パリ2024パラリンピック大会11日目の9月7日、車いすテニスの男子シングルス決勝がローラン・ギャロスで行われ、小田凱人がイギリスのアルフィー・ヒューエットを6-2、4-6、7-5で破り、金メダルを獲得した。
ヒューエット(世界ランキング1位)と小田(同2位)の一戦は、2時間36分に及ぶ大接戦となった。
第1セット。立ち上がりからいきなりヒートアップする展開で、小田が得意のサーブで第1ゲームをキープ。すると、ヒューエットがメディカル・タイムアウトを要求し、試合が中断する。
数分経って再開されたが、その後はヒューエットの精彩を欠くプレーが続き、ゲームカウント6-2で小田が勝ち取った。
「ファーストセットは自分のテンションで押していける。勝負はセカンドセット」
小田の予想通り、第2セットは、お互いのメンタルを削り合う一進一退の攻防が繰り広げられた。
小田が1ゲームを取れば、今度はヒューエットが取り返す。ラインぎりぎりに際どいバックハンドを決めたかと思えば、連続ポイントを挙げたい場面で勢い余ってミスも出る。最後は、ヒューエットが2ゲームを連取して4-6とし、第3セットへと突入した。
「トキト!トキト!」
「アルフィー!アルフィー!」
会場を埋め尽くした観客の応援合戦は、さらに熱を帯びる。
小田は苦しい場面でも諦めず、攻めの姿勢を崩さなかった
第3セット。
勢いを増すヒューエットは3-5と小田を追い込み、ゴールドメダル・ポイントを先に握る。
「緊張して、心臓がバクバクして、どうやってこの流れを止めようかと考えていた」
小田はアグレッシブに前に出て攻める、みずからのプレースタイルを貫く。
そして、会場中を味方につけパワーに替えようと客をあおる。
4-5、5-5、6-5.
ついに小田のリードに転じた。
会場のボルテージも上がり、1ゲームとるたびに大きな拍手やため息がもれる。
明らかに勢いがあるのは小田だった。両腕を上下にぶんぶん振り回して、エンジン全開をアピール。
そうして、小田の鋭いリターンが決まり7-5で試合終了。
車いすテニス史上最年少のパラリンピック・チャンピオンが誕生した。
小田は両側の車輪をはずしてコートに仰向けになり、両手を広げ、この最高の空間を噛みしめた。
一方のヒューエットは、小田に駆け寄ると車輪をはめてやり声をかけた。そしてベンチに戻ると、ただ呆然と立ち尽くした。
「いやー、ちょっと、かっこよすぎるな」
今日だけはこれくらい言っても許されるかな、と、小田は自らを讃えた。
そして、「後半、4-5になってからは何も怖くなくて、いけると思った。今までで一番楽しい試合だった」とゲームを振り返った。
18歳で臨んだ自身初のパラリンピック。
「毎日ずっと楽しかった。でも、この緊張感は4年に一回がちょうどいいかな」
最後は笑顔で締めくくった。
パリ・パラリンピックの車いすテニスは、日本が、女子シングル、女子ダブルス、男子シングルスで金メダルを獲得、また男子ダブルスは銀メダルに輝き、出場した全カテゴリーで銀メダル以上という快挙を成し遂げた。
日本勢の活躍は、世界にその強さを見せつけただけではなく、人々の心も動かした。
(文・張 理恵/撮影・中島 功仁郎)