて水泳の楽しさ、面白さに気づけた」と東京からの3年間を振り返った。
東京パラリンピックと同じように、木村とワンツーフィニッシュを決めたいと100メートルバタフライに臨んだ富田。
「記録としてはすごく不甲斐ない結果。なんとか皆さんの期待に応えたいと思っていたが、力が及ばず申し訳ない。ただ、(水泳以外の部分でも)自分の志しや信念を持って3年間やってきたので、まったく悔いはない。自分の結果として誇らしく思いたいし、木村くんと同じ表彰台に上がれることをすごく光栄に思う。彼を讃えるとともに、自分のことも少しだけ誇りたい」
その胸に、銅メダルが輝いていた。
連日のメダルラッシュに沸く、トビウオパラジャパンことパラ水泳日本代表。
パリ・パラリンピックの水泳は、9月7日に競技最終日を迎える。
会場を埋め尽くす観客たちの熱狂のなか、パラスイマーたちの躍動が続く。
(文・張 理恵/撮影・中島 功仁郎)