BLITZ対Freedomの決勝戦。パリ金メダルメンバーの池透暢(左)と池崎大輔(右)の激しいバトルが会場を沸かせた
12月20~22日、クラブチーム日本一の座をかけた国内最高峰の戦い「第26回車いすラグビー日本選手権大会」が横浜武道館(神奈川県横浜市)で開催された。
予選大会(兵庫、新潟)とプレーオフを勝ち抜いた8チームが3日間にわたり激闘を繰り広げ、パリ・パラリンピック金メダルメンバー4名を擁するBLITZが大会2連覇を果たし、10度目の日本一に輝いた。
「優勝」よりも「ラストゴール」にこだわったBLITZ
色とりどりの応援グッズが会場を飾るなか迎えた、決勝戦。昨シーズンからの連勝記録を順調に伸ばし、無敵の様相を呈する前回王者・BLITZ(東京)に挑むは、2大会ぶりの王座奪還を狙う Freedom(高知)。BLITZは島川慎一―池崎大輔―小川仁士―長谷川勇基の、パリ金メダルメンバー4人をスターティング・ラインナップに起用する。一方のFreedomは、パリ・パラリンピック日本代表キャプテン・池 透暢に次世代エース・白川楓也、両ハイポインターが入るラインナップで臨む。
試合は立ち上がりから、白熱した展開となった。池崎vs池のマッチアップに、島川vs白川の走り合いと、火花を散らす両チーム。派手なパフォーマンスの裏で、フィニッシュの重要な役割を担う52歳、畑中功介(Freedom)の奮闘も光る。ディフェンスの強度を高めるBLITZは、浮いたボールにローポインターの長谷川がくらいつくなど次々とターンオーバーを奪い、第1ピリオドで13-9と大きくリードする。
続く第2ピリオド序盤でさらに点差を広げたBLITZは、コート全体にディフェンスを張り巡らし、Freedomの持ち味であるスペーシング・ラグビーを封じ込める。それでも、勝利をあきらめない池と白川が、池崎を2対1でがっちりと押さえ会場を沸かせる。前半残り36秒、Freedom のインバウンドからのロングパスを長谷川が前に出てキャッチし、すかさずボールを展開。あと1点をもぎ取ろうとBLITZは猛ダッシュするも、わずかに及ばずノートライ。ただ、「ラストゴール」への執念を示し27-19で試合を折り返した。
今大会でBLITZが目標に掲げたのは、「ラストゴールをすべて取る」こと。得点パターンがトライによる1点のみ、かつ、オフェンス側が有利とされる車いすラグビーにおいては、各ピリオドの最後にスコアすることがとても重要だ。仮に次のピリオドが自分たちの攻撃から始まれば、さらに1点を追加することができ、相手ボールからのスタートだったとしても、点差が広がることはない。こと接戦ともなれば、ラストゴールが勝敗のカギを握るだけに大事なポイントではあるが、今回、BLITZが「優勝」や「連覇」といった結果にコミットする目標ではなく、「ラストゴール」をコンセプトにした意図はどこにあったのか。キャプテンの小川はこのように語った。
「前回は『優勝』という結果しか目標がなかった、内容としての目標があまりなくて、何か数値化できるものをと考え、取れたか取れなかったか、見てはっきり分かる『ラストゴールを取る』をチームの目標として立てた」その意識を全員が決勝の舞台でも持ち、ここまで第1、第2ピリオドのラストゴールを確実に収めた。
チーム設立20周年を10度目の優勝で飾る
高いキャプテンシーを発揮しコートの中でも外でも存在感を示した小川仁士(右)が大会MVPを獲得した
迎えた後半。BLITZは、今シーズン加入の日向顕寛と、荒武優仁が入るラインナップへとメンバーを替えた。点を取り合う展開が続く中、さらりと身を翻し鮮やかにトライを決める、池 透暢の個人技に目を奪われる。すると、チームスポーツだということを再認識させるかのように、BLITZが連係プレーで相手の行く手を阻む。第3ピリオド終盤でFreedomが意地のターンオーバーを奪うも、じりじりと点差は開き40-30で最終ピリオドへと突入した。
どんなにビハインドを背負おうとも闘志をたやすことのないFreedom。池と白川のロングパスに必死にくらいつく畑中は、32分の試合時間のうち28分46秒もの間コートで戦い続けた。そうしてBLITZは、島川、池崎に、荻野晃一と山村泰史を加えた、平均年齢52.3歳のクロージング・ラインナップを送り込む。Freedomも国内最年長プレーヤーの和田将英がコートに現れ、両チームともに全選手が出場して試合終了。BLITZが55-42で圧勝し大会2連覇を達成、10度目の日本一に輝いた。
ラストトライを決めた島川は、「2005年1月にこのチームを立ち上げて、来月で20年。そういう節目の年に優勝できるチームになったことがうれしい。これにおごらず、しっかり強くなって3連覇を目指したい」と喜びを口にした。
