柳本あまねは日本代表戦でも見せた抜群の得点力を発揮して9連覇に大きく貢献
12月7、8日、グリーンアリーナ神戸では「皇后杯 第33回日本女子車いすバスケットボール選手権大会」が開催された。3年連続で同一カードとなった決勝では、6人のパリ2024パラリンピック女子日本代表を擁するカクテル(近畿)が、Wing(関東)を59-32で破って優勝。史上初の9連覇を達成した。MVPには、全3試合で4本の3ポイントシュートを決めたカクテルの柳本あまね(2.5)が選出された。
突破力のある椎名香菜子はカクテルの堅いディフェンスの隙をつき積極的にレイアップを狙う
前半で主導権を握ったカクテル
全国から6チームが出場した今大会、初日には3チームずつ2つのプールに分かれて予選リーグが行われた。その結果、プールAではWingが、プールBではカクテルがそれぞれ2勝して1位通過となり、2日目の決勝へと進出した。
9連覇を狙うカクテルに対し、2010年第21回大会以来の日本一奪還を目指すWing。両チームの決勝は、これで3年連続6回目。過去5回はカクテルが4勝1敗としていた。
8日14時半にティップオフした決勝、まず先制したのはWingだった。右サイドでの2対2から坂本真実(1.5)がピック&ロールでペイントエリアに攻め込むと、それを鈴木百萌子(4.0)が見逃さずにパス。坂本は落ち着いてシュートを決め、貴重な先取点を挙げた。
しかし、カクテルはWingの勢いを一瞬でかき消した。坂本の先制シュートからわずか15秒後、柳本がトップから豪快な3ポイントシュートを炸裂したのだ。さらに中盤にも柳本が連続で3ポイントシュートを決めたカクテルは、そこから勢いを加速させた。終盤にはディフェンスリバウンドや相手のターンオーバーからの速攻を北田千尋(4.5)と柳本があわせて3連続で決め、流れを引き寄せた。
一方のWingはカクテルのオールコートでのマンツーマンディフェンスに対し、打開策を講じた。相手がカウントした場合はスローインを坂本にし、高さのある鈴木がバックコートでボールを受け、それをフロントコートへと走る椎名香菜子(4.5/健常)に託すという戦略だった。
椎名がキープしている間に、バックコートでは原田恵(1.0)や坂本がピックにいき、鈴木をフロントコートに上がらせ、そこからセットオフェンスで攻めていく、もしくは1対1に強い椎名が自らドリブルでシュートへと持っていく。その間、財満いずみ(1.0)が相手にヘルプにいかれないようにしっかりとプレッシャーを与える。それがWingの狙いだった。しかし、なかなかフィニッシュが決まらず、逆に相手に速攻にいかれて勢いを与えてしまった。
続く2Qはカクテルのセカンドユニットのシュート成功率が上がらなかったこともあり、8-10と互角に渡り合った。それでも1Qで開いた差が大きく響き、29-14。2ケタ差で試合を折り返し、カクテルが主導権を握り続けたまま後半に入った。
連携の取れたカクテルのディフェンスは得点を狙うWingの突破を許さなかった
Wingは打開策を講じるもカクテルのディフェンスの苦戦
すると、なんとかカクテルのディフェンスを攻略しようと、Wingは戦略を変えてきた。相手がカウントした場合、まずは椎名がバックコートでボールを受けることにしたのだ。その意図について、キャプテンの原田はこう語った。
「なかなかバックコートからフロントコートにまで走れていないという状況が続いていたので、椎名選手の突破力を生かそうということで藤井(郁美)コーチから指示がありました。まずはバックコートから抜け出すというところで、私や坂本選手が絡みにいってフロントコートでの攻めにつなげていくことが狙いでした」
この戦略が奏功し、前半に3度あった8秒バイオレーションを取られることもなく、フロントコートで攻めるシーンが増えた。しかし、カクテルはハーフコートでのディフェンスもしっかりと機能しており、Wingはタフショットを強いられた。そのため、フィニッシュの決定力が上がらず、カクテルとの差は開いていった。
