2025ジャパンパラ車いすラグビー競技大会

車いすラグビー日本代表がパラリンピック後初の国際大会で優勝！

2月6～9日、「2025ジャパンパラ車いすラグビー競技大会」が千葉ポートアリーナ（千葉市）で開催され、パリ・パラリンピックを沸かせた強豪4か国が熱戦を繰り広げた。フル代表で臨む大会としてはパリ・パラリンピック後初の国際大会となった今回、日本は予選ラウンドから決勝まで貫録の強さを見せつけ優勝を果たした。

ベテランと若手の融合で強化を図る日本代表

今大会には、世界ランキング1位（※）の日本をはじめ、オーストラリア（同2位）、フランス（同4位）、イギリス（同5位）の世界トップランカーが集結した。（※2024年10月12日時点）日本はパリ・パラリンピック代表7名、そして、フル代表レベルの国際大会に初出場する2名を含む12名のメンバーで臨んだ。中谷英樹ヘッドコーチは「若手とベテランが組んで世界の強豪国に対してどれだけ戦えるか」が今大会のテーマだと話し、「1試合１試合、いい内容のプレーをして勝ちにつなげることが目標」と語った。

試合は、4チームによる総当たり戦を2回行う予選ラウンドの後、上位2チームが決勝戦に進む方式で実施された。フランスとの初戦。日本は序盤からターンオーバーを重ねてリードを奪い、後半には、チーム最年少の青木颯志と月村珠実の日本代表デビュー組もトライを挙げ、50-46で白星発進。その後も、パラリンピック金メダリストのプライドと実力を示すかのように、相手を寄せつけない戦いぶりで次々と勝利を収めた。

しかし、5試合目となったイギリス戦では苦しい展開を強いられた。それまでの4試合とは違うラインナップをスタメン起用した日本は、立ち上がりでターンオーバーを連続で許すと、追いついては引き離され、多くの時間帯で2点ビハインドを背負う。第4ピリオド終盤まで劣勢が続くなか、意地を見せつけたのが、草場龍治―乗松聖矢―中町俊耶―橋本勝也の“ダンデ・ストーマーズ"ライン（※）だ。
（※福岡ダンデライオン：草場・乗松、東北ストーマーズ：中町・橋本）

ピリオド残り3分38秒、46-48の場面でコートに登場すると、中町のトライで1点を返し、イギリスの得点後、橋本がターンオーバーから連続トライを決め同点。乗松と草場は、代名詞であるハードワークでイギリスの攻撃を封じ込め、40秒バイオレーションを奪い取る。残り1秒で橋本がラストゴールをもぎ取って51-51とし、今大会初の延長戦へと突入した。手に汗握る攻防に、会場も熱気を帯びる。延長ではイギリスが先に得点するも、司令塔である池 透暢のもと統率のとれた連係で2つのターンオーバーを奪い、56-55で大接戦を制した日本は開幕5連勝とした。

その激闘からわずか1時間半後に行われた、フランスとの予選ラウンド最終戦。両チームともに、ハイポインターとローポインターが2人ずつ入るラインナップでスタートすると、フランスが序盤からがっちりと主導権を握る。日本は、自分たちのペースを取り戻せないまま第1ピリオドで6点のビハインドを負い、リズムを変えようといくつものラインナップを送り込むも点差は埋まらず、21-26で試合を折り返す。後半、どんよりムードが続くなか、31-35の場面で“ダンデ・ストーマーズ"ラインが再び登場すると、わずか2分の間に2点差まで追い上げ、プレーでチームを奮い立たせる。最終ピリオドでついに1点差にまで詰め寄り、逆転も見え始めた日本だったが、フランスが逃げ切って48-50で試合終了。今大会初黒星を喫し悔しさをにじませるも、5勝1敗で決勝へと駒を進めた。

パリ・パラリンピック後初の国際大会を優勝で飾る

フランス（予選ラウンド5勝1敗）との決勝戦。
日本のスターティング・ラインナップは、パリでの金メダル獲得に大きく貢献した、倉橋香衣―乗松―池―橋本。パラリンピック準決勝（対 オーストラリア）で延長戦のスタートは務めたが、これまでスタメンに起用されることはなかった。ただ、この采配が光った。池がティップオフを制すると、開始から2分余りでたちまち6-2と大きくリード。立ち上がりから抜群の安定感でリズムをつかんだ日本は、相手に1度もターンオーバーを取られることなく29-25で前半を終了した。

