天皇杯 第50回記念日本車いすバスケットボール選手権大会

得点力に磨きをかけた神奈川VANGUARDSが3連覇を達成！

1月31日～2月2日、東京体育館では「天皇杯 第50回記念日本車いすバスケットボール選手権大会」が開催され、全国から予選を勝ち抜いた16チームが熱戦を繰り広げた。神奈川VANGUARDSと埼玉ライオンズという前回大会と同一カードとなった決勝は、1Qからリードした神奈川が、2Q以降も埼玉を引き離すかたちで61－41で勝利。チーム初の3連覇を達成し、MVPにはこの日26歳の誕生日を迎えた鳥海連志（2.5）が輝いた。

引き離したい神奈川、食らいつく埼玉の攻防

前回大会の決勝はともに40点台というロースコアのゲームとなった。神奈川はその反省を踏まえ、この1年間は得点力アップにほとんどの時間を費やしてきたという。そのなかでチームがテーマとしてきたのは「3ポイントシュート」と「インサイド」。決勝のスタートは、その成果を見せつけるかのような怒涛の攻撃で埼玉の出鼻をくじいた。試合開始早々に古澤拓也（3.0）の3ポイントで先制すると、埼玉のターンオーバーから速攻で古澤がレイアップを決め、さらには髙柗義伸（4.0）がゴール下のシュートで得点。わずか1分半で7－0とした。

一方、埼玉は「One Possession」というテーマを掲げ、一つ一つのプレーを大事にして神奈川とのリベンジマッチに臨んでいた。最大の得点源である大山伸明（4.5／健常）とキャプテン北風大雅（4.5）のハイポインター2人は、ダブルチームでプレッシャーをかける神奈川の徹底的なマークにあうも、その苦しい状況を打開しようと移籍1年目の熊谷悟（3.5）が発奮。ノーマークの状態にお膳立てしてくれた味方の期待に応え、連続でミドルシュートを決めて神奈川に引き離されまいと食らいついた。

すると、熊谷とは長い間、長野WBCでプレーしてきた“元相棒"でもある神奈川の丸山弘毅（2.5）が負けじと、この試合自身のファーストショットだった3ポイントをショットクロックのブザーとともに鮮やかに決め、再び7点差に。前回大会まで3ポイントはほとんど打っていなかったという丸山。1年間磨いてきた成果を決勝の舞台で見せた。

後半は両者ともに一歩も譲らず、終盤にはいずれも24秒バイオレーションを奪いあうなど、互角の戦いが繰り広げられた。16－10と神奈川リードも、まだ流れは引き寄せきれておらず、勝負の行方はわからなかった。

埼玉の勢いを加速させなかった4Qでの神奈川の決断

2Qはファウルやターンオーバーでリズムをつかみ切れない埼玉に対し、神奈川はペイントエリアで確実に得点を挙げ、29－16とリードを広げた。ただ神奈川にとっても納得のいくゲームができていたわけではなかった。こだわり続けてきた3ポイントは、1Qの出だしこそ古澤、丸山が決めたものの、その2本にとどまり、前半を終えた時点で11分の2と成功率は18.2％と低迷していた。

一方、埼玉は3Qで大山が本領を発揮した。ペイントエリアに近づくと、すぐさまダブルチームでくる神奈川の鉄壁な守備に、前半は思うように得点を挙げられずにいた大山。しかし、ペイントエリアにダイブした古川諒（1.0）を盾にしてインサイドに入ると、一度古川がキックアウトしたボールを北風がベースラインにディフェンスを引きつけてから大山にパス。これを大山がしっかりと決めるという見事な連携プレーで会場をわかせた。さらにこの試合チームで唯一となった3ポイントを決めるなどした大山の活躍もあり、3Qは13－12と埼玉が神奈川の得点を上回った。