そして大会MVPを獲得したのは、キャプテンの小川仁士。第1回大会から日本選手権に出場する島川によると、ローポインターがMVPを授賞するのは史上初だという。小川は「率直にうれしい。ローポインターが目立つことは少ないが、コートの中ではもちろん、コート外でも指示を出しながら自分の役割をしっかりと実践できたことが受賞につながったのでは」と穏やかな笑顔で語った。
誰よりも“日本一"に情熱を燃やした橋本勝也
「チームを優勝に導きたかった」と悔しさをにじませ、リベンジを誓った橋本勝也(右)
決勝に先立ち行われた3位決定戦は、パリ金メダリストの中町俊耶と橋本勝也を擁するTOHOKU STORMERS(東北)と、乗松聖矢と草場龍治が所属するFukuoka DANDELION(福岡) による一戦となった。
国内屈指の鉄壁のディフェンスとハードワークを誇るDANDELIONに対し、STORMERSはキーディフェンスを多用し、相手の強みを出させない戦い方で立ち向かう。オフェンスでは、橋本の突破力あふれるトライに、中町のスマートなロングパス、そして、ベテランの経験を活かした庄子 健の連係で、STORMERSが終始優位な展開で試合を運び、51-45で勝利を収めた。
STORMERSは2017年の創部1年目から6回の日本選手権出場を果たし、4大会連続(新型コロナの影響により中止となった大会を除く)での表彰台となった。しかし試合終了後、首を横に振った副キャプテン・橋本に笑顔が訪れることはなかった。
「世界一と日本一を獲る年にしたい」と臨んだ今大会。Freedomとの準決勝に破れ、日本一への道が閉ざされた悔しさはあまりにも大きかった。その悔しさを消化しきれないまま、3位決定戦を迎え、やるべき役割は果たしたが、心は晴れなかった。「勝った試合だけれども、こんなに悔しさが残るのは初めて。東京パラリンピックの3位決定戦と同じくらいの悔しさが残る大会だった」と硬い表情で語り、リベンジを誓った。
パラリンピックにも負けない情熱、あるいはそれ以上の熱量が渦巻いた車いすラグビー日本選手権。次回こそは、王者BLITZを倒すチームが現れるのか。すでにそんな期待と楽しみすら抱かせる大会となった。世界を目指す、車いすラグビーで人生を謳歌する、たくさんのタレントに出会える国内大会に、ぜひとも注目してほしい。
【最終順位】
優勝 BLITZ(東京)
準優勝 Freedom(高知)
3位 TOHOKU STORMERS(東北)
4位 Fukuoka DANDELION(福岡)
5位 AXE(埼玉)
6位 RIZE CHIBA(千葉)
7位 WAVES(大阪)
8位 Okinawa Hurricanes(沖縄)
【個人賞】ベストプレーヤー賞
クラス0.5 倉橋香衣(AXE)
クラス1.0 草場龍治(Fukuoka DANDELION)
クラス1.5 月村珠実(RIZE CHIBA)
クラス2.0 朴 雨撤(Fukuoka DANDELION)
クラス2.5 青木颯志(AXE)
クラス3.0 池 透暢(Freedom)
クラス3.5 橋本勝也(TOHOKU STORMERS)
【大会MVP】 小川仁士(BLITZ)
(写真・湯谷夏子、玉城萌華/ 文・張 理恵)
【車いすラグビー】
四肢麻痺など比較的障がいの重い人でもできるスポーツとして考案された男女混合の競技。1チーム4人で、8分間のピリオドを4回行い、その合計得点を競う。バスケットボールと同じ広さのコートでプレーし、球形の専用ボールを使用する。ボールを持った選手の車いすの車輪2つが、敵陣のトライラインに乗るか、もしくは通過するかで得点が認められる。
選手には障がいの程度に応じて持ち点があり、障がいが重い方から0.5~3.5までの7クラスに分けられている。コート上の4人の持ち点の合計は8点以内。ただし、女子選手が含まれる場合は1人につき0.5点の加算(上限は2.0点)が認められている。
「ラグ車」とも呼ばれる競技用車いすは「攻撃型」と「守備型」の2種類ある。主に障がいが軽い選手が乗る「攻撃型」は、狭いスペースでも動きやすいようにコンパクトな作りになっており、相手の守備につかまらないように凹凸が少ない丸みを帯びた形状となっている。一方、主に障がいが重い選手が乗る「守備型」は、前方に相手の動きをブロックするためのバンパーが付けられている。
パラリンピック競技で唯一、車いすによるタックルが認められており、「マーダー(殺人)ボール」という別名がつくほど、激しいプレーの応酬が魅力の一つ。その激しさは、ボコボコに凹んだ車いすのスポークカバーを見れば一目瞭然だ。