フランスは懸命に追い上げを図るが、後半も日本は自分たちのラグビーに集中した。経験豊富なベテランたちは、これまで積み上げてきたJAPANのチームプレーをコートで体現。培ってきた連係に加え、各ピリオド終わりには、今後に向けた果敢なチャレンジまで見せ、51-48でノーサイド。日本はパリ・パラリンピック後初の国際大会で優勝を果たし、ロス大会での連覇に向け好スタートを切った。
中谷ヘッドコーチは、「大会を通していろいろな選手、いろいろなラインナップを試し、結果として優勝することができて満足している。パラリンピックからメンバーの半分を入れ替えて臨むなか、強豪国との対戦ということで不安もあったが、初戦がすごくよくて、選手たちが自信を持ってプレーしているのが見られた。それがいい流れを生み、優勝という結果につながった」と喜びを語った。

そして、今大会で乗松とともに共同キャプテンを務めた橋本は、「大会前のミーティングで、しっかりと自分たち主導の、偶然起きたプレーではなく自分たちが必然的に起こしたプレーを多くやっていこうとチームに伝えた。試合を重ねるごとに、チームとして求めていたディフェンスが機能したり、オフェンスもスムーズになってきて、優勝できたこともうれしいが内容もよかった」と充実した表情を見せた。

今年1月、車いすラグビー国際ルールの一部が変更

車いすラグビーでは今年1月1日に国際ルールの一部変更が行われ、新ルールのもと開催される初めての国際大会として大きく注目された。変更点をいくつかを挙げると、これまでボールを保持している選手は「10秒以内」にドリブルまたはパスとしていたところ、「8秒以内」に変更。また、インバウンドに要する時間や、キーエリア内に攻撃側の選手が留まれる時間も、10秒から8秒へと短縮された。加えて、ファウルを起こした選手がペナルティーボックスに入る時間は「60秒→30秒」に変更された。

さらに、タイムアウトに関するルールでは、車いすラグビーの特色的なルールだった、コート内の選手が要求できる「選手タイムアウト（30秒）」（×4回）を廃止。ベンチからコーチが要求できる「コーチタイムアウト（60秒）」のみとなった（前半・後半 各3回。旧ルールでは前後半2回まで）。

車いすラグビーの国際統括団体であるWWRによると、今回のルール変更におけるベースには「ターンオーバーを増やす」、「ディフェンスの価値を上げる」といった考えがあるという。これまでのルールでは、オフェンスの成功率がとても高く、例えばディフェンスのプレッシャーを回避するために「選手タイムアウト」がしばしば使われていた。「選手タイムアウト」の廃止によって、ディフェンスの価値が高まるほか、フルコートにわたる、よりダイナミックな戦術が促されるのでは、とWWRは予測している。

また、女性選手がコートに入る場合の持ち点の合計ポイントや、ピリオド残り1分を切ってコールされるタイムアウト取得時のルールなども加わり、勝敗を分ける大事な場面で、今回のルール変更による影響が出るはずだ。実際、今大会中にも、インバウンドからフロントコートへとボールを運ぶシチュエーションでタフな状況が多く見受けられた。
ただ、試合を終えた池 透暢からは「ルールが変わり、今までとはやり方を変えないとうまくいかない場面もあるが、その点に関しては（新ルールを開拓、攻略していく）『面白さ』というのが、僕の中にもチームの中にもある。やりながら楽しいなと感じている」と、変更ルールにアジャストする難しさよりも、ポジティブな声が聞かれた。

ロスに向け新たなスタートを切った、車いすラグビー日本代表。
今年の大きなターゲットとなるのは、来年行われる世界選手権の出場権をかけた「アジア・オセアニア選手権」（11月・タイ）だ。新ルールに適応しながら、日本がどんなラグビーを見せていくのか。今後の戦いに注目だ。

【2025ジャパンパラ車いすラグビー競技大会　結果】
優勝　　日本
準優勝　フランス
3位　　イギリス
４位　　オーストラリア

【試合結果（日本戦）】
（2/6）フランス ● 46–50 ○ 日本
　　　　オーストラリア ● 46–57 ○ 日本
（2/7）日本 ○ 59–53 ● イギリス
　　　　日本 ○ 63–49 ● オーストラリア
（2/8）日本 ○ 56–55 ● イギリス
　　　　日本 ○ 48–50 ● フランス
（2/9）＜決勝＞ 日本 ○ 51–48 ● フランス

（写真・菅澤一生／ 文・張 理恵）