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2025年4月26日

第36回日本パラ陸上競技選手権大会【1日目】

パラ陸上、ロスに向け新たなシーズンが本格スタート!~「第36回日本パラ陸上競技選手権大会」(1日目)~

アジア記録を更新し、華麗な走りを見せた兎澤朋美 | パラ陸上、ロスに向け新たなシーズンが本格スタート!~「第36回日本パラ陸上競技選手権大会」(1日目)~|第36回日本パラ陸上競技選手権大会【1日目】 | Glitters 障害者スポーツ専門ニュースメディア

アジア記録を更新し、華麗な走りを見せた兎澤朋美

4月26日、「第36回日本パラ陸上競技選手権大会」がニンジニアスタジアム(愛媛県松山市)で開幕した。
3年後のロサンゼルス2028パラリンピックに向け、新たなシーズンが本格的にスタートし、大会初日は、日本パラ陸上競技連盟が先月発表した「挑め未来!」のスローガンのもと、多くの挑戦が見られる幕開けとなった。

トラック種目では、女子(義足・機能障がい)100メートルT63で、兎澤朋美(富士通)が15秒55のアジア新記録をマークした。兎澤はこの日が今季初戦で、まずは無事に試合をすることを考えていたというが、ゴールした瞬間、思わず笑みがこぼれた。同種目では2021年以来の自己ベスト更新となり、「ほっとしている」と率直に心境を述べた。
冬季トレーニングでは、ベースを持ち上げるため、スタートと、後半20メートルの上体のブレといった課題に取り組んだと語る。大腿義足の兎澤は、ブレードを使ってスタートすることに恐怖心があり、それを取り除こうと、例年のシーズンオフよりも、スタートの練習本数を多くこなしたという。また、ブレの修正に向けては、体幹をただ強くするだけでなく、スプリントや跳躍の動作につなげることを意識しながら、今ある体幹を活性化させるエクササイズを取り入れた。
それが、シーズンインで記録という形で表れ、「まだまだ完成形ではなく現在進行形で解決している途中だが、方向性は間違っていないのかなという確認ができてよかった」と、手応えをにじませた。
シーズン終盤(9月26日~10月5日)には、「ニューデリー2025 世界パラ陸上競技選手権大会」が開催される。兎澤はそこを見据えながら、徐々にパフォーマンスを上げるつもりだ。

力強い走りでトラックを駆け抜ける福永凌太 | パラ陸上、ロスに向け新たなシーズンが本格スタート!~「第36回日本パラ陸上競技選手権大会」(1日目)~|第36回日本パラ陸上競技選手権大会【1日目】 | Glitters 障害者スポーツ専門ニュースメディア

力強い走りでトラックを駆け抜ける福永凌太

男子400メートルT13(視覚障がい)には、パリ・パラリンピックの同種目で銀メダルを獲得した福永凌太(日本体育大学大学院)と100メートル(T13)の銅メダリスト・川上秀太(アスピカ)、2人のパラリンピックメダリストが登場。川上がパラ陸上の大会で400メートル種目にエントリーするのは初めてということで、豪華な競演が実現した。
スタートでは川上が勢いよく飛び出すも、最初のコーナーを過ぎたあたりで、福永が大きなストライドでぐんぐんと加速し、貫録の走りを見せ49秒31でフィニッシュ。川上は後半タイムを落としたものの、51秒13のタイムでゴールした。

福永はレースを終え、今シーズンの目標について、世界選手権でのメダル獲得と、今年度に卒業を迎える大学院との両立と語った。そして、ロス2028大会への思いを聞かれると、胸の内をこう語った。
「パラ陸上を始めてからパリ・パラリンピックまでのモチベーションに比べると、そこまでの熱量は、いま持てていない。ただ、ずっとその熱量でいくのもいいとは思わないし、年齢を踏まえても、だらだらしていたいという気持ちは全くない。自分のやる気をあげてくれるような、いろいろなことに挑戦していこうと思っている」
他の競技もやってみたい、ある程度のところまで行けるだろうという確信のもと、ローイング(ボート)や自転車競技の体験もしたという福永。陸上という基盤をしっかり据えながらも、「パラサイクリングでもロスを狙っていきたい」と、高みを目指す覚悟を口にした。