すると4Q、神奈川は大きな決断した。「一貫性」を一つのテーマとしてきた神奈川だったが、3Qまで3ポイントは11.8％と低迷し続けていた。そこで4Qはミスマッチを狙い、ゴールに近いエリアでのシュートを優先した。結果的には、それが奏功した。それまでも2ポイントシュートやフリースローは高確率に決めていただけに、より攻撃力が増す結果となり、4Qは20得点。埼玉を一気に引き離した。

埼玉も古川が、4Q最初のシュートを決めれば、中盤には財満いずみ（1.0）がインサイドでノーマークのチャンスを逃さず、連続得点。まさにテーマとしていた“ワンプレーの重み"を象徴するかのように、ローポインターが貴重な得点を挙げるなどして最後まで粘り強く戦い続けた。

しかし、終盤は神奈川の独擅場となった。追加点を挙げられない埼玉に対し、神奈川は手を緩めることなく得点を量産。最後はチーム最年少20歳の渡辺将斗（4.0）のシュートで締め、61－41で勝利を収めた。

課題を残しながらも確実に得点力アップした神奈川の強さ

全4試合を通して、攻防にわたってまさに日本一の戦力で、チーム初の3連覇を達成した神奈川。しかし、決して満足はしていない。今の神奈川は勝ち方にこだわりを持つ。アシスタントコーチを兼任し、戦略を担当する鳥海は「3連覇をしたことには安心したが、課題が残った決勝だった」と振り返り、3ポイントシュートについて「最後までやり切らなかったという部分では悔しかった」と語った。

それでも前回の決勝では29.6％だった2ポイントシュート、またフリースロー（FT）は27.8％だった成功率が、今年の決勝では2ポイントは48.0％、FTも41.2％と高い数字を残した。また3ポイントにおいても、全3試合で古澤の1本だった前回大会とは異なり、今大会では全4試合で17本、毎試合決めた古澤を筆頭に、鳥海や丸山も名を連ねた。

今では無敵を誇る存在となった神奈川。今大会の結果は、その象徴でもあった。しかし、今大会でMVPを獲得した鳥海は来シーズンはすでにヨーロッパのリーグに挑戦する意向を表明している。天皇杯の開催時期に大きな変更がなければ、ヨーロッパはリーグ戦が佳境を迎えているタイミングだけに、鳥海が天皇杯に出場する可能性はほぼない。それでもリモートでチームと共有しながら引き続き戦略を担当するという鳥海は「神奈川へのチーム愛は変わらない」と語り、「（4連覇してくれると）チームを信頼している」と語る。果たして、新体制の下、神奈川はどんなチームを作り上げるのか。

もちろん、そのほかのチームも移籍や若手の加入、成長などでチームの状態が変わる可能性があり、来シーズンの勢力図は未知と言っていいだろう。神奈川が日本一の座を守るのか、それとも牙城を崩すチームが出現するのか。2025年も日本の車いすバスケットボール界から目が離せそうにない。

（文・斎藤寿子／撮影・中島功仁郎）
【最終順位】
優勝：神奈川VANGUARDS
準優勝：埼玉ライオンズ
3位：NO EXCUSE
4位：富山県車椅子バスケットボール
5位：ワールドバスケットボールクラブ、伊丹スーパーフェニックス、長野車椅子バスケットボールクラブ、SAGAMIFORCE、
9位：千葉ホークス、sikoku88、SEASIRS、神戸STORKS、ライジングゼファーフクオカWheelchair、バダーズ函館元町ライオンズ車椅子バスケットボールクラブ、岡山ウィンディア、宮城MAX

【サントリーやってみなはれスピリッツ賞】
財満いずみ（埼玉ライオンズ #20）

【三菱電機 Change for the Better賞】
久我太一（埼玉ライオンズ #25）

【オールスター5】
クラス1：岩井孝義（富山県車椅子バスケットボールクラブ #26）
クラス2：古崎倫太郎（富山車椅子バスケットボールクラブ #91）
クラス3：古澤拓也（神奈川VANGUARDS #7）
クラス4：朏 秀雄（NO EXCUSE #41）
MVP：鳥海連志（神奈川VANGUARDS #2）