その後も手を緩めることなく、強さを示し続けたカクテルが59-32で快勝。9連覇を達成し、岩野博HCが就任した当初から目標としてきた“10連覇"の快挙達成に、ついに王手をかけた。
スターティングメンバーに抜擢された西村葵は日本代表で培った体力と判断力で攻守ともに活躍
カクテル、日本一の強さにある“チーム力"
今大会のカクテルには、代表クラスの選手たちの活躍に加えて、成長著しい若手や安定したプレーが光ったベテラン勢の存在による“チーム力"があった。その一人が、高校3年生の西村葵(1.5)だ。昨年は女子U25世界選手権に出場し、今年は女子日本代表へと昇格。アジアオセアニアチャンピオンシップや世界最終予選も経験し、パリ2024パラリンピックの舞台にも上がった。
そして3回目となった皇后杯では、現役を引退した吉田絵里架の後を継いでスターティングメンバーに抜擢。吉田と西村という世代交代が図られた主力のラインナップの強度がまったく落ちなかったことが、優勝への大きなカギを握っていたことは間違いない。岩野博HCも「40分間走らせても大丈夫なくらい体力もついてきましたし、パリを経験して視野も広くなった。彼女が入ったユニットが良かったというのがポイントの一つだったと思います。吉田にも安心して後を任せられるという姿を見せてくれました」と称えた。
そして成長著しいのは西村だけではない。同じくパリパラリンピックに出場した小島瑠莉(2.5)はもちろん、西村や小島と一緒に昨年U25世界選手権に出場した青山結依(1.0)、さらに石浦凜、藤原芽花(いずれも3.0)といった現役大学生もパリ組が不在のなか、しっかりと練習に励んだといい、今大会で堂々とプレーした。
また主力が代表活動で不在とするなか、チームを支えたベテラン勢もコート上で実力を発揮。昨年の決勝で大活躍した吉川美保(4.5)は変わらずインサイドでの強さを見せ、前川知子(1.5)はハイポインターにも屈しない強いディフェンスでチームに貢献した。
パラリンピックイヤーだった今年、代表選手を多く抱えるカクテルだからこそチーム練習に全員が揃う機会が少なかったという悩みがあった。それでも日本一への気持ちは皆同じで、パリ後は選手たち同士で話し合ってトレーニングスケジュールを組み、皇后杯に向けて強化を図ってきたという。
「一番重要だったのは、代表組とそのほかの選手たちとのコンタクトの強さや意識などをどう合わせていくか。ただ代表組が不在の中でも練習してくれていたおかげで、しっかりとチームが一つになれました」と岩野HC。このチーム力が、現在のカクテルの強さにほかならない。
そして「現状に甘えることは絶対したくない」とキャプテンの北間優衣(1.0)が語るなど、9連覇してなおも高みを目指す姿勢を崩さないカクテル。10連覇に向けて死角なしといったところだ。
(文・斎藤寿子/撮影・村上智彦)
【車いすバスケットボール】
一般のバスケットボールとほぼ同じルールで行われる。ただし「ダブルドリブル」はなく、2プッシュ(車いすを漕ぐこと)につき1回ドリブルをすればOK。
選手には障がいの程度に応じて持ち点があり、障がいが重い方から1.0~4.5までの8クラスに分けられている。コート上の5人の持ち点の合計は14点以内に編成しなければならない。主に1.0、1.5、2.0の選手を「ローポインター」、2.5、3.0、3.5を「ミドルポインター」、4.0、4.5を「ハイポインター」と呼ぶ。
コートの広さやゴールの高さ、3Pやフリースローの距離は一般のバスケと同じ。障がいが軽いハイポインターでも車いすのシートから臀部を離すことは許されず、座ったままの状態で一般のバスケと同じ高さ・距離でシュートを決めるのは至難の業だ。また、車いすを漕ぎながら、ドリブルをすることも容易ではなく、選手たちは日々のトレーニングによって高度な技術を習得している。
ジャンプはないが、ハイポインターが車いすの片輪を上げて高さを出す「ティルティング」という技がある。ゴール下の激しい攻防戦の中、ティルティングでシュートをねじ込むシーンは車いすバスケならではの見どころの一つだ。