一方、短距離の100メートルをメイン種目とする川上にも、明確なビジョンがある。川上のフィールドはパラ陸上にとどまらず、健常者の大会にも精力的に出場している。ロス・パラリンピックでのさらなる飛躍を見据えながらも、目標はそれだけではない。「ロスでは金メダル獲得を目標にしているが、そこにすべて焦点を当てているかといえば、そうではない。参加標準記録を切って、健常者の日本選手権にも出たいという気持ちがある。パラリンピックと、日本のトップの大会、その両方で走れるような選手になりたい」。今シーズンは、自己ベスト(100メートル、10秒61)を更新し、世界パラ陸上でのメダル獲得を狙う。

大会2日目には、100メートル(T13)で再び福永と川上の競演が見られる予定だ。
川上は、「福永選手は同じT13クラスの日本代表として(昨年行われた)神戸での世界選手権とパリ・パラリンピックを一緒に戦った仲間。お互い高めあっていけるような関係であれば」と、切磋琢磨する仲間への思いを語った。

石山大輝、地元愛媛で圧巻のパフォーマンスを見せ、走幅跳を制覇 | パラ陸上、ロスに向け新たなシーズンが本格スタート!~「第36回日本パラ陸上競技選手権大会」(1日目)~|第36回日本パラ陸上競技選手権大会【1日目】 | Glitters 障害者スポーツ専門ニュースメディア

石山大輝、地元愛媛で圧巻のパフォーマンスを見せ、走幅跳を制覇

フィールド種目では走幅跳・男子T12(視覚障がい)のクラスに、パリ・パラリンピックで日本選手団の旗手を務めた石山大輝が出場した。
愛媛県松山市出身の石山は、今大会が行われている競技場で13歳の頃から40回くらい試合をしたことがあると話し、「地元の応援もあってすごくいい雰囲気で楽しく試合ができた」と、シーズンインとなったレースを、声を弾ませ振り返った。

記録は1本目で出した6メートル79と、自己ベストには及ばなかったが、この日の6回の跳躍では、助走、踏み切り、空中姿勢のつなぎ等、多くのことを試したという。なかでも助走は、次につながる感触をつかんだようだ。
新社会人として迎えた初レース。会場には「見えない世界を跳んで魅せる!」と書かれた名前入りの横断幕も掲げられ、それを体現するかのように、モチベーション高く新たなシーズンに臨んだ。
その原動力のひとつが、世界の大舞台で経験した悔しさだろう。
「昨年は神戸の世界選手権で自己ベストが出たが、パリではこけてしまった。初めての大舞台で活躍することができなかった。このまま終わらせたら、パリの負けは意味のない負けになってしまう。ただ、次のロスで勝てれば、それは意味のある負けになる。負けで終わらせないために、勝ちにつなげたい」

その意志を有言実行するため、自身の課題とするフィジカル強化にも積極的に取り組む姿勢だ。
「しっかりこだわって社会人1年目のシーズンを過ごし、今年の世界選手権で、まずは世界一を取りにいきたい」
地元で大きなパワーを蓄えた石山がどんな活躍を見せるのか期待だ。

パラカヌーから競技転向し、陸上でも世界を目指す小松沙季 | パラ陸上、ロスに向け新たなシーズンが本格スタート!~「第36回日本パラ陸上競技選手権大会」(1日目)~|第36回日本パラ陸上競技選手権大会【1日目】 | Glitters 障害者スポーツ専門ニュースメディア

パラカヌーから競技転向し、陸上でも世界を目指す小松沙季

そして、大会1日目に大きな話題を呼んだのが、やり投・女子F54(座位)に出場した小松沙季だ。
小松は、カヌー競技で東京、パリの2大会連続でパラリンピックに出場。パリ・パラリンピックを終え、競技の転向を決めた。
「カヌーと両立する選択肢もあったが、どうせやるならメダルを獲りたい。中途半端にならないようにやり投げに専念した」
新年度のパラカヌー日本代表を選考する、今年3月の選考会に参加するか悩んでいた頃、クラス分けの相談会があり、そこで(陸上で)クラスがつきそうだと話をされたことで心を決めた。

指導者がまだいない中、今大会に向けてなんとか準備を進めた。
「初めてのことばかりで、全部が勉強だった」。デビュー戦の感想をこのように語った小松だが、1投目で14メートル66をマークすると、無効となった試技を除けば、4投すべてで12メートル以上を記録した。今秋インドで開催される世界選手権の参加標準記録は15メートル04で、世界の舞台まであと38センチと、大きなポテンシャルを示した。
「試合勘も分かって考えることも増えたので、今後に向けていい材料になった。6月に行われる『ジャパンパラ陸上競技大会』で世界選手権の標準記録をクリアしたい」
初シーズンにして世界への切符をつかみ取る決意をにじませた小松。パラ陸上に現れた新星の活躍を大いに期待したい。

261名の選手がエントリーしている、パラ陸上日本選手権。
大会2日目にはどんな記録、どんなドラマが生まれるのか。未来に挑む、アスリートたちのチャレンジに注目だ。

(写真・鈴木奈緒、玉城萌華 / 文・張 理恵)


【記録一覧】

●アジア新記録
女子T63 100m 15秒55 兎澤朋美(富士通)
女子F20 砲丸投 12m81 堀玲那(WORLD-AC)

●日本新記録
男子T20 400m 49秒42 臼木大悟(KAC)
男子T37 400m 58秒22 楠見涼介(びわスポ大学)
男子T36 走幅跳 5m09 松本武尊(ACKITA)
男子F62 砲丸投 5m93 久多良木隆幸(井野辺病院)
女子T52 100m 19秒87 西村柚菜(関東パラ陸協)
女子F57 円盤投 11m92 妻鳥和恵(愛媛ランナーズ)

●大会新記録
男子T 34 100m 15秒80 古畑篤郎(アルケア)
男子T52 400m 55秒22 佐藤友祈(モリサワ)
男子F32 こん棒投 21m26 井上流生(CHAXパラAT)
女子T20 400m 59秒81 菅野新菜(みやぎTFC)
女子T52 400m 1分10秒90 西村柚菜(関東パラ陸協)
女子F57 やり投 10m88 妻鳥和恵(愛媛ランナーズ)


【陸上】
 一般の陸上競技と同じく、「短距離走」「中距離走」「長距離走」「跳躍」「投てき」「マラソン」と多岐にわたった種目が行われる。
 障がいの種類や程度に応じて男女別にクラスが分かれ、タイムや高さ、距離を競う。選手たちは、「義足」「義手」「レーサー」(競技用車いす)など、それぞれの障がいに合った用具を付けて、パフォーマンスを磨いている。
 用具の進化によって、選手のパフォーマンスが上がっていることは事実だが、決して用具頼りの記録ではない。用具を使えば技術が上がるわけではなく、選手には使いこなすだけの身体能力、筋力、バランスなどが必須となる。
 視覚障がいのクラスでは、選手に伴走する「ガイドランナー」や、跳躍の際に声や拍手で方向やタイミングなどを伝える「コーラー」などといったサポーターの存在も重要となる。選手とサポーターとの信頼なくしては成り立たず、息の合ったやりとりはふだんの練習の賜物でもある。
 クラスによっては、オリンピックにも劣らないレベルの記録が出るなど、時代とともにレベルが高くなっており、毎大会トップ選手の記録更新が注目されている。多種多様な障がいの選手が一堂に会し、さまざまな工夫を凝らし、自分自身の限界に挑む姿が見られるのが、この競技の魅力でもある。

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