1時間31分23秒で3着となり、パラリンピックのマラソン種目では自身初となる銅メダルを獲得した鈴木朋樹
パリ2024パラリンピック最終日の9月8日、陸上競技の最終種目としてマラソンが行われ、男子マラソン(車いすT54)の鈴木朋樹と、女子マラソン(視覚障がいT12)の道下美里が銅メダルを獲得した。
オリンピックとは異なるコースでの実施となったパラリンピックのマラソンは、ジョルジュ=ヴァルボン県立公園をスタートして、コンコルド広場やシャンゼリゼ通り、凱旋門など、パリの名所を巡る42.195キロで行われた。
気温14度。肌寒さを感じる天候のなか、全カテゴリーのトップを切って、男子マラソン(車いすT54)にエントリーした13名の選手が一斉にスタート、日本からは鈴木朋樹と、パラリンピック初出場の吉田竜太の2名が出場した。
世界記録保持者のマルセル・フグが勢いよく飛び出すと、鈴木がそれに続く。坂が多く、路面は石畳の箇所が多いため、車いすとブラインド、どの選手にとってもタフなコース。それでも鈴木はフグにくらいついた。
「スタートですぐ体力は削られていた。ただ、ここで乗っかっていかないと絶対にメダルは見えてこない。ここで出し惜しみしている場合ではないと、とにかく出し切った」中国の金華も先頭集団に加わり、3人がレースを引っ張っていく。
「逃げない」、「あきらめない」鈴木は声に出して自分を奮い立たせながら、ゴールを目指し、ひたすら車いすをこいだ。フグが独走状態で2位以下を大きく引き離す。35キロ地点を鈴木と金華が同タイムで通過すると40キロ地点では鈴木が2秒リードする。
最後のスプリント勝負、体力を温存していた金華が前に出てゴール。鈴木は金華にわずか4秒差の1時間31分23秒で3着となり、パラリンピックのマラソン種目では自身初となる銅メダルを獲得した。
「うれしい」メダル獲得の心境をこう語るも、そこに笑顔はなかった。「目の前に銀メダルが見えていました。だからもうひとつ上の色がほしかったという気持ちもあります。それに正直、(ゴール直後は)メダルを獲ったというのが自分の中でまだ飲み込めてなかったんです」
ただ、メダリストにしか見られない光景は鈴木の心を大きく揺さぶったようだ。「表彰台に上がる3人で、(ゴール地点で)みんながゴールするまで選手たちを待っている。あの空間というのは、何物にも代えられない時間だった」
パリでのレースが終わったばかりだが、鈴木の目はすでに4年後に向けられていた。「日本の車いすT54のレベルをもっともっと上げていきたい。そのためには、もっと自分が上に行くしかない。ロスのパラリンピックで銀メダル、その上の金メダルというところを目指します」
女子マラソン(車いすT54)には、夏季と冬季を合わせて9度目のパラリンピック出場を果たした土田和歌子と喜納 翼が出場した。これが最後のパラリンピックと位置づけて今大会に臨んだ土田。6位入賞という結果でレースを終えた。
「日本代表として30年戦わせていただき、良くも悪くも⾃分⾃⾝が成⻑できた期間だった。パラリンピックを⽬指すからにはメダルというものがひとつの⽬標になるが、そこまでのプロセスというものはしっかり進んで来られた。とても満⾜しています」レジェンドの目に涙があふれた。
凱旋門を背に力走する堀越、2時間38分45秒のタイムで7位入賞。石畳に苦しみながらも最後まで全力を尽くした
男子マラソン(視覚障がいT12)には、和田伸也(T11)、熊谷 豊(T12)、堀越信司(T12)の3選手が出場した。視覚に障がいのある選手にとって、石畳やバンプの多い今回のコースは難敵となった。事前にパリを訪れコースを下見したりと、それぞれの選手ができる対策はしてきたが、ガイドランナーをつけずに走る熊谷は、この日の走りで2回転倒してしまったという。堀越が7位、和田が9位、熊谷が10位でフィニッシュ。障がいのクラスがひとつ重い和田は、T11クラスのパラリンピック新記録となる2時間29分59秒をマークした。
道下美里、今季ベストの3時間4分23秒で力走し、銅メダルを堂々と獲得
そして、女子マラソン(視覚障がいT12)には東京パラリンピックの金メダリスト、道下美里(T12)が出場した。道下もまた足に負担がかかり、思うような走りができずにいた。3時間4分23秒の今季ベストをマークするも、4着に終わり悔し涙を流した・・・
ところが、思わぬ知らせが舞い込んできた。
「道下、ブロンズ!!」事務局の担当者の弾んだ声だった。道下の前にゴールしたスペインの選手が違反行為によって失格となり、繰り上がった道下が銅メダルの資格を得た。
どん底の涙から一転、表彰式では、道下らしい、一点のくもりもない笑顔をふりまき、大きく手を振った。銅メダルが授与されると、大きなメダルを小さな手でしっかりと握り、誇らしげに会場に見せながら、喜びを分かち合った。「レースには何があるか分からないから、最後まで絶対、ひとつでも前に、ひとつでも前に、とふだんからコーチが言っていた。きついこともあったけど、しっかり乗り越えてきた。それを神様が見ていてくれたのかな」
そして、銅メダルを優しくなで手に乗せると、「この3年間がんばってきた。ご褒美の、重みのあるメダル。いっぱいいろんな人に応援して頂いていたので、たくさんいろんな思いが詰まっている、大事なメダルですね」道下スマイルが、パリでも輝いた。
12日間にわたり熱戦が繰り広げられた、パリ2024パラリンピック。東京からの険しくも尊い道のりにピリオドが打たれ、新たな挑戦の日々が始まった。
(撮影・中島 功仁郎 / 文・張 理